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私はフリーターである。そして開門者である。  作者: 月城 裕也
The first ~ 森 林 樹 ~
2/15

2話 迷宮である。それは夢の中。


 唐突だが俺の今の状況を伝えたいと思う。

 なぜかって? そんなものは簡単さ。

 ここが夢の中だと久しぶりに自覚出来て、俺は思考というモノを取り戻したからだ。


 意味が分からないと言ったか?

 じゃあ逆に問おう。

 夢を見ているとき、それが夢だと気付いたことがあるか?

 ない場合は笑顔でこう返してやろう。


『現実に生きる愚か者どもめ!!』 と。


 もし何度かあるというならば、柄にもなく真面目な顔で一礼してやるとも。


『同胞となった理解者よ、賛同者よ』 と。


 別に同じだからと言って賛同者になるわけでもないだろうが……嬉しさのあまり口走ってしまうのは許してくれ。厨二病のときの口癖が抜けないんだ、仕方ないだろう?


 脱線しちまった。

 何を言いたいかというと、自覚した夢はどんな夢だったかを夢から覚めた後も部分的に記憶に残るんだよ。

 俺の覚えている夢で一番強烈なのが、崖から飛び降りて地面に激突する直前に目が覚めるというバンジーもビックリのドキドキだったと言っておこう。


 ……また脱線しちまった。

 結局のところ、思考を取り戻した結果俺が気付いたのはこれだ。


 ここは夢であるけれど現実だ。








――――――――――――――――――――




 ピチャン。

 顔に冷たい感触が当たった。

 自然に目が覚める以外で起きるのが嫌いな俺になんたる無礼か。

 しかし、一度だけなら許そう。俺にも寛大な心というものが存在しているからな、もう一度寝れば忘れられるだろう。


 ピチョン、ピチョン。


 ………いい度胸をしている。だが、今は寝ることを優先しないと貴重な睡眠時間がなくなってしまう。

 無視だ無視。

 ほら、また眠気が俺を襲って――。


 ジャアアアアァァァァーーー。


「さっきから何だってんだ!!」


 大量の水を頭から被り、我慢の限界を超えて叫んでしまう。

 こんなことされたら誰だってさすがに怒るでしょ。

 頭にこんな冷たい水を被れば―――冷たい?


 目が覚めて勢いよく体を起こす。

 そして視界に入った光景に愕然とする。

 ゴツゴツとした岩肌、苔で敷き詰められた地面。一番の驚愕は上……天井だ。

 どこから水が降ってきたのかと思ったが理由が分かった。


 天井がすべて水で出来ている。それも重力に逆らって膜を形成し、そこから漏れ出る光で今いる場所を照らしている。

 神秘的な景色だが、何でここにいるのかが分からない。

 ぐるりと周りを見渡すと、後ろの壁に読めるが見たこと(・・・・・・・・)のない文字(・・・・・)でこう描かれていた。




 ここに来たりし可能性を秘めし者。

 この迷宮の最奥まで辿り着き門を開けよ。

 さすれば世界を開く鍵が与えられん。




 一言だけ許されるとしたら…意味不明。

 でも、なんか似たようなことをつい最近聞いたような――。


 ここがどこかは分からないけど奥まで行けば何か分かると思い、部屋の出口に向かって歩を進める。部屋を出た瞬間、後方が岩で塞がれ前にしか進めない一方通行となった。

 これはRPGでお馴染みの一度きりダンジョンみたいだ。

 少し進むとまた小さな部屋に出た。部屋自体はさっきまでいたところと大して変わらない。一つだけ明確に違うとすれば部屋の中央に豪華な宝箱が置いてあるくらいだ。


 怪しすぎる。

 某有名なRPGゲームの呪文を使えれば罠かどうか分かるのに。


「イン○ス!」


 ………、何も起きないか。当たり前っていえば当たり前だが、ちょっと期待していた自分がいたから残念だ。

 こんなところで時間を潰すのも勿体ないと躊躇なく宝箱を開けると、中に入っていたのは輝かんばかりの黄金――ではなく、青いフレームの眼鏡が一つ入っているだけだった。


 なんでやねん。

 関西人じゃないが、突っ込みを入れた俺は間違っていないと思う。

 ゲームだとここは初心者のためにレアアイテムをプレゼントって場面なのだが……。


 眼鏡を手に取り、特に変わったところがないのが分かり取り敢えず自分にかけてみる。

 なんということでしょう。

 視界が大して変わらず、家で使っているブルーライトカットの眼鏡と大して変わらないではありませんか。


 要は伊達眼鏡という知的アイテムが手に入りましたとさ。

 あの少年探偵の発明眼鏡とかそういうオチだったらまだ面白いというのに。

 一部でしか使えないとか言われたら、熊毛で出来ている不思議生物を連想してしまう。


 眼鏡を格好いいかけ方でつけると、正面と左右の壁に人が一人通れそうな空間が出来た。

 これはあれか? 厨二病心がそのまま夢になったとかそういうオチではないだろうか。

 時々分かるんだよなぁ、これは夢だってのが。だから、今こうしてふざけまくっているわけなんだが……。


 さて、どの道を行こうか。

 一方向なら迷う余地が無い。

 二方向ならコイントスで。

 三方向は――棒倒し?


 つか棒ねぇし。

 眼鏡しかねぇし。じゃあ眼鏡倒し? ねぇわ。

 なんか俺持っていたっけ?


 普段外出するときの服装で、今の格好だとズボンと胸にポケットがあるくらいか。

 ポケットに手を入れると、この間遊んだゲーセンのコインが二枚。マスカット味のグミが数個にメモ用紙が1枚と懐中時計。胸ポケットにはボールペンが一本と埃が少々。

 あっ、誇りはないからね。そんなもんは、会社員時代に捨てたわ。

 楽しいことして過ごさないと、もう生きてる意味を感じないんだけどな。


 今の手持ちだと棒倒しの代わりにボールペンのペン倒しになるだけど却下。そもそも正面には進みたくないから二択になるしそれでいこうか。コイントスで表が出たら右、裏は左でさっさと進もうか。

 夢だからいつ覚めるか分からんし時間は有限だ。

 どちらに決まるかな~?


 キンッ。

 目線の高さまで上がったコインを視線で追ってそれが地面にぶつかる。

 ガッ。

 …………地面の跳ね返りを考えて苔がない地肌剥き出しの上でコインを弾いたのだがそれが裏目に出た。


 コインは小さな溝に挟まって立っている。裏でも表でもないとなると、左右は対象外。そうなると残ったのは―――。


「真っ直ぐしかないよなぁ……。よりにもよって最初に選択肢から外したところってのもなんというか」


 挟まったコインを抜いて正面の入口に入ると、例の如く入口が塞がり正面の一本道だけになる。

 ここまで進みたくない通路もあまりないよなぁ。選択肢の外から来たルートっていいことがあまりない……というのがこれまでの経験なんだよな。うだうだと考えていたがひとまず眼鏡を外して先に進むことにした。


 分かれ道が来ない。

 かれこれ30分は歩いているが、ずっと同じ風景が続く。……なのに、まったく飽きないこの状況!

 ちなみに時間が正確に分かるのは、ズボンのポケットに入っている懐中時計のおかげです。某錬金術師とターミナルの女性に憧れて使ってるんだけど、恰好いいわぁ。後悔はしていない。


 つか、なんだよここ。神秘的過ぎるわ!

 壁は石の重なり方から人の手が入っているけど、それを打ち消すかのような天井と苔。人と自然が織りなすハーモニー、これで鳥の鳴き声があれば完璧だ。


 とかなんとか言ってるうちに次の扉へご到着。お次は何が出るかな?

 扉に手をかけた瞬間に俺はそっとその手を離す。

 押して開く両開きの扉だったので、問題なく扉から手を離すことが出来た。


 これは開けたらアカンやつや。

 直感スキルという便利なモノを持っているわけじゃないが、鳥肌が立ってしまった。

 扉を開けた瞬間に罠発動、死への誘い! ……とかだったら嫌だし様子見るか。

 でも一方通行で他に扉もなかったしここ以外のルートはない。


 バンッ。

 両の掌を胸の前で合わせてその両手を地面に叩き付ける。どこかで水滴が落ちる音がしたくらいで他に異変はなかった。

 う~ん、側面に道を造ろうとしたんだけど駄目か。あの牛乳嫌いの錬金術師の力が今ここで生きるから使いたかったんだけどね。


 夢の癖してなんという現実か(・・・)

 これといった不思議が、天井のすべてが水の膜という以外何一つないとは。

 魔法使ってみたい。


 マスカット味のグミを1個取り出して口に含む。

 結局ここは夢じゃないってことか?

 味覚、触覚、嗅覚がある。そして思考もできる……。

 極め付けが――これっ!


 地面に向かって拳を振り下ろす。

 ダンッという鈍い音と共に地面に拳が叩き付けると、拳からじんわりと痛みを感じる。

 夢で鈍痛を感じる段階でまずおかしい。

 となるとこれは現実という考えに辿り着くのだが……、そうなると天井から落ちてこないあの水の膜が説明できないから困る。


 自分が納得できるとしたら、どこかの組織が開発した科学技術によってこんなことになっている――何色の組織ですか?

 別で考えられるとしたら、ここは異世界。何かの拍子に俺が今いるこの洞窟に転移してしまった――テンション上がるわ!!


 いかん、冷静になろう。

 眼鏡をかけて、そしてクイっと位置を直すと……?



 ――大佐、妙であります!

 ――どうした二等兵?

 ――右手前方の壁に先ほどまで存在していなかったボタンがあります。

 ――どこにあるというのだ、二等兵?

 ――周りの石と同化していますが、この景色に似合わない不自然な突出物があちらに。

 ――……確かにあるな、でかしたぞ二等兵! 昇級を考えておこう。

 ――ありがとうございます大佐!!



 脳内で何か会話があった気がするが、眼鏡をかけた途端に先ほどまで存在していなかったボタンが現れた。

 先ほどまで存在しなかったボタンを見つけてしまうと押したくなるのが人の(さが)

 でもその前に確認、確認。


 眼鏡を外してもう一度壁を見る。

 …何もない。

 眼鏡をつける。

 ……ボタンを確認。

 眼鏡を外す。

 ………何もないな。

 眼鏡をポージングしながらつける(『ペ○ソナ』より抜粋)

 …………ボタンがあるでござる。


 おっと、勢いあまって口調が変わってしまった。

 眼鏡をかけたときにしか見えないボタンときたか。

 しかし、ここで油断しないのが俺である。

 俺氏、回れ右!!


 壁がある……なんで?

 手を壁に近付けて確認をする。

 コンコン。

 実体がありますよ、この壁。

 えっ? 壁があるんだから触れないとおかしいって? 確かにそうだ、壁は触れるものだな。失礼、俺はおかしいことを言っていたようだ。

 眼鏡をかけてから動揺していたようだ、取り敢えず眼鏡を外してみよう。


 なんということでしょう――先ほどまで自分が通ってきた道が視えるではありませんか。

 先ほどまで壁があった個所に手をかざしてみると――。

 なんということでしょう――先ほど壁に触れていたところを通り過ぎるではありませんか。

 目の前で先ほどまで道を塞いでいたはずの壁はどこにも見受けられません。職人さんも驚きのビフォーアフターです。


 眼鏡を服の端でふきふき。そして両手で装着っと。

 これは『境界の○○』の眼鏡ちゃんのかけ方を俺なりに改良したんだが、ちょっといいんではないかと内心思っている。

 とにもかくにも、またもや目の前に壁が出現と。そして壁は触れることが出来る。


 仮説がいくつか浮かぶけれど、今はそのいくつかの仮説で共通しているものが正解だとしよう。その減った仮説の中で一番つまらないものを除外してあと数個。

 選定基準がおかしいって? わっはっは、何を言うか。面白くないものを選んでもしょうがないだろうに。眼鏡をかけたまま寝るなんて一番つまらないし、ワクワクしないからな。


『何か一つ確定している事象があるのなら、それはすべてに共通する』


 初めて聞いたときは、当たり前じゃないかと思った。まぁ、思っただけでそれを理解したのは随分と後だったけど。

 それは別に今は関係ないからここまでとして、改めてボタンを確認しよう。

 そしてポチッと押す。


 そこはためらう場面だろって?

 何を言うか! ボタンというのは押すためにある物だ、と私は俺は心から思うのです。

 さっきは我慢したが、やっぱり誘惑には勝てないよね~。


 三日坊主ならぬ一日坊主を舐めるではない!

 それに見よ。

 ボタンの反対側にあった岩壁が消えて、新しい通路が出て来たではないか。

 これも半ば確信しているが、眼鏡を少し上げてその壁を見れば通路は消えている。口元が吊り上がり、眼鏡を元に戻すと新しい通路をくぐり歩き始める。


 ここが駄目だったら俺の運が悪かったと諦めるしかないな。

 俺の中では面白すぎて満足したから結果がどう転ぼうとどうでもいい。でも、出来れば最後まで楽しみたいから次の部屋まで辿り着いてほしいな。


 しかし、不思議だ。この眼鏡、俺の頭に超絶フィットする。

 通路に入ってから眼鏡を外そうと淵に手をかけたが、最悪の可能性を考えて外さないでおいた。

 外さない原因は後ろを見ればまだ見えるこの通路の入口。


 今までの通路は、部屋を出た途端にその入り口が閉じて壁になっていた。

 ところがこの通路は入ったところで入口が閉じない。

 今までと違う展開で疑問が浮かぶのは至極当然だろう。


 そう考えると一番の疑問はこの眼鏡。豪華な宝箱のくせに、入っていたのは伝説の秘宝やら金銀財宝! ……ではなくこの眼鏡。

 ヘッドマウントディスプレイ一体型のウェラブルコンピューターを搭載した電脳メガネで、俺が今いるのは現実世界と電脳世界が入り混じった拡張現実だとしたらいろいろと遊べるのだが……。

 もしこれが電脳メガネなら、俺の体は今あそこの入口で No Data と表示されて倒れているのを確認できるのだろうか。ちょっと気になるが、今はこの通路の先に何があるのかを確かめたいという欲求の方が何倍も強い。


 ともあれ、今歩いている通路も視界が開けているのはせいぜい1メートル。そこから先は見事なまでに真っ暗で何も見えない。今はただ足元にある芝生が続く方向に向かっているに過ぎないが、正直に言って恐怖以外の何物でもないぞ。


 ほら、変な考えをするから視界の中に白い花が一輪見える――白い花? 見間違いか、すでに視界の範囲内に今見えた花はもうない。目を擦りながら歩を進めると、やっぱりピンク色の花がある……ピンク? 白はどこにいった、白は。

 腕をつねると痛みを感じる――うん、知ってた。


 歩みを止めずに進んでいくと、今度は白い紙状の総苞(そうほう)に包まれた黄色い小筒花を咲かせている花。

 この花はドライフラワーとかで見たことがある、貝細工だ。

 高校の部活での記憶だから間違っているかもしれないが、貝細工だと思われる。


 それ以降もいろいろな色の花が現れた。紅、青、オレンジ、紫、赤。

 その中で知っている花が二つだけあった。

 青いバラと紫色のラベンダー、残りは知らん。

 記憶力もそんなによくないから鳥のクチバシのようなオレンジ色の花しかすでに覚えてない。


 記憶力はないけど妄想力は凄いという自信はある。

 それを誇るなって? 妄想で普段の生活をカバーしないと欲求が爆発してしまうではないか! 

 その妄想力で考えた結果、なんとなくさっきまで見た様々な花の意味を推察できる……いや、無理。


 色の関連性もない。

 現れる花もすべて違う。

 知っている花の種類はバラとラベンダー、それに半信半疑の貝細工。

 俺のノミ頭では解まで持っていけない。燈馬クン、助けて!


 願いが通じたのか目の前に青く光るドアが現れた。

 ……○ラえもん? でもドアの色がピンクじゃないから絶対違う。

 つか、ドアの形が少し古風だから例のドアじゃないのは一目瞭然か。


 こんなに面白いことも終わりのようだしさっさと入るとしよう。

 なんで終わりって分かるかって?


 取っ手に手をかけ、ドアを開けながらため息を吐く。


 ドアがあるのは石の中。

 通り抜け○―プがない限り、俺に出来るのは目の前にあるドアを開ける事だけなのだよ……。



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