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私はフリーターである。そして開門者である。  作者: 月城 裕也
The first ~ 森 林 樹 ~
4/15

4話 ケモミミである。それは美少女。


 吾輩である。

 ピエロに飛ばされたフリーターである。

 名前は迷子である。


 端的に言えば、お悩み相談したいほどに景色が変わらないのである。

 方向音痴ではないのである。

 途中に何度か川や崖を見たことから、グルグル回っているということはないと思われるのである。


 ――あかん、あかん。

 余りにも歩き詰めだから、疲れで喋り方が夏目さんの文庫みたいになっちまった。

 猫は猫でもあれだぞ? ぶさネコこと先生のほうじゃないからな?

 夏目でもやしと勘違いするかもしれないが、そこは間違えてはいけないぞ。

 有名なフレーズだからな、例え話にはもってこいなのさ。


 そして、地形の変化は見られるのだが生物の変化が見られない。

 真っ赤なお鼻の猪は出ないけど、青いゼリーは何度か遭遇した。逆に言えばそれしか遭遇していないともいえるが。

 そしてちょっとした変化も起きた。


 右眼に装着したモノクルで何度も青いゼリーを見たおかげか、俺のレベルが上がったのか……。

 後者はないか、俺のレベルが上がる要素がまったくない。

 青いゼリーを見つけては逃げる。それの繰り返しでレベルが上がったら人生イージーモードだ。


 何が言いたいかというと、青いゼリーを見たときに見える情報が増えた。



 ブルーゼリー

 Lv.????



 名前が表記されるようになった! 結局名前がゼリーなのと、レベルは相変わらず分からない。しかし、名前が分かったのはデカい。

 情報は金になる。といっても、今の状況では金というより生存に必要なものに近いか。


 でも超疲れたぁ~。

 俺って陸上選手じゃないわけよ? 引き……半引きこもりのインドア青年なわけですよ。

 何でファルトレクをしないといけないんでかねぇ。

 私の体力はもうゼロよ!!


 無理矢理息を落ち着かせてるけど、右のわき腹が痛い。

 急な全速力ダッシュを何度もやったからだろうね、ウェーブ走なんて目じゃないだろうね。おじさんには辛いよ、本当。

 さっきは青年って言ってたって?

 それは君の勘違いさ。少年時代が終わればあとは一気に老け込むのさ、人はね。


 ここで井上さんを連想した人、君は本物だ。

 俺の話題転換についていける希少種ともいえるぞ。

 だから何が出るというわけでもないけど、無関係から顔見知りくらいまではランクアップできるかもしれないからな。

 是非とも顔を見てみたいものだ。


 あれこれと考えていたら取り敢えずわき腹の痛みも大分収まってきた。

 これでまた全力疾走なんてしてみろ、歩行困難になってしまう。

 フラグは立ててないんだからね、本当に何も来るんじゃないぞ。

 女の子は来ていいぞ。


 可愛い系ね、話し相手には丁度いいわ。

 ごめん、嘘。

 この状況で来られても怪しさ満点だわ。

 来るんだったら……お前じゃないのよ、ブルーゼリー。



 ブルーゼリー

 Lv.????



 うん、モノクルを通して見える光景も変わりない。

 取り敢えずこの場から全速離脱!

 幸いにも一瞬の邂逅だった為か、向こうは俺が走り始めてから地面を這いずり始めて接近しようとしていた。

 甘い、甘いぞ。

 砂糖にハチミツをぶっかけるほど甘いぞ!


 ここまで距離が空けば一先ずは安心していいだろう。

 しかし、どこまで走れば森を抜けられるのやら。

 ここまでくると本格的に野宿を計算しないといけないのかなぁ~。

 キャンプなんて子供以来だが、必要なものは水。



 ――二等兵、人間の身体を構成している割合で一番多いのは何だ?

 ――水であります、大佐!

 ――毎日摂取しなくては生きるのが難しいのは何だ?

 ――水であります。出来ればミネラル成分を多く含んでいるものが強く推奨されています、大佐!

 ――素晴らしい回答だ二等兵、以前の発見と今回の回答を加味して昇級を検討させてもらおう。

 ――ありがとうございます大佐!!



 頭の中で説明があったような気がするが、そう水なのよ。

 水色じゃないのよ? ……ブルーゼリーよ。



 ブルーゼリー

 Lv.????



 うむ、やはり変化がないか。

 そして、マズいぞ。

 逃げればいいとか言うなよ? 視線をこうしてずらせば俺が固まっても無理ないのだと理解できるだろうから。



 ブルーゼリー

 Lv.????

 ブルーゼリー

 Lv.????

 ブルーゼリー

 Lv.????

 ブルーゼリー

 Lv.????

 ??????

 Lv.????



 さぁ、○○―リーを探せの時間だよ。

 俺には全部同じにしか見えないんだが、モノクルには一匹だけ違うやつがいるということらしい。

 

『Which is an imitation?』


 答えは少し離れた茂みのところにいるあいつだ。

 でも露骨に気にすると、かえって怪しまれるので周囲を気にしてる風ということでいこう。

 逃げ道は背後だけだが、急がないとさっきの奴が合流するかもしれない。


 よってこれから俺は機械になろう。

 貝じゃない、そこに器を足すことで……ノン。

 いいか、これから行うことはこうだ。


 まず逃げる。

 ……後方だ、そこしかない。

 次いで斜め45度に曲がる。

 体そのもので45度を体現したら骨になっちまうからな。

 進む方向は右斜め45度。


 そこから先は、音と直感を頼りに開けたところに向かうしかない。

 ここまでの思考時間……5秒弱ってところか。

 ゼロコンマだと思った諸君よ、それはお伽噺の世界だよ。

 一般人の俺にそんなことが出来るわけなかろう。


 そしたらなんで襲われていないのかって?

 最初に言っただろ、俺はか……機械になると。

 機械になった瞬間に、俺はクラウチングスタートを決めたんだよ。


 ――例えだぞ?

 正確にはバック走で、距離を少し離す。

 数秒後には振り向き全力疾走。

 数メートル進んだ瞬間ルート変更。


 あとはひたすら走るだけだ。

 走れ、走れ俺。

 約束の時間はないが、生き残るためにはひたすら走るのだ。

 それが俺に残されている唯一の手段だと知れ!


 数分後。

 俺は死んだ。

 もう動けません、過呼吸を起こすんじゃないかというぐらい呼吸を繰り返している。

 実際に死んだらこんな考えも浮かばないだろうからな? 騙された者がいたら鼻で笑ってやろう。


 でも、俺は文字通り動けません。

 今も道端に仰向けで寝転がっているところを見ていただければ見事な死体を演じていると褒めてもらいたいぐらいだ。

 何? 胸の上下運動でもろバレだろ?


 ……そこは目を瞑ってくれないか?

 俺としてもどうしようもないのだ、何しろ考えとは別に脳が酸素を欲しているのだから。

 呼吸をしないと人は死んじゃうの。

 せっかく非現実な世界に来たのに死ぬなんて嫌なの!

 俺は死ねましぇん!!


 40分後。

 俺は頭上を流れていく雲を見ていた。

 あぁ~、頬をなでる風が気持ちいい。

 この規則正しく聞こえる荷車の車輪がなんとも……。


 ――皆まで言わなくともよい。

 どこから荷車が出てきたのかと、君たちは気になっているのだろう?

 当然の疑問だ、分かるとも!

 今の状況を説明するにはこの世界の成り立ちから説明しないといけないかな。

 そもそもこの世界は……何だろうね?


 いや、初めてピエロに会ったときの言葉を信じていいなら世界の名前は分かる。

 森林樹(フォレストブルーノ)

 でもそれだけだ。

 他の情報が一切ないから困惑しちゃうよね~。

 俺、気になります!


 それで今の俺の状況を語るには俺の出生から説明しないといけないよね。

 俺の生まれは日本の――。

 ガタン。

 ヌォォォォォ~~~~!!!!!


 石に躓いた衝撃で荷車が一瞬浮き、頭を打った。

 小さな王様のような叫び声を上げることになろうとは、俺が間違っていた。

 スマヌ、優しい王様。

 これは悶絶して頭を抑えながら転がり回るわ。


 アニメだと大きなコブが出来ているぐらいの衝撃だったのではないか?

 そして、俺の小学生の時の話だったよね、あれは今から――。

 ガタガタン。

 ヌオオオオオォォォォォォォォォ~~!!!!!!!!!!


 三段腹ならぬ三段コブ。

 二度あることは三度ある。

 三度目の正直……あれ?

 まぁ、それはどうでもいいのだが。


 さて、この荷車との出会いの話だったが――よし。

 それは今から30分前のことだ。




 やっと呼吸が落ち着いてきた。

 だけれど、もう走りたくはないぞ。

 ところで気にしたくはなかったのだが、地面を伝ってくるこの振動はいったい何なのだろうか?

 さすがに嫌だぞ、あれ(・・)と遭遇するのは?


 とりあえず体を起こそうか。

 話はそれからだ。

 よっこいせっと。


「あっ、起きた」


 ……なんだ、今の声は?

 俺の頭が酸欠で少女の声の妄想でもしてしまっていたのか?


「おーい、生きてる?」


 後ろだ、声は背中の方から聞こえてくる。

 なぜか急に選択肢を選びたい気分になってきたぞ。


1、後ろを振り向き正体を確かめる。

2、奇声を発しながら森に逃げ込む。

3、振り返ることなく走り出す


 選択肢が普通すぎて拍子抜けしたか?

 2番があからさまに変だと思うか?

 ふっ、ここは異世界(?)なのだ。

 ならば、普段できないようなこともしてみたくなるのが人というものだ。


 そして俺が選び取る選択肢は――こうだ。

 後ろを振り向きながら距離をとる!

 自然な流れだと思わないかい?

 未知の相手に警戒しないことは愚策だと思うのですよ、はい。

 かくして、声の正体は……。


「お兄さん、変な格好をしてるね。今って開門者が来る時期じゃないから迷い人かな? それとも――世儛人(よまいびと)?」


 うわぁ、早速俺の頭を鈍器で殴りつける衝撃が襲ってきたよ。

 俺の視線は茶髪を腰まで伸ばした美少女の顔、正確には頭から出ている二つの突起物に目が奪われている。

 獣耳、略してケモミミ美少女だよ!!


 俺の視線に気づいたのか、少女の顔から納得したような顔をして荷車から離れた。


「う~ん、武器は持っていないみたいだし開門者じゃなくて迷い人っぽいね。言葉は通じているかな? たまによくわからない言葉を話す人がいるから、そうなると色々と大変なんだけど」

「言葉は分かるけど、俺の言葉も分かるかな?」

「おっ、随分と落ち着いた声。うんうん、言葉は大丈夫だね。それじゃ自己紹介といこうかな」


 ケモミミ美少女が俺の前まで歩いてくると、立ち止まって右手を差し出してきた。


「私はミレル。ツリークスと西の迷宮を結ぶ街道の運び屋をしているんだ。貴方の名前は?」


 名前、名前ねぇ。

 俺は自分のことについて関心がない。

 誕生日は覚えているけど、年齢は逆算しないといけないほど覚えていないぐらいどうでもいいと思っている。

 ゆえに、今後活動していくとなると嫌でも自分の興味ある名前を名乗った方が面白いか。


 名前か、こうして自己紹介するのも随分と久しぶりの感じだ。

 握手を求められているのだからこちらも返さないのは礼儀に反するか。

 別に女性だからとかそういった理由じゃないぞ?

 ケモミミ美少女だから握手したいのだ。そこは勘違いしてはいけない。


「俺はシリス。どうやらあんたがいうところの迷い人(?)らしい。よろしく頼む」


 うむ、柔らかい。

 手汗が酷くなる前に離したいが、この柔らかさをもう少し堪能したいのも事実。

 苦渋の選択だが握った手を離して、改めて俺が気になっている部分を凝視する。


「そんなに見つめられるとさすがに照れるね。そんなに珍しいかな、私の耳?」

「あぁ、初めて見たからな。失礼じゃなかったら種族とか聞いていいかな?」

「お兄さんのところでは獣人族っていなかったの? 私は犬人族、シアンスロープだよ」


 わぁ、凄いよ。

 いろんな意味で凄いよ。

 衝撃の展開でチャンネルを変えたくなくなるぐらい凄いよ。


 まず一つ目。

 ファンタジーを代表する獣人族に出会えた。

 架空の生物を目の当たりにする、これは犬と猿が仲良くご飯を食べているとこを目撃するくらい驚いた。――例えだよ?


 そして二つ目。

 シアンスロープというフランス語を聞いたことだよ。

 正確にはフランス語やギリシャ語の造語で出来た単語だけど、まさか異世界でそう呼ばれている存在が実際にいるとは……。俺の頭の中でポップコーンが出来上がるくらいビックリしたと言っておく。――例えだよ?


 最後に三つ目。

 俺のモノクルを通して見える情報が増えた。

 はっ? て思うだろ?

 俺も塗り潰されるみたいに切り替わっていったから目が点になったんだよ。信じてもらうために自己紹介する前に見えていたものがこれだよ。



 ??????(????)

 Lv.????



 出た。このカッコ、今のところ真っ赤な猪しか出ていなかったから気になっていたところだったんだけど……。

 なんなんだろうね、これ?

 カッコはひとまず置いておこう。次が自己紹介後に見えたものなんだけど愕然としたよ?



 ??????(????)

 種族 獣人(犬人族)

 職種??????

 Lv.????



 種族と職種というもう少し突っ込んだ内容が見れるようになったんですよ。

 もうね、こうなってくると俺の中で仮説が立ってしまうんですよ。

 中学の時に習った数学の証明、あれパズルみたいで面白くて候補を探すのは割と得意だったせいかね。いちいち理由を求めてしまう性格になっちゃってねぇ~、我ながら面倒な性格をしているもんだと感心させられるよ。


 仮説は終結させないと駄目だから、まだ説明はしないからね?

 だって間違えてたら恥ずかしいし~、自信がないし~。

 でも絶対におかしいなって個所があるのはみんなも気付いたでしょ?

 気付かないというなら、君は一度お味噌を頭に詰めた方がいいかもしれない。赤味噌がおすすめだよ?


 味噌を詰めたら分かるでしょ?

 名前と職種が表記されてないのよ……、いやぁ乾いた笑いをしたくなるわ。

 俺、まだまだ予断を許さない状況にいるようです。

 異世界に転移できると聞かされて、心臓が止まるほど真っ白になったよ。


 あっ、本当に起きたことだったわ。




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