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出会い

 

 春。出会いの季節、そして別れの季節。

 中学を卒業して約一ヶ月。この一ヶ月いろいろなことがあった。しかしもうそれは過去のこと、今日は待ちに待った高校の入学式。

 今俺は学校へ向かう電車の中、座席に座り、意味もなく車窓から外の様子を眺めていた。時間が経つに連れ、乗り合わせる客が増えていった。

 そのほとんどの客は、高校の制服に身を包んでいる。

 そして気がつくと、車内は混雑してきた。俺は座っているから特に困るようなことはない。このままゆらゆらと揺られながら、目的地を待つ。


 つんつんと俺の肩に何かが当たった。誤って当たっただけだと思い、気にせずにいると次は先ほどより強くつんつんとされた。俺は何だと思い振り向いた。俺と同じ高校の制服を着た女子が俺を見上げ(・・・)ていた。


「すいませんが、席を譲ってくれませんか?」

「よく意味がわからないんだが、今あんたは座ってるだろ?」


 その女子は俺が電車に乗った時からずっと隣に座っていた。わざわざ席を変わる意味はないと思う。


「すいません、言葉足らずでした。この子に席を譲って欲しいんです。この混雑で気分が優れないみたいで」


 その女子は目を後ろに向けた。釣られて俺も目を向ける。この子と同じ制服に身をつつんだ女の子だ。真っ青とまではいかないが顔色は悪い。気分が優れないのは本当だろう。


「俺が譲らなくてもてもあんたが席を譲ればいいのでは?」

「窓側の席ならば景色を眺められるので。少しは気分が良くなると思って」

「ならなんで最初からそこの子に座らせてなかったんだ?少なくとも立ってるより楽だろ」

「急いで席を取っただけです。それで変わっていただけますか?」


席を変わるぐらい、別に困ることはない。



「どうぞ」

「ありがとうございます」


 俺は席から立ち、一度通路に出た。俺の隣にいた女の子も席を立って通路に出た。その後すぐに顔色の悪い女の子は俺がいた席に座った。そして俺はその隣に座った。


「・・・え」


 隣の女の子が戸惑った様子で俺を見ている。


「どうした?」

「ええっと、ゆいちゃんが座ると思っていて」

「席は譲っただろ??窓側の席がよかったんだろ?」

「そうなんだけど」


 その子が瞳をうるうるとさせて通路に目を向けるので俺も目を向けた。

 すると女の子が驚いた顔で俺を見ていた。


「そんな驚いた顔でどうした?」

「っ、何もないです。譲ってくれてありがとうございます」


 その子は驚いてはいるようだが、律儀に頭を下げた。

 大方、俺が立って、自分が座ると思っていたんだろう。そこまでやってやる義理はない。俺も座っていたいんだ。


 俺は静かに目を閉じた。最初から目を閉じていれば声をかけられず、わざわざ席を譲ることもなかった。次からはそうしよう。


 それから程なくして目的地に着いた。駅を出て数分歩くと入学式と大きく書かれた看板が立てかけられた高校についた。制服に身を包んだ少年少女が校門をくぐり抜けていく。今日から三年間通うことになる場所。感慨深いものがあるな。

 俺も新入生に続いて校舎に入った。



 入学式は面倒だ。校長の長い話、立つ、座るの繰り返し。たいくつで時間の流れが遅い。少し寝てしまった。


 長い入学式(一時間もなかった)が終わり、おそらく担任の先生になる人物に連れられようやく教室についた。


 黒板に席表が貼られており、それを見て自分の席へ向かう。窓際の後ろから二番目。景色を眺められるから良い場所だ。

 俺は昔から景色を眺めることがよくある。別に景色をみることが好きかというとそうではなくただなんとなく景色を見てしまう。自分でも理由はわからない。


 教室の中を見る限り、まだ全員は揃っていない。何人かは世間話をしている。知り合いなんだろうか?今日会ってもう話しているならコミュ力がすごいな。俺はコミュ力皆無だと姉から言われたので普通に羨ましい。

それから数分ほど経って、チャイムがなった。同じタイミングでスーツを着た男性が入って来る。

 おそらく30歳に届かないくらいだろう。見た目だけで女子人気がありそうに見える。


「入学式のときにも紹介されたが、この1組を担当することになった木島豊(きしまゆたか)だ。担当科目は数学だ。以上!何か聞きたいことはあるか?ないなら自己紹介を順にしてもらう。・・・なさそうだから自己紹介な。名前と入りたい部活でいいぞ。じゃあ名簿順でいこうか、君からね」


 木島に指をさされた男子から自己紹介がされていく。聞いていると、癖のある紹介をする生徒もいる。俺は何を言おうかと考えていた。すると聞いたことのある声が前から聞こえた。


「私は大宮結愛って言います、中学校は結構遠くの場所だったので友達は一人しかいません。だから仲良くしてください!後で連絡先を交換してくれると嬉しいかな」


 多分照れたように笑っている。その子をみている男子が赤面しているところを見るに間違いないだろう。もう惚れたのか??

 この女間違いなく人間たらしだ。仕草や言動でわかる。多分女子にも男子にも人気になるタイプだ。てか誰とでも仲良くできますオーラが出てる。

 前の席で顔はわからないが、クラスの男子の反応をみるに可愛いんだろうな。


「じゃあ次の人よろしくお願い」


 そう言った彼女は後ろに振り向いた。つまり彼女の後ろの席の俺と目があった。


「・・・もしかして今日電車で席を譲ってくれた人?」


聞いたことのある声だと思っていたが、今朝の電車で会った子か。制服から同じ高校なのはわかっていたが、まさか同級生で同じクラスだったとはな。

 

「そうだけど、とりあえず自己紹介していいか?俺の番だから」

「あ、うん、そうだね。いきなりごめんね」


彼女は俺と話したそうだったが、空気を読んで引いてくれた。

別に目立ちたいわけでもないし、何か変なことは言わず無難に自己紹介を済ませよう。


「上里操士です。入りたい部活はない」


 挨拶を終えて、すぐに席に座った。誰からも注目されない無難な自己紹介。

 すぐに次の生徒に移った。


顔を上げると前の席の大宮と目があう。


入学初日は午前中に帰れるから午後が好きにできる。

 俺はすぐに帰り仕度をすませた。帰ろうと席を立つと後ろから町田結菜に声をかけられた。


「少しいいですか?今朝はありがとうございました」

「ただ席を譲っただけだろ。俺はもう帰るんだ。さようなら」

「待ってください!」


 少し大きな声が響く。教室の何人かがこっちに目を向けた。結菜は恥ずかしいんだろう。顔を赤らめて、すいませんと周囲に謝っている。


「何か用でもあるのか?俺は帰りたいんだが」

「少し相談したいことがあるんです」


 今日会った俺に相談なんて変わった事もあるんだな。相談なんて受けると時間取られるだろうから、帰ろう。


「悪いけど、早く帰りたいんだ」

「帰りながらでいいので聞いてくれませんか?」

「それならいいが、相談なんてほとんど受けたことがないからあまり期待しないでくれ」


 それから結菜と並んで教室を出た。周りからの視線が多い。俺に目を向ける奴はほとんどいないが、何人かは俺を見ている。目立ちたくはないんだが。


「それで相談ってのは」

「ゆいちゃん!」


 校門付近で前方から大きな声がした。あれは今朝、俺が席を譲った女の子だ。


「瑠花、連れてきました」

「ありがとう!」


 今朝と違い、随分元気にみえる。

 瑠花は俺に近づいてきた。緊張した面持ちで俺を見据える。そして、大きく息を吸って、言った。


「これから、私と登下校してくれませんか!」

「嫌です」












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