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私はフリーターである。そして開門者である。  作者: 月城 裕也
The first ~ 森 林 樹 ~
14/15

14話 試験である。それは生か死か。


 やってきました、試験当日。

 昨日は夜遅くまで秘密基地で今日の対策をしていたから、もう眠くて眠くて。

 試験延期とかあれば俺は帰って爆睡する予定が出来上がるんだが、現実はそう甘くはないよね。


 仮眠を取って冒険者ギルドにやってきたわけだが、受付近くにいる美人の女性から嫌な視線を感じる。

 ごめんなさいね、観察されるほど凄い人間じゃないんですよ。むしろ底辺にいる人間なんで観察するだけ無駄ですよ。

 三日前にお相手してもらった受付嬢さんがいるのは、こちらを観察する美人さんの隣。

 こういう時は厳ついおっさんが相手だと相場が決まっていると思ったんだが、所詮は物語の定番でしかないということか。


「どうも、三日ぶりですが覚えていらっしゃいますでしょうか?」

「ええ、もちろん。とても印象に残っておりましたよ……シリス様」


 後半がやけに声量低いけど俺なにかしたっけ?

 質問もちゃんと答えてたし、そんなに険悪になった覚えもないんだけどなぁ。

 でも覚えていてもらえてたんなら、友達以上にはなりたいよね。


「それは嬉しいです。受付嬢さんはお綺麗ですから男冥利に尽きますね。それで早速で申し訳ないんですが、本日は試験官様の方はいらっしゃいますでしょうか?」


 その言葉と同時に隣にいた美人の女性がこちらに話しかけてきた。


「私が今回お前の力を視る試験官役のライラ・ミーリアだ」


 あ~、やっぱりそうですか?

 そう言われてさっきの視線を思い出す。合ったこともないのにあそこまでぶしつけな視線だとさすがに感づいちゃうよ。

 因みに貴方のステータスを視させてくださいね?


 昨日物色している最中に発見したのだが、モノクルで見たときの鑑定を自動で表示する機能と、俺が望んだ時に表示するON・OFF機能を身に着けた。

 図書館の時や武器屋の時に右眼が大変なことになっていたが、昨日の秘密基地での作業中に無意識か偶然か俺が望んだ時に鑑定結果が表示されるようになったのだ。

 おかげでモノクルをつけていても、今ではありのままの景色を一望できるようになって大変満足している。

 そんな俺が目の前のライラさんを鑑定して咳き込んでしまったのはしょうがないともいえるだろう。



 名前:ライラ・ミーリア

 種族:人間

 出身地:森林樹

 職種:??????

 レベル:34

 特技:??????

 称号:『英雄の資質』、『零傑(れいけつ)の女王』、『Aランク冒険者』、『??????』



 何この人!?

 大先輩なのは分かったけど、レベルや称号がぶっ飛びすぎて流石に笑えねぇ。

 一昨日出会った獣人さんたちみたいに親友の?君で埋め尽くされると思っていただけに予想外。

 友達じゃないのかって? もう何千回?君と出会ったと思っている。俺たちは親友(まぶだち)さ!


 でもそんな?君も今回の出来事は衝撃的過ぎて遠慮したのか。

 レベル差によってどれぐらいの壁が立ちはだかるのかは体感してみないと分からないが、考察できるとしたら称号欄の方。


『英雄の資質』、これは名前のまんまだろう。歴史に名前を残す、世界に認められる可能性をこの女性は持ち得ていると。

『零傑の女王』、これは予想が難しい。冷血の方なら容赦がない性格なのだろうと推測できたが、零傑……。これは後回しだ。

『Aランク冒険者』、これはもう名前の通りでいいんだと思う。俺の my dictionary である『冒険者における基礎知識全集』にもランクのことは載っていたし。



~冒険者におけるランク制度~

 世界によって細かな制度は変わるが、実力に応じて定められるランク制度というのが多くの世界で採用されているのを確認した。

 著者が過ごしている森林樹では、上記に述べたランク制度を取り入れており計6段階のランクに分けられる。

 Eから順にD、C、B、Aと評価が高くなり、噂ではSランクというAランクよりも上があるらしいが定かではない。


 簡潔にまとめると、Eランクは雑草でAランクは胡蝶蘭である。



 この人はAランク冒険者、それは有名人であると共に世界でも指折りの強者なのだろう。

 実際にレベルは今まで視てきた中で一番高い。

 殺し合いだったら一瞬でミンチになりそうだな、俺。ミンチで済めばいいけど……。


「ライラさんですか、これはご丁寧にありがとうございます。聞いていらっしゃるかもしれませんが俺はシリスと申します。ミレルさんから迷い人と言われていますが、戦い経験皆無の一般人ですので演習試験に際してはご加減のほどをお願いいたします」


 俺の言葉にライラさんは眉をしかめると、嫌悪を覗かせる一言を呟かせる。


「お前、まさか貴族か?」

「何をどう間違ったらそんな発想になるのか不思議ですけど、俺は小市民ですよ。むしろ、貴族なんて堅苦しいことが大嫌いな趣味人と申しましょうか」


 条件反射で返してしまったが、俺が貴族?

 規律、規則、模範など縛られた生活を強いられるなんて飽き症な俺からすればなりたくない称号トップ3に入るね。


「それにしてはその喋り方……いや、なんでもない。試験をするのでついてこい」


 何かを言いかけてそのまま外に出て行ったライラさん。

 美人さんは後ろから見ても眼福だな。

 均整の取れた身体に、乱れもなく一定の歩幅で進んでいく足取り。襟足で結んでいる髪の毛が右に左にと揺れて、その身にまとう雰囲気は近付くのすらためらいそうなもの。


 現に、彼女を見た別の冒険者と(おぼ)しき者たちは彼女を見て少し距離を取るかひそひそと何かを喋っている。

 こうまで喧騒が酷いとその話の内容は聞き取れないが、彼女のことに関してなのは間違いないだろう。


 そんな彼女の後ろを少し離れた所からついて行く俺。

 一歩間違えばストーカーですと通報されてもおかしくない。彼女ほどの美人ならストーカーが多くても不思議ではないが、ストーカーに間違われるくらいならファンとして間違ってもらいたいな。

 問題はそこじゃない? 俺からすればそんなことで済む問題なんだ、変かな?


 ギルドを出てそのまま建物を迂回すること数分、図書館から見えていた訓練場が見えてきた。

 その間お互いに無言で歩き続ける。無駄話をあまり得意としない俺は気が楽だったが、どうやら向こうもそういったことはあまり得意ではないようだ。こちらを一度も振り返ることなく、ただ早すぎず遅すぎず俺に歩調を合わせてくれた(・・・・・・・・・・)

 ギルドを出るときとその後のペースが変わったことからそうだと思うんだが、自惚れだったらごめんね。


 入口を抜けて中に入ると、そこはイタリアのローマにあるコロッセオが近いだろうか。

 円形に広がる広場の周りを高い壁が囲いその上に席が見える。

 違いがあるとすれば周りを囲う壁、高さにして3メートルといったところか。そこから緑色の光が屋根まで伸びている。


「今は誰も使っていないか、丁度いいな」


 物珍しさから口を半開きにして周囲を見渡していた俺に、広場の真ん中まで進んだライラさんが振り向いて腕を組む。

 うむ、いいものをお持ちですね。


「試験の内容は試験官に一任されるのが習わしなのだが、私は力の加減がいささか苦手でな。だから、私からは一切の攻撃をしない。お前の出せる技をすべて私に打ち込んで来い。それで私を認めさせたら合格とする」


 Really?

 俺が想定した試験の中で、一番考えてなくて来たら最高な展開だと思ってたやつなんだけど。

 人の言葉をそう簡単に信じるなかれ。

 と言っても、この世界は俺がいた世界ほど窮屈ではないだろうから真面目そうなこの人の言葉を信用してみるのも一興か。


「細かいルールは?」

「そうだな……、相手を確実に死に至らしめる攻撃は禁止としておこうか。それ以外は何をしても構わない」


 ……この人。


「分かりました、それでは僭越ながら迷い人のシリス。若輩の身ながら挑ませていただきます」

「やはり、お前貴族だろう。そうでなければそんな堅苦しい喋り方はしない」


 嫌悪を覗かせる顔をしつつ、右手を前に差し出しこちらを誘うようにクイクイッと動かす。

 生憎と格闘家でもなければ剣士でもない非戦闘員である俺は、突っ込んだ瞬間やられるとか嫌な感じといったものを感じ取ることが出来ない。

 それでも挑まなければ俺に勝機はないと来た。

 マゾで無理ゲー。


 そんなことを考えててもしょうがない、一先ずライラさんは俺に一切攻撃をすることがないという前提条件を元に行動しましょうか。

 ゆっくりとライラさんを起点に円を描くように歩き始める。

 ライラさんも俺の動きから目を離さず、常にこちらに体の正面を向けて来るのは油断をせずに俺がどう行動するかを見極めるためだろう。


 ギルドで見たときからこちらを観察するかのような眼を止めないライラさん。

 強者の驕りや傲慢さを全く感じない彼女は俺を対等に見ているのか。

 はたまた何か別な理由があるのか。


「どうした、仕掛けて来ないのか?」

「いやぁ~、隙が無いかなぁって動きながら探っているところでして」


 一周しても仕掛けて来ない俺にライラさんが声をかけてきたが、そこはいつもの俺。

 ぺらぺらといらぬことを喋る口がすぐに嘘でお答えしますとも。

 困ったように右手で頬をかきながら、口元を少し開けながら唇を全く動かさず小声で左手に嵌めている腕輪の魔法を唱える。


「ハリケーン」


 ライラさんの手前で強風が吹き荒れ、砂埃が舞う。右手をそのまま目元まで動かして砂が目に入らないように構える。

 少ししてから風がやむと、微動だにせずその場で立つライラさんがこちらを見ていた。


「まさか魔法を使えるとは思わなかったが、狙いが甘いな。私の手前で発動させたせいでダメージが入っていない」

「あらら、やっぱり狙いをつけるのは大変ですね。上手く狙ったつもりだったのですが見当違いの場所で発動してしまいました」


 苦笑いをして余裕ぶっているがその内心は焦りまくりだった。

 本来の狙っていた魔法の発動地点はライラさんの後ろ。そこで強風を起こして軽い砂嵐状態を作っている最中に次の行動に起こす。

 これがシリスの考えていた作戦だったのだが、両者の間で魔法が発生してしまったためこちらにも多くの砂が飛んできたので動くに動けなかったのだ。


 本当、自分の思い通りに事は進まないもんだね。

 それでも慌ててはいけない、思考がいかれた奴ほど殺したくなるものはない。

 醜い奴は、皆殺しだ。


 左手の中指と親指に力を込めて思いっきり鳴らす。

 しかし何も起きず、ライラさんが怪訝な顔をすると同時に腰に差してあったナイフを投げつける。

 その場を動かずにライラさんがナイフを弾いた瞬間、自然と口から言葉が出ていた。


「チェック」

「!?」


 バチッ。

 俺の左手からジグザグとナイフまで電気が走り、弾かれたナイフに当たった瞬間彼女に向かって巨大な雷となり襲い掛かる。

 ドガガガッッッッッ!!

 目を閉じても瞼の裏側から強烈な光が襲い掛かる。


 昨日見つけたアイテムをフル活用した初見殺し。

 右手の中指につけた幾何学模様のシルバーリングとライラさんに向かって投げたナイフを使った非科学的な擬似魔法。



 名前:空気の指輪

 レア度:??????

 強化レベル:2

 能力:『空気操作』、『??????』

 説明:10の指輪の一つで、目に見えない空気を操ることが出来る。すべての指輪を持つ者は理を操ることが出来る。



 名前:電装のナイフ

 レア度:3

 必須技能:雷魔法、器用

 必要レベル:6

 強化レベル:1

 能力:『雷強化』、『雷吸収』、『切れ味強化』、『??????』

 説明:電気を込めながら鍛えられたナイフ。普通のナイフより切れ味が鋭く、手先の器用さがないと使用者自身を傷つけてしまうためそれ相応の技能が求められる。



 これがそれぞれのモノクルによる鑑定結果だがツッコミどころは満載だろう?

 いつの間にか武器とかにもレア度や説明がついているし。

 実はこれ、今日起きてからこんな感じなの。

 俺のモノクルにはAIという名の何かが詰まっているんじゃないのか?


 って、それは置いておいて二つのアイテムに関してだな。

 細かい理屈を並べて説明するのは好きじゃないし、得意でもないんだ。

 だから簡単に述べるぜ。


 まず俺が最初にした指パッチン。

 いつも以上に力を込めて鳴らしたのは『焔の錬金術師』が大好きだからさ。

 次にしたのがナイフ投げ。

 俺、暗殺者に憧れているんだよね。

 最後に左手から発生した電気。

 初めての戦いに俺の心が痺れた結果かな?


 というふざけた回答を説明要求されたときに使うとしよう。


 実際は強くこすりつけるようにした指鳴らしで、中指に嵌めている指輪と親指に微弱なプラスとマイナスの電荷を発生させる。

 次に心内で『空気の指輪よ』と呼びかけ、俺から扇状にライラさんの少し後ろの位置までの空気中の元素を操作。空気中の電気抵抗値を下げて電流を通しやすくする。

 そこにナイフを投げ、弾かれたナイフの能力である雷吸収を避雷針として見立て先ほど溜めた左手の中指と親指の正負電化を近づけて静電気を発生させるとどうなるか?


 空気中の電気抵抗が小さいところを通って電装のナイフまで電気が走る。

 小さな静電気は電装のナイフに吸収されて、別の能力である雷強化によって何倍にも電圧が跳ね上がることだろう。

 そして電装のナイフに電流が辿り着いた瞬間に俺の周りの空気だけを元に戻せばあとは簡単。


 雷雲と同義になった電装のナイフから先駆放電(ステップリーダ)が始まり、正の電荷を蓄積しやすい人。ライラさんからお迎え放電(ストリーマ)が瞬時に発生し、弾いた電装のナイフとライラさんまでの点と点が線を結び、電気抵抗を0にしてあるので雷強化された電気が100%の状態でライラさんを襲う。


 この戦法は昨日考えて今日が初実践なわけなんだが、……この威力尋常じゃないな!

 レベル差を考えれば、今の攻撃で倒せないまでも行動不能にまでは陥っててほしい。俺に残されている攻撃手段はもう――へなちょこパンチだけだから。

 しかし土煙って本当に目の前が見えなくなるんだね。

 向こう側どころか人影もない。でも5秒ほどすれば視界が開けてきて、細剣(レイピア)を構えたライラさんがこちらを見ている……えっ。


「まさか私に細剣を抜かせるとは思わなかった……、態度に似合わず随分と強力な魔法を使うではないか」


 ――さっきの一撃で無傷ですか?

 思ったよりも威力が出てないとか?


 それにしては、ライラさんの足元から後方が放射状に地面が抉れてるんだけどおかしくね?

 地面にも可視化できるほどバチチッって電気がいたるところで走っているし、命中していないということはないはず。

 ――細剣を抜かせる? ということはだ、種はあの細剣か?



 名前:??????(ロストアーツ)

 レア度:??????

 必須技能:??????

 必要レベル:??????

 強化レベル:??????

 能力:『雷無効』、『??????』、『??????』、『??????』

 説明:??????



「はっ?」


 あまりのことに声を出してしまったが、そんなことがどうでもよくなる鑑定結果を俺は目にしている。

 ロストアーツということは、今は失われた武器。伝説級の武器と言っても過言ではないだろう。

 前に武器屋で見た時よりも詳細に見ることが出来るモノクルが、一人ぼっちの俺のために親友の?君をいっぱい連れてきてくれたのは嬉しいんだけど、分かるのが『雷無効』という能力だけ。

 以前視たボウガン以上に読み解けない細剣。


 これはレベルじゃない、次元が違う。


「どうした? 私はまだお前に傷一つ付けられていないが、これで終わりということはあるまい?」


 油断なくこちら鋭い眼差しで睨むライラさんだが、俺に出せる最強の一撃だったんですよ。そもそもあの細剣を視てしまったことで、俺の戦意は水門を開いて流れる放水のように無くなっていますとも。

 でもこれは試験、あるのは合格か不合格の二択。

 引き分けというモノはないわけで、俺はため息をつきながら地面に落ちている電装のナイフを拾いに行く。

 拾おうとしたときにバチッっと静電気が発生してちょっと痛かったけど、そのまま腰に差しこんでライラさんに向き直る。


「降参です、これ以上は時間の無駄になりますので負けを認めます」


 笑顔で両手を上げながらライラさんを見ると、目を大きくして呆けていた。

 何を期待していたのかは存じませんが、勝ち目がなく面白みもない戦いなんて論外。

 ましてや試験とはいえ、Aランク冒険者に認められて今後バタバタ過ごすのも疲れそうで嫌だ。

 それに…………いや、さすがにこれは考えすぎか。


 これらを踏まえて何が言いたいかというと、俺の試験は不合格ということさ。

 今日の酒は美味そうだな、はっはっはっ。

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