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拳姫冒険録 俺より強いやつに逢いに行く  作者: 長門症候群
第一章 蜥蜴人の里
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 残心。

 ごきゃ、という骨を叩く派手な音の後、彼はゆっくりと仰向けに倒れた。確かな手応えに相手を倒したという確信はあったが、人との体の構造の違いから気絶させるに至らないかもしれないという不安はあった。しかし肉体の頑丈さはともかくとして、中身がどうしようもなく弱点であることに変わりはなかったようだ。

 姿勢を正して一礼する。彼が意識をなくしている今は意味を成さないだろうし、起きていてもいきなり襲いかかっておいて何を、と言われてしまうかもしれないが、自己満足でもいい。戦いたいから戦うし、礼をしたいから礼をするのだ。そこに違いはない。


「しかし、これからどうしようか」


 起きてからいきなり襲われたらたまったものではないので、一応武装解除はしておく。壊れかけの鞘に収められた剣を、彼は気を失ってなおその手に握っていた。武人として大したものだと思う。責任をもって預かっておこう。鱗に覆われたその手からもぎ取っておく。

 さて、記憶を失ってから初めて人類と出会えた興奮と、その相手が戦いの心得を持っていそうなことからつい出来心で襲いかかってしまったが、これは常識的に考えれば通り魔の所業である。目と目が合ったら即戦闘、なんていうのは世紀末でしか通用しまい。

 この世界がそうでない保証は今のところないが、仮にも会話を試みてきた相手に問答無用と殴りかかったらのだから、彼のこちらに対して持つ印象はすこぶる悪いだろう。果たして彼が目を覚ました時に友好的に接してくれることがあるだろうか、いやない。

 こうして戦闘後の賢者タイムにて冷静に考えてみると、今現在、非常にまずい状況である可能性に考えが至った。今のところ人里へと至る唯一の手掛かりは彼のみである。

 彼がこの川沿いを歩いていた以上は、この川を上るなり下るなりしていけば彼の住む場所へと辿り着くだろうが、言葉が通じないことはわかっているし、彼のように他の住民たちが意思の疎通を図ろうとしてくれるかどうかも怪しい。ここは普通に剣を携帯しているような物騒な場所なのだ。同じ人間同士でも争いは起こるというのに、さらには種族すら違う自分を温かに迎え入れてくれるかといえばその可能性は非常に低いと思われる。

 そんな時、もしも彼と穏便にやり取りを済ませていればどうだったか。

 言葉が通じないながら、身振り手振りと見たままでなんの荷物も持たず(隙間の中にアプルだけは大量に保管してあるが)一人で行動しているということは伝わるだろう。武器も携行していないし、危険性は低く見積もってくれるはず。もしかしたら同情して住処へと招いて住民たちとの間を執り成し、寝床を提供していてくれたかもしれない。非常に都合よく展開が進行していればそういう未来もあったはずなのだ。しかし、その可能性はこの手で潰してしまった。

 ならばどうするか。いっそのことこの蜥蜴を亡き者にしてそこらに埋めてしまえばなにも無かったことにできるのでは、なんて邪悪な考えが頭を過ぎったが、そんなことをしては正真正銘の犯罪者の仲間入りだ。

 既に怪しいところではあるなんて声がどこからか聴こえてくるような気もするが、それも彼が被害を訴えなければいいことだ。彼が目を覚ましたら一度、誠心誠意OHANASHIする必要があるだろう。

 さて。とまれ、そういう話は全てこの蜥蜴人間が起きてからの話になる。彼が目を覚まさないことにはこちらとしてもなにもできない。

 目覚めたときに仕返しとばかりに襲いかかってくるか、とも考えたが、先の手合わせで力量は把握した。不意を打ったから、もちろん全力を出せてはいなかっただろうが、それに対応できないというのも未熟の表れではあるのだ。起きるまで監視などしていなくとも問題はなし。

 目の前には膝丈ほどの深さの川があり、そしてここしばらく風呂は愚か体を拭くことすらできていない。せいぜいが雨に濡れての強制水浴びだ。気にしないようにはしていたが、意識してしまえばもう抗えない。

 ここ最近はすっかり火種を作るのにも慣れてしまった。適当な枯れ木を集めて、さっさと焚き火を焚いておく。そうしたら巫女服は脱いで、下着だけで川に身を浸す。

 巫女服も下着も同じように謎素材謎技術で作られているから水に濡れるということはないが、下着を脱がなかったのはいつ蜥蜴人間の彼が目を覚ますかわからなかったからだ。

 裸を見られたところでと思ったりもするが、心はともかくとして、体は女性のものだから、そう気軽に見せるものでもないだろうと理性が言う。

 相手は同じ種ではないのだから、気にしたところで意味はないかもしれないが。


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