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拳姫冒険録 俺より強いやつに逢いに行く  作者: 長門症候群
第一章 蜥蜴人の里
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8

 そう、ふんどし。記憶喪失後の穴あきの知識では、今履いているような前垂れのない種類のふんどしは女性用としても存在していた、らしい。前の自分がなぜそんなことを知っているのか疑念は残るが、そうらしい。

 巫女服を着せて寝かせられていたことは、この際いいだろう。あからさまに魔法的な力が働いていることを考えれば、巫女服はその価値からして多少の気恥ずかしさを差し引いても多額のお釣りが来る代物だ。ここ数日動き回って違和感というのも薄れてきていることでもあるし。


 しかし。しかし、ふんどしである。巫女服や晒まではまだ分からなくもないが、ふんどし。己をあの場所に連れ去った者が何者であるのかは皆目見当もつかないが、少々性癖を拗らせているのではないかという疑念を抱かざるをえない。

 意識を失っている間に変なことをされたのではと少し恐ろしくなり、隅々まで体を調べてはみたが、幸いにもそういった痕跡はなかった。


 意識的には男であるからして、記憶を奪われた挙句、体を知らぬ間に女にされ、更には好き勝手されていたとなれば、もしもこんな目にあわせてくれた何某かを見つけたなら、知る限りのところを全て聞き出した上でどう処してやろうかと、今から胸が踊る。


 そんな益体もないことを考えながら道なき道を飛ぶように駆けていると、一瞬、意識の隅に何かの気配が引っかかった。角の生えたウサギやら三ツ目の蛇などといった小物の気配ではない、それこそ、人の大きさの気配。

 これは、と思い立ち止まり、意識を気配のした方向に伸ばす。気配の主の位置を補足する段階になって、その気配が小さく潜められた。

 

 最初は気を抑えて走っていたが、不要な動物との遭遇が多かったことから、今はある程度の気は流して走っていた。気配に敏感な動物たちは、こうすればあちらが勝手に避けてくれるから楽だった。

 しかし、今までこのような反応が帰ってきたことはなかった。動物たちはこちらに気づけばすぐさま逃げるか、こちらに向かってくるかのどちらかだったから。

 で、あるならば、この気配の主は人間に違いないだろう。気配をある程度意識して動かせるならば、動物を狩りに山に入った猟師かなにかか。


 苦節五日にして、やっと第一村人発見だ。この期間を短く感じるか長く感じるかは人それぞれだろうが、しかし、長かった。

 これで青リンゴ漬けのまともに湯にも浸かれない生活とはおさらばである。別に青リンゴが嫌だとか飽きたとかいうことはないが、他の食べ物を口にしたくなるのはまた別のこと。

 それに、祭壇で目覚めてからはろくに水浴びもできていない。見つける水場はどこも足首ほどの深さしかなく、せめて体を拭こうにも布切れの持ち合わせはない。輝かしい未来に思いを馳せ、口元が綻ぶ。


 そんなことを考えているうちに、狩人と思しき相手は気配を忍ばせたまま、距離を離そうと動いている。やっと見つけた人並みの生活の手がかり、逃してなるものかと足元を爆発させて全力で走り出す。下り坂ということもあって、ものの数分としないうちに気配の主を視界に収めることができるだろう。

 ついさっきまでは一日走り詰めでも何も感じなかったが、今となっては一分一秒が惜しい。こんな身も知らぬ地であるから、言葉が通じるかどうかは怪しいが、人間身振り手振りでどうにかなるものだ。


 生憎手持ちはないのだが、青リンゴとの物々交換には応じてくれないだろうか。どれほどの長旅になるかも分からなかったから、それこそ一月分と言って過言でない量が隙間に保存してあるのだが。

 駄目ならば駄目で労働に勤しめばいい。力仕事は苦ではないし、ともすれば家事炊事などより余程得意だろう。なにせ知識として料理というものは知っていたが、その作成手順はからきしであるからして。

 思考の海に沈むうちに、もうすぐそこに現場が近づいていた。涼やかな水の流れる音が聞こえるから、第一村人は川辺りにいたらしい。

 魚釣りでもしていたなら獲物のご相伴に与れないかな、とちらと考えながら、最後の壁として立ちはだかる薮を突き抜けた。


 果たして、そこには人間大の蜥蜴が二足歩行で立っていた。

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