第2章32話「アレルギーは甘え」
慌てて隣の会場に入ると、動揺している群衆の中に苦しんで倒れている女性がいた。
なお「ちょっと失礼!」
群衆をかき分けて女性の元へ行く。
唇は腫れて、その周りは蕁麻疹が出ている。この症状は…アナフィラキシーショックだ!
なお「誰なの!?彼女にアレルギー物質を食べさせたのは!」
すると、1人の年配の女性が出てきた。
女性「あら、どなたか知りませんが、この無能社員は大袈裟に苦しんでいるフリをしているだけです。お気にせずに」
なお「貴女ね。アレルギー物質を与えたのは!これのどこがフリなのよ!何で平然としているの!」
女性「アレルギーなんてただの好き嫌いの言い訳じゃありませんか。私の子供の頃はアレルギーなんて存在しませんから」
なお「時代が違うでしょ!って、こんな事を言っている場合じゃない。確か…」
学生時代に将来的に特定の条件下で死んでしまう体質になるアレルギー持ちの人間が爆発的に増えるって授業で習ったことを思い出し、その時の対処方を教わった。
倒れている女性の側に手提げカバンがあり、その中から、ある物を探して取り出した。
なお(よし!このエピペンで応急処置が出来る!)
エピペンとは、薬が予め入っているペン型の注射器のような物で、アレルギー患者が症状を出た際の応急処置として持ってることが多い。
キャップを口で開けて針を瀕死の女性に向けて刺そうとした。
バシッ!
直前にエピペンが年配の女性に蹴り飛ばされ、壁に当たり、粉々になった。
なお「何するのよ!?あれにはアレルギーの薬が入ってるのよ!」
女性「好き嫌いのクセにそんなの大袈裟じゃない。そんなのに頼ってるから好き嫌いが治らないのよ」
今ここで改心したいが、今は人命が優先だ。
なおはアレルギーの女性をおんぶして会場の出口に向かって走り出した。
女性「待ちなさい!好き嫌いのダメ社員をどうするつもりです!」
なお「うっさい!」
会場を出ると、りお達が入口の傍にいた。
なお「早くこの女性の容態を見てもらわないと!救急車を呼んだり病院に向かう時間が無い!クターに連絡を…!」
りお「そう来ると思っても先程連絡して天魔堂に待機してもらってますわ。ここは私とるなとしゃるに任せてください」
なお「わかった!みんな!こっちよ!」
夢麻達を連れてなおは非常階段の扉に向かった。
追っ手と思われる大人数の黒服が追いかけてきた。
3人は黒服の足を引っ掛けてほとんどを転倒した。
なお達は非常階段の扉経由で天魔堂に入った。
起き上がった数人の黒服が慌てて追いかけ、閉まった扉を開けると、扉の向こうは階段しかなかったが、階段で逃げたと思い、半数で上下の階段を上り下りをした。
同日某時刻 天魔堂 なおの部屋のリビング
女性はなおの自室のベットに寝かせてクターに診てもらっている。
その間になお達はリビングで待機していた。
夢麻「なおさん。あの人は…」
なお「エピペン壊されて応急処置が出来なかったからどうなるかは流石に分からないわ」
しばらくしてクターが出てきた。
ユウリ「先生、どうなったんや?」
クター「一応一命は取り留めた。今は鎮痛剤で眠っている」
そう聞いて一同は安心した。
クター「全く。エピペンを壊されたとはいえ、お前が居ながら人1人の命を失いかける所だったんだぞ」
なお「面目ない」
クターは手製のカルテを取り出した。
クター「しばらくは安静だ。どこに務めてるかは知らないが当面の仕事は休ませておくんだな」
カルテと診断書を受け取り、クターは帰って行った。
しばらくしてりお達は戻ってきた。
るな「遅れてごめん。中々撒けなくて。それで容態は?」
葵「助かったみたい。しばらく安静だって」
るな「そう」
るなはソファーに座って大きくため息をついた。
すると、スマフォの着信音が響いた。
のん「ほっといていいよ。多分あのアレルギー物質を無理やり摂取させた人からだから」
亜子「3分に1度はかけてきてうんざりしている所だ」
なお「全く。人の命を何だと思ってるのよ。アレルギーなら尚更よ」
のん「そうね。サイガー開発開始の矢先にこれだからね。ゲーム作りの前にあの人を何とかしないと」
しゃる「そういう訳だから、葵ちゃんには悪いけど、まずは改心しないと」
のん「眠っている人の手荷物を調べて勤め先を調べとくわ。葵達はその人の介護を交代でしてくれる?」
夢麻「わかりました」
優香(頷く)
亜子「モチのロンだ」
巫女「何か買ってこようか?」
なお「いや。しばらくは外出をできるだけ控えて。顔を見られてる可能性があるかもしれないから」