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ファイル14孤児と盗まれたパンー前編ー

よろしくお願いいたします。

 王立図書館を出たアイリーンとマギーは、ぶらぶらと買い物や散策を楽しむために平民街まで足を延ばしていた。


「次はあの店に行きたいわ! 後はスイーツも見に行きましょ」

「お店は逃げませんから、足元に気を付けないと転びますよ」

 マギーに注意されたアイリーンは、ぷくっと膨れて見せる。

「もう! 子供じゃないもの。分かってるわよ」


 購入したショップバックを持っているマギーは、店舗を見ながらあちこちに動くアイリーンを追いかける。

 飲食店が立ち並ぶエリアに入った二人は、前方の店先に人だかりが出来ていることに気付いた。


「ん? 何かしら?」

「どうやらパン屋の前で揉めているようですね」

「行ってみましょう!」

「気を付けてくださいね」


 アイリーンは心配そうなマギーを連れて、人だかりをかき分ける。

 一番先頭まで来た二人は、パン屋の前に小汚い格好の子供達と、パン屋の女店主らしい人がいるところを見た。

 店主が子供達に怒鳴っているようだ。手には、丸めた新聞紙を持っている。


 十歳に満たないであろう少年と、五歳ぐらいの女の子。少年は女の子を後ろに庇う形で、パン屋の女店主と対峙している。

「アンタたち! いい加減にしなよ! まだ認めないのかい」

「違うよ! 僕たち盗んでないんだ!」


「正直に言うなら許してやるって言ってんだよ! なんでまだ嘘を吐くんだい!?」

「だから、違うって言ってんだろ! このおばさん!!」

「おばっ! 誰がおばさんだ!」

 熱くなった店主が新聞紙を振り上げ、子供たちが叩かれると思い咄嗟に目をつぶった時だった。


「あの~少しよろしいかしら?」

「ちょ!」

 マギーの制止も聞かず、アイリーンが店主に声を掛けた。


「ん? 何だいアンタ」

「子供たちがやった証拠はあるの? 私、探偵をしているのだけど、犯人が彼らなのか推理して見せるわ。あ、マギー、野次馬の皆さんをその場にとどめておいてくれる?」

「分かりました。協力できる方を探して対応します。お気をつけて」


 マギーはそっと輪を抜け、任務に取り掛かる。

 アイリーンは店主に向き直り、次いで子供達を見る。

「なんだか知らないけど、ホントのことが分かるって言うなら、アタシは構わないよ」


「君たちも構わない?」

「いいよ! 俺たちはやってねえもん!」

「では捜査を開始しますね」


 アイリーンは状況を掴むため、双方に詳しい話を聞くことにした。

「状況整理のために、何があったか詳しく教えていただけますか?」

「ああ。構わないよ」

 女主人はここまでのいきさつを話してくれた。


「ふむ。要約すると、ご主人は先ほど、店先にあった焼きたてのパンが二つ消えたことに気付いた。で、丁度前にいたのがこちらの二人」

「そうだね。私も鬼じゃないからね。二人を見て可哀想だから、あげると言ったんだよ。その代わり盗みはダメだと」

「でも、彼は盗んでないと言った、ということですね。貴方達は、この街の子?」


 アイリーンは少年と少女を見た。衣服は汚れ、擦り切れて、満足な生活ではないことが想像できる。

 このフォグラード王国は豊かではあるが、残念ながら全ての人が満足な暮らしを送れているわけではない。

 少ないながらも、彼らのような浮浪児がいるのである。


「俺はニック、こっちは妹のリサ。この街のスラムに住んでる。親はいないよ」

「そう。お食事は出来ているの?」

「あんまり。でも、俺達パンを盗んだりはしてないんだ。信じてよ!」

「貴方の言い分も分かったわ。調べてみるわ」


 事情聴取を終えた彼女は、周囲の状況を確認していく。

 現場となったパン屋は、平民街の飲食区でよくあるタイプの平屋だ。

 店先に焼きたてのパンを並べ、店内に入らずとも購入できる仕組みになっている。


 ふと足元を見たアイリーンが、何かを見つけたように姿勢を低くして地面を調べ始めた。

(地面にはいろんな足跡があるわね。子供達の足跡は……あった。店に近寄った形跡はなさそうね。ん? これは……肉球の後?)

 彼女が発見したのは、パン屋へ続く肉球の足跡だった。


(屋外で、往来の真ん中だし……犬ね)

 肉球の大きさからして、割と大型の犬のようだと推測した。

(野良犬が昼間から往来の真ん中にいれば、気付かれるし、追い払われるわよね。となると――)

 アイリーンは彼女の仮説を裏付けるため、証拠となる足跡を入念に探す。


(あった。犬と同じような間隔をあけて、歩いている。つまり――)

 アイリーンが店頭に並んでいるパンを見れば、焼きたての札がかかっている。

 店主によると三十分ほど前に札を掛けて、パンを並べたらしい。

(犯行時間はパンが置かれた後、子供達が勘違いされるまでの約ニ十分の間に起こったのね)


「ねぇ、ニック。貴方達がここを通った時には、パンは全部あったの?」

「うーん。わかんない」

「……なかった。そこだけパンがなくて、目みたいでおもしろかったの」

「そうなのね。ありがとう、リサ」

 アイリーンは兄に隠れながら話したリサに微笑むと、周囲の野次馬を見始める。


 そして、野次馬を見張ってくれていたマギーの元へ行き、とある指示を出す。

(さて、後は謎ときをしながら、犯人がかかるのを待つだけね)

 内心ほくそ笑んだアイリーンは、パン屋の前に戻ると、大きな声で注目を集めた。

「皆さん! 今から私がこの事件の真相をお話しますわ」


読んでいただきありがとうございました。

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