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私はフリーターである。そして開門者である。  作者: 月城 裕也
The first ~ 森 林 樹 ~
5/15

5話 街である。それは花の都。


 眠いなぁ。

 馬車に揺られても尻が痛くなるだけだと思ってた。

 思っていたけど実際に体験してみたらコロッと意見が変わる今日この頃。


 えっ? 荷車に乗るまでの話はどこにいった?

 いやぁ、ミレルさんとの出会い編で満足してもらったからもう語ることはないかなぁって。

 そんな訳ない? マジかよ、じゃあまたあの台詞を言わなきゃいけないじゃないか。


 …………少し心構えぐらいさせてくれ。

 何? さっさと話せ?

 俺にまた治りかけていたコブを再び生やせというのかこの鬼畜! 悪魔! 人でなし!!


 分かった、分かったよ。

 話せばいいんだろ? あれは――ガタッ。

 ……はっはっは。

 この道は、俺が話そうとするとコブを作ろうとしてくるね。


 なれば俺とコンビを組むか道よ?

 俺がボケで君がツッコミだ。手荒すぎてボケるのもしんどいからもう少しお手柔らかに――ガタッ……。

 OK、俺では君に釣り合わないみたいだ。潔く諦めようじゃないか。


 そうなると、俺としてはいささか残念ではあるが素直に話すとしよう。

 確か前回は自己紹介で名前を聞いたのにミレルさんの名前が偽名だったってところで終わったんだっけか。




 どうする?

 このまま見ず知らずの土地で初めて接触した現地人らしき美少女と離れるのは目の保養的に考えても嫌だ。

 嫌だけれども……この状態は俺としても非常に好ましくないんだよな。


「ミレルさん一つ質問いいですか?」

「うん、いいよ」


 奇を(てら)うならここはミレルさんのスリーサイズを聞きたいところなんだけど、大蛇が出てきそうで俺の舌はそれを言語化させてくれない。

 脳からの上位指令を拒絶するほどの危険度があると考えた方がいいのだろうか?

 ならば!


「あなたには将来を誓い合った殿方がいらっしゃいますでしょうか!?」

「……ぇ?」


 うん、完璧だ。

 年齢を聞くのも悩んだが、そういうのはある程度知り合った仲じゃないと場が凍り付くんだよ。

 某魔王の必殺技に『いてつくは○う』があるが、それじゃ現実だと委縮するだけだろう?


 でもね、現実は委縮じゃすまないんだよ。背筋が震えるぐらい冷や汗が出るんだよ。

 多分某魔法少女が使える奥義、OHANASHIレベルの威力が一番近いかもしれない。

 もし君が若いなら、バイト先で経験してみるといいぞ。そうすれば二度と迂闊に女性の年齢を聞いてはいけないことが骨身に染みるだろうから。


 さて、年齢を避けた俺はノーベ○平和賞を受賞するんではないだろうか?

 あぁ~、でも今それって問題視されているんだよね。

 だったら何もいらねぇか、いやゲーム欲しい。


 しかし、これは久々に失敗したパターンか?

 絶対に聞いてきそうにない質問から切り込んでいくつもりだったが、仮称ミレルさんがフリーズして動かなくなってしまった。

 これは家康様が顕現しちゃったかな? 俺いまだに引いたことがないから確信持てないんだけど、そのうち彼女の頭に鳥でも止まるのだろうか……。


「ミレルさん、ミレルさん。どうかなさいましたか?」


 反応がない。

 これはどうしたものか、胸を触るわけにもいかないし。

 発想が変態? 馬鹿者、男のロマンを感じるその場所に惹かれるのは当たり前だ!!


「えっと……私のことからかってる?」


 やっと、再起動していただけたみたいだ。

 危なく悪魔に耳を貸すところだったぜ。もう手遅れだって?

 言うな、それは自分が一番分かっている。


「いえ、ミレルさんのような綺麗な人は身近にいなかったものでつい口が……」

「それってやっぱり――」

「はい。ミレルさんのような綺麗な方のお相手がどのような方か聞いて、俺も自分の相手を見つける努力をしようかと」

「まだ……うん?」


 あれ~?

 なぜそこでミレルさんが首を傾げるんだ、可愛い。どうにもお互いに齟齬が発生しているように感じるのだが、あのケモミミ触りたい。

 ステイステイステイ。

 落ち着けぇ、落ち着け。誘惑に負けちゃだめだ、負けちゃだめだ負けちゃだめだ。


 ここで○○フィールドなんて作ったら俺はあっという間にゲームオーバーだ。

 目標はセンターに入れてポチポチ。

 俺の到達目標は人がいる場所までの道案内をしてもらうこと。

 さっきの会話からここが前人未踏の秘境という線は消えたのだから……真実だったらね。


「ミレルさんみたいな綺麗な人とお付き合いしている方がいらっしゃったら、これからするお願いが大変申し訳ないという気持ちでお聞きしたのですが……すいません。ちょっと遠回しでしたね」

「なんだ、それなら良くないわね。そうは見えないのだけど貴方って危ない人だったのかしら?」


 うわぁお。

 この人嫌いじゃないけど疲れるタイプだ。

 最初の偽名から首を傾げるまでが演技だと言われても屁が出るくらい驚くわ。

 やだ、お下品。


「貴方の荷車に乗せていただきたいんですけどやっぱり駄目でしたか?」

「そんなの……うん?」


 今度は首を逆に傾げる。

 かわうぃい~、間違えた。くあぁい。

 親父臭い! ……親父臭いかぁ。

 体臭は気にしてるんだけど、そんなに気になる?


「それなら見逃していただけないでしょうか? 先ほど話した通り迷い人なる身なので、無一文でございます。身ぐるみをはがされても何も差し出せるものは持ち合わせておりません」


 可愛いは正義、これは今日一日正解にしよう。

 本当は一緒に行動したい、したいが――がっつく男は嫌われるし……。

 止むをえまい、ここは素直に引き下がるとしようか。



 ……といきたかったんだけど、ライアー君。

 どうしたんだね、レイアー君?

 君にはこの不吉な音が聞こえないのかね?

 おじちゃんにはガサガサと草をかき分けてくるような音しか聞こえないのじゃが?

 それだよ! その音を聞いてなぜ何も感じないんだライア―君!

 だって猫が遊んでおるからかもしれないだろう、レイア―君?

 そんな訳あるかーー!!



「ちょっと待って、なんで私盗賊みたいに思われているの!?」


 綺麗な声が聞こえてくるが、今はそれどころじゃない。

 俺の勘がアメダスのレベルであるなら――、俺そんなにアメダス信用していないから今のなしで。

 俺の勘がお茶を注いだ時に見れる茶柱が立つレベルであるなら――、確率低っ!


 とにかく、俺の勘が囁いているんだ。

 ゴーストが来ると……台詞を間違えた。

 ゴース○が囁くんだ、青いゼリー再びって。


「もしも~し、聞いているシリス君? いい加減にしないとお姉さん怒っちゃうぞ」

「ごめん、ミレルさん。面倒ごとに巻き込んだみたい」

「それって、あそこにいるブルーゼリーのこと?」


 ミレルさんが睨む視線の先には五体のブルーゼリーが草をかき分けて姿を現していたところだった。



 ブルーゼリー

 Lv.????

 ブルーゼリー

 Lv.????

 ブルーゼリー

 Lv.????

 ブルーゼリー

 Lv.????

 ブルーゼリー

 Lv.????



 レベルって一体どうすれば解除(アンロック)されるんだよ!

 そもそも、自分の情報が一切分かっていない状態なのだからしょうがないんだろうけどさ。

 てか、そんなこと考えている場合じゃないよ!

 ミレルさんがどちら(・・・)かも分からないから罪悪感がひしひしと感じてしまう。

 俺の左足も早く逃げようと本能的に一歩後ずさる。


「あ~、なんとなく状況が読めたわね。シリス君、ちょっとその場から動かないでね」


 そう言うや否や、ミレルさんがブルーゼリーに向かって歩き出した。


「って、ミレルさん!? 何してるんですか、早く逃げないと――」


 殺されます。

 そう続けようとした言葉が、目の前で起きた現象に二の句を継げずに喉から発することはなかった。

 ミレルさんが両手を握りしめた瞬間、赤い光が瞬いて各指の付け根に関節からかぎ爪のような長い爪が生えたのだ。


 ファァアアアアーーー……ンタジィー!!

 危ない、とてつもないホームランが俺の頭上に飛んできていたから現実を拒否するところだったわ。


 魔法? 魔法かな? 魔法だよね!!

 何だよあれ!?

 モノクルで見てるけど何も表示されない。


 そして一瞬だった。

 比喩の表現とか必要のない行った動作、両の腕を一度振るっただけ。

 俺の動体視力で確認できたのはそれだけだが、次の瞬間目に見えているブルーゼリーすべてが引き裂かれて表示が消えていた。


「これでもう大丈夫かな、怪我はない?」


 突如現れた長い爪が靄になって消えると、こちらを振り向いて見惚れる笑顔でミレルさんが聞いてくる。

 ははっ、これは反則だよ。

 いくら女性と親密にならないように気を付けていてもこれで落ちないやつは男じゃない。


「あのゼリーみたいなやつらを一瞬で……、ミレルさんって強いんですね。そして助けていただきありがとういございます」


 内面はお祭り騒ぎ状態だが、助けてもらって礼もしないというのは俺の主義に反する。

 ゆえに冷静に彼女に礼を告げた。


「気にしないでいいよ、むしろ道の真ん中で倒れていた理由も分かったしね。それで一つ提案したいんだけど、私と一緒に街まで行かない?」




 とまぁ、こんなやり取りの後ミレルさんの操縦する荷車の荷台で寝転がって青空を眺めているというわけだ。大事なところが飛んだ?

 些細なことだ、この後の展開は自分で推測したまえ。

 俺としてもあの後とんとん拍子に進んで気味が悪いくらいだかな。


 分かったかね? 俺の腹の上で寝ている青い鳥よ。

 さっきまでそんな鳥いなかった?


 ミレルさんのフリーズした話ぐらいから、パタパタと降りてきて俺の腹に着地してきたんだよ。んで、その可愛らしい丸い瞳で俺を見た後すやすやと寝てしまったというわけだ。

 まったく、ホークスは仕方がないなぁ。とスルーしていたが話も終わると、この青い鳥が何なのかが非常に気になるところだ。豚じゃないからね?



 ??????(????)

 Lv.????



 当然のことながら名前を含めて何も見えませんよ、ええ。

 でも目の前ですやすやと寝られると、俺も眠くなってくるじゃないか。

 街に着くまで俺もひと眠りするとしよう。

 羊が一匹~、――パタパタ。

 羊が二匹~、――パタパタ―。


 ……勘のいい人なら今何が起きているか想像がつくだろう。

 しかし、俺はあえて触れないでそのままいくとする。

 俺はお昼寝することに決めたのだ、目の前で起きている現象は昼寝後に考えるとしよう。

 羊が三匹~、――パタパタ。

 羊が四匹~、――パタパタ―。


 数分後

 荷車に伝わる振動が変わり始めた。どうやら人の手が入った舗装された道を走り始めたようだ。

 外の景色も変わっているのだろうが何も見えない。


「お~い、シリス君。もう少しで街が見えて来るけどいつまで寝ているつも……り?」


 息を呑む気配がする。むしろ目が点になっているのだろう。

 誰が見ても同じようなことになることだろう。つか、俺が見ても腰抜かすと思うわ。

 だってそうだろう? 後ろで寝ていた青ジャージを着ていた男が、少し明るくなった青色の羽で覆われているのだから。


 しかし、こうなると俺もどういった(まゆ)になっているか気になるな。

 半妖の少年が持っている鞘で結界を張っているわけじゃないのに息は苦しくない。

 この状態でどうやって気道が確保されているのだろうか? 疑問は尽きない。


「何これ!! ちょっとシリス君、生きてる!?」


 大声に驚いたのか青い鳥が一斉に飛び立っていく。

 さらば、俺の羽毛寝具。

 快適な睡眠はこれに手終わりか。


「おはよう、ミレルさん。気持ちいい気分で寝れました。どうです、俺と一緒に寝ませんか?」

「あははっ……おはよう、シリス君。ゆっくりできたみたいで良かったわ。そして私は生涯を誓い合った人以外の男性と一緒に寝るつもりはないの、ごめんね」


 目を合わせると一瞬慌てている姿を見れたのだが、最後の一緒に寝ようという言葉で表情が消えた。

 いやぁ~……怖っ。

 どうもミレルさんは真面目気質だなぁ。素人目の俺でも肩肘張っているのが分かるから、もう少し気楽にすればいいのに。


「それは残念です。よっと、初めて見る異世界の街はどんなか気になり……」


 絶句。

 俺の記憶が間違っていなければ、俺がいた世界では汗が止まらないほど茹だる温度が代表の夏。

 しかし俺の視界に入っているものはそれを否定する。


 森を抜けた先にあったのは、地平線まで続く花びらの舞う花畑。

 花の種類は分からないが、ここまで一面の花畑はステイ○にあるラナンキュラスフィールドぐらいしか思い浮かばない。

 嫌なことをすべて忘れられるその風景は、くだらないしがらみや俗世を彼方へと吹き飛ばす。


「どうシリス君? この世界に来た人たちはこの光景を見たときにみんな呆けた表情をするの」


 ミレルさんが何か喋っているが、そんなものは後回しだ。

 荷車から御者台にジャンプして移る。


 おい、異世界。

 お前は俺たちが年齢と共に固められた常識という(くさび)を簡単に壊してくれるのか? 

 口元が吊り上がり、堪えていた何かが自然と溢れ出る。


「はは……」


 いいぜ、いいぞ。いいな、おい!!

 最高だぜ、異世界!

 退屈だった灰色な日常をここまで彩ってくれるとは。

 開門者とは何かがまだ分からない、分からないが……今この時からなってやろうじゃないか開門者。


 目の前に広がる広大な花々を決して忘れる事の無いように脳に――眼に焼き付ける。

 やっぱり目に焼き付けるのはやめようか、何を見ても花しか見えなかったら俺の頭が花畑になってしまったと思われてしまう。


―――――


 笑った。

 今まで何人かの開門者や迷い人を街まで送り届けてきたが、笑った者はこの青年が初めてだ。

 少し気になって横から彼の顔を(うかが)うと、背筋が凍った。


 私たち獣人族は他の種族とは違って死の気配に敏感だ。

 その死の気配が彼の顔、正確にはモノクルを付けた右眼から溢れている。

 まず頭をよぎるのはモノクルが呪われた道具であること。


 しかし、他にもこういった死の気配を纏う品物に心当たりがない訳でもない。

 だが彼がもし後者の方に当てはまるのだとしたら……。

 やめよう、今は彼をこのまま街に案内することが私の仕事なのだから。


―――――


 そのまま数分が経った頃だろうか。

 静かに荷車が道を走っていると、遠くに巨大な柱が見えてきた。

 否、柱じゃない。

 巨大な幹だ、○ッキーだったら顎が外れてたかもしれん。


「ミレルさん、あの街がツリークスですか?」

「そうだよ、あれがこの世界で唯一の街。ようこそ旅人さん、花の都ツリークスへ!」




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