第8話「決闘者のん」
その日の夜。
大学から少し離れた廃ビルに、薄暗い明かりが灯っていた。
中には数人の学生がいてカードゲームをしていた。
?「とどめだ!」
?「きゃっ!」
学生1「勝者!裏影健也!」
裏影「またオレの勝ちだ。約束通り、掛け金の100万はもらうぞ」
そう言って札束を懐に入れた。
女子学生「な、何で!?今までアンタに負けたことないのに!」
裏影「なぁに、実力さ。さて、次のゲームをしようか。オレの掛け金は100万にするぜ」
女子学生「わ、私は…もう…」
裏影「金が無いなら、お前の体をかけてもらうぜ。もし逃げようとしたら、ゲームを放棄したとして…分かってるよな?」
女子学生「そ、そんな!」
裏影「それじゃ、こうならどうだ?お前が勝ったら、1000万でどうだ?」
それを聞いた女子学生が喉を鳴らした。
女子学生「や、やりま…」
?「待ちなさい!」
かき消される程の声がした途端、何かが、裏影の顔に当たった。
裏影「な、何だ!?」
それを掴むと、白い手袋だった。
?「やっと見つけたわね。お金を賭けたピカキュアのカードゲームをしている場所を!」
現れたのは、紫色のサイドテールの若い女性だった。
学生2「何だお前!?」
学生3「おい!ここは会員制のゲーム場なんだぞ!勝手に入ってくるな!」
学生4「ここを見られたからには、痛い目にあわせてやるぞ!」
何人かの裏影の仲間が、鉄パイプを持って、のんに襲い掛かって来た。
がんっ!!
しかし、のんはすべての鉄パイプを指1本で受け止め、指を前に突くと、鉄パイプが曲がった。
学生2「な、何だ!?」
のんは裏影を睨みつけた。
のん「貴方が主犯ね。貴方は目を付けた相手をこの裏のゲームに誘い込み、ワザと負けて相手を油断させて、そして大金を賭けてイカサマで負かし、より多くの借金を背負わせたり、横暴な要求をして、それを見て楽しんでいると!その結果、多くの人が苦しんで、ついには、上川百恵と言う女子学生を死なせた。将来声優になってピカキュアに出たいと言う夢を踏みにじって!」
のんは、小説の探偵のようにウロウロしていた。
のん「さぁ、少しでも懺悔があるなら、警察に自首して、罪を償ってくれませんか?今なら、まだ引き返せるわよ?」
すると、裏影が、のんの顔に唾をかけた。
裏影「何言ってんだ。そいつらは、自分の意思で勝負をしたんだぜ?勝者が敗者をどうしようが、勝手だろ!」
のん「そう…。なら…」
のんが指を鳴らすと、謎の円が、のんと裏影を囲んだ。
裏影「な、何だ!?」
それに触れると、ビリっと静電気のようなのが走った。
のん「その結界からは外に出ることはできないわ。一切の謝罪がないのなら、アタシとゲームの相手をさせてもらうわ。それもただのゲームじゃない。これは天使と悪魔が見守る天魔のゲーム。貴方が勝てば、外に出られ、しかも5000万の賞金が手に入るわ」
裏影「ご、5000万!?」
のん「けど、もし貴方が負けたら、運命の罰ゲームが待っているわ。もちろんやるのもやらないのも自由。どう?受けてみる?」
裏影「おもしろい。こんな非常識な状況なのに、何故かお前に勝たないと出られないのはわかる。けど、もし俺が勝てば、さらにお前の体をもらってやるぞ!」
のん「…すきにすればいいわ」
裏影「よし。お前に勝って、お前の体をおもちゃのようにズダボロにしてやる!それで、どんなゲームをする気だ?」
のん「もちろんピカキュアのカードゲームよ。もちろんお互い本気でね」
のんはカードのデッキを取り出した。
裏影「どんなゲームかと思ったら、俺の十八番のやつじゃないか。楽勝だな」
そう言って裏影もデッキをだした。
夢麻のゲーム解説メモ
ピカキュアカードゲームのルールは
プレイヤーは40枚以上60枚以下のデッキを使用。
カードの種類は、キャラクターカード、サポートカード、アクシデントカードの3種類。
キャラクターカードは基本のカードで1~10までのランクがあり、4までは1ターンに1度は出せるのだが、5~6は1枚、7~8は2枚、9~10は3枚のキャラクターカードをトラッシュしなければいけない。もちろんランクが高い程強く、相手のキャラクターカードの攻撃を上回れば、相手のカードを戦闘不能(破壊)にでき、相手プレイヤーにダメージを与えられる。
サポートカードは、キャラクターカードの攻撃力を上げたり、手札を増やしたりすることができる等サポートできるカード。裏向きに設置することができる。使い終わったらトラッシュする。
アクシデントカードは、裏向きに設置したターンは発動できない上、条件が厳しいが、効果が強力で、一発逆転ができる、まさにアクシデントなカードである。使い終わったらトラッシュする。
自分の場に出せるカードは、キャラクターカード5枚まで、サポートカードとアクシデントカードは計5枚まで。
ターンの手順は…
スタートステップ
↓
ドローステップ(カードを1枚引く)
↓
作戦ステップ(キャラの召喚やサポートカードの使用やアクシデントカードの設置)
↓
バトルステップ(敵に攻撃ができる。任意にスキップもできる。お互いの最初のターンは行えない)
↓
ラストステップ(サポート、アクシデントカードを裏向きに設置できる)
↓
エンドステップ(ターンエンドを宣言し、相手に移る)
を繰り返す。
基本的な勝利条件は、
相手のHP(プレイヤーの体力)を0にする
相手のドローステップに、ドローが出来なくなる。
の2つである。
さて、二人はデッキをシャッフルし、4000のHPを設定して、お互い7枚のカードを引き、バトルが始まった。
先行を取ったのんはランク3のピカムーン(攻撃力1600)を召喚してターンエンド。
裏影はランク4のシャドー隊員(攻撃力1900)を召喚した。ここでならのんのカードを倒せるが、お互いの最初のターンは攻撃は出来ないのでカードを1枚セットしてターンエンドした。
のんはサポートカード「ミラクルステック」を使って、ピカムーンの攻撃力を500上げ、次にランク2の要請ピカリン(攻撃力1200)を召喚した。
のんはピカムーンでシャドー隊員を倒し、ピカリンで直接攻撃し、裏影に計1400のダメージを与え、残り2600になった。
のんはカードを3枚セットして、ターンを終わらせた。
のん「さぁ。貴方のターンよ」
裏影「あぁ。そうさせてもらうぜ」
裏影はデッキに手をかけた。
裏影(何が真剣勝負だ。この俺がそんな事をするわけがない。悪いが勝たせてもらう)
デッキからカードを引くふりをして袖からカードを出した。もちろんのんには見えないように。
裏影「くっくっく…。悪いが、この勝負、オレの勝ちだ!オレはサポートカード『闇の宝珠』を使うぜ!」
「闇の宝珠」は、手札のカードを3枚トラッシュすることで、このターンで通常召喚ができない代わりにデッキから、「大魔王ジャアクエンペラー(ランク9攻撃力3000)」を特殊召喚ができる。
裏影「そして俺は、サポートカード『絶望の始まり』を発動!お前の場にいるキャラをすべてトラッシュし、その分、1500のダメージを与えるぜ!」
のんのキャラは全滅し、のんの残りHPは1000になった。
裏影「威勢をはったわりには大したことないな。悪いが、勝たせてもらう。ジャアクエンペラー!奴に攻撃しろ!」
このままジャアクエンペラーの攻撃が通れば、のんの負けが確定する。だが。
のん「アクシデントカード!『ピカキュアシールド』!これで攻撃を防ぐわ!」
裏影「っち!何とか防いだか。けど、次の俺のターンでお前は終わりだ。ターンエンド」
のんはカードを1枚引いた。
のん「貴方。一つだけ警告するわ」
裏影「警告?」
のん「すぐに敗北宣言して。そうすれば、わずかだけど、情けをかけてあげるわ」
裏影「何言っている?この状況で勝つつもりなのか?不可能だぜ!俺の戦略の方がお前より上だぜ!負けを認めるのはお前の方だ!この状況じゃ、高ランクのキャラを出せるのは不可能だ!降参するのはお前の方だ!」
のんはため息をついた。
のん「…せっかく最後のチャンスを与えたのに…。仕方がないね…」
すると、のんの背後に何かが現れた。
裏影「な、何だ!?」
のんの背中に、翼が生えた!?それも、天使と悪魔の翼であった。
のん「ファイナルターン!」
ファイナルターン。それはこのゲームで決着をつける時の宣言だ。
のん「伏せカードオープン!サポートカード『最後の希望』!」
裏山「さ、最後の希望!?殆ど見かけることのない最高レベルのレアカードだと!?」
のん「アタシは!手札をすべてトラッシュすることで、デッキから、ランク10の『光の使者ピカブラック』を召喚!」
のんはデッキからそのカードを呼び出した。しかし、攻撃力はたったの100である。
裏影「そいつは高ランクだが、攻撃力は最低クラス…。だが…」
のん「そう。少しだけ小回りが利かないけど、その分彼女を支援できるカードが多く存在するわ」
だがのんの手札はない。どうするつもりなのか?
のん「アタシはもう一つの伏せカード!サポートカード『ピンチからチャンスへ!マーベル波導波』を発動!場にピカブラックがいる時に発動でき、HPを1になるまで減らすことで、デッキからカードを1枚引き、それが『光の使者ピカホワイト』だった場合、相手キャラを1枚トラッシュし、その攻撃力分のダメージを与える!」
裏影「ジャアクエンペラー攻撃力は2900。俺のHPは2600…。だがそんな博打カードで俺を倒そうってのか!不可能だ!そんな都合よく出る訳がない!」
のんはデッキに手をかけた。
のん「勝利の行方はカードだけが知っている。信じていれば、カードも答えてくれる。ドロー!」
のんが引いたのは、「光の使者ピカホワイト」のカードだった。
のん「引いたわブラックの相棒ピカホワイト!アタシの勝ちよ!」
すると、裏影は笑い出した。
裏影「所詮こんなものゲームだ!」
裏影はすべてのカードを払いのけた。
裏影「本当の強さは力で決まるんだ!」
のんに殴りかかろうとしたが、腕が動かない。
振り向くと、4人の天使と悪魔の翼を持った女性達が裏影の両腕を抑え込んでいた。
なお「大丈夫?のん。代わりに罰ゲームを引き受けようかしら?」
のん「いや。お姉ちゃん達の手をわずらわせる程じゃないわ」
のんが指を鳴らすと、カードのキャラ、ピカブラックとピカホワイトが現れた。
裏影「な、なんだこれは!?俺は幻覚でも見ているのか!?」
のん「言ったでしょ。これは天使と悪魔が見守る天魔のゲーム。貴方みたいな邪悪な心を持った人には罰を与えるわ」
ふたりは、エネルギーを溜め始めた。この動作は、まさか、マーベル波導波の態勢!?
のん「アタシの本当の名前は『ノン・センター』。貴方の身勝手な行為で一人の人間を死に追いやった。貴方はその報いを受けるわ!」
裏影「ま、待ってくれ!俺が悪かった!金なら好きなだけやる!全財産でもいい!だから助けてくれ!!」
のん「もう手遅れよ。貴方はアタシがあげた最後のチャンスを棒に振ったのよ。恨むなら、その時の自分を恨みなさい」
のんは人差し指を天に向け、
のん「運命の罰ゲーム!『マーベル波導波』!!」
大きく指を裏影に向け、マーベル波導波が放たれ、裏影を飲み込んだ。
裏影「ぎゃゃゃゃゃゃ!!!!!!や、焼ける!俺の体が!体が焼ける!!!!」
学生4「ど、どうしたんですか裏影さん!?」
裏影の仲間達は、のんとカードゲームを始めたと思ったら、突然独り言を言い、挙句の果てに口に沫を吐きながら凶変している姿を見ていた。
裏影「や、焼ける…体…が…」
すると、カードをすべて拾ったのんが話しかけた。
のん「この人の悪い心を焼き払ったわ。けど、大半が悪に染まっていたなら、人として壊れるのは当然。悪い事は言わない。その人を連れて警察に自首しなさい。何なら、その人の仇き討ちの相手になるけど?」
そして、裏影の仲間達は、のんを恐れて悲鳴を上げながら逃げ出した。
のんは2枚のカード、ピカブラックとピカホワイトのカードを見つめた。
のん「ありがとね、二人共」
そのカードにキスをした。
すると、裏影に脅されていた女子学生が立ち上がった。
女子学生「あ、ありがとう。助けてくれて…」
彼女が握手を求めようとしたが、のんは払いのけた。
のん「これに懲りたら、もうこんな事をしないで。もしまたこのような事をしたら…、次は貴女の番よ?」
そう言ってのんは立ち去った。
女子学生が見た光景は、まさに狂気に感じていた……。
♡GAMEOVER♡
次の日
百恵の親友は、彼女の墓に花を添えた。
後ろに気配がし、振り向くと、のんが立っていた。
学生「あ、貴女は昨日の」
のん「ちょっと通りかかって、ついでに立ち寄ったの」
のんは墓にある物をお供えをした。
学生「え!?これって…。いいんですか!?こんなものを!」
のん「いいの。この子が好きな物を供えたら、安い物よ」
そう言ったのんを学生は笑った。
キラリと光る、ピカブラックとピカホワイトのレアカードが、長かった雨から明るい日差しのように輝いていた。
防水のカードプロテクターを纏いながら…。
ステージ2GAMECLEAR!
ここまでの物語をセーブしますか?
はい⇦
いいえ