ボッチの昼食
人の勘というものは馬鹿にできないものだ。
敏腕刑事が捜査中に今までの経験から勘に頼ることもある。
また女性が男性の浮気を見抜く時もある。
刑事の勘、女性の勘といい凄まじさを感じさせる。
俺の勘とは大違いだ。
あれから二週間経ったが俺のボッチ生活は一切の変化がない。
転校生も二年次からの編入というのに既にクラスに馴染んでいる。
クラスの中でも気難しそうな大和撫子女子と仲良く話している。圧倒的なコミュニケーション能力を感じさせる。
彼女を嫌いな人間はいないのではないか。
それより、大和撫子女子は同じボッチだと思っていたのだがな。残念だ。
日に日にクラスの居場所がなくなるように感じるな。
まあただ単に友だちがいなくて居辛いだけだ。
仕方ないく今日の昼食も外で食べることにするか。姉が作ってくれた弁当を片手に教室を出る。
去りゆく教室から楽しみそうな声が聞こえたが悲しくない。全くもって悲しくなっていない。
だから、潤んできた瞳もゴミが入ってきたせいだ。
つよがりはやめよう。泣きそう。つら。
一人寂しく歩き辿り着いたのは特別棟の屋上だ。
この学校は上からみるとエの字形になっている。理科室や音楽室といった例外を除いて殆ど使用されていない特別棟と普通棟を渡り廊下が繋いでる。
特別棟と普通棟の間は中庭になっており、昼食をとるリア充も多い。先ほどもチラッとみただけで何組かのリア充グループがいた。
だから友だちがおらず話かけることもできない俺は人がいない特別棟の屋上まできた。
ここでなら一人で食事をとることができる。
弁当箱の蓋を取ると毎度のこと色合いがよくバランスが考えられている。とても美味しく箸がよく進む。姉の愛情を感じつつ美味しい食事にしあわせな気持ちになる。
美味しい食事を終えやることがなく屋上に設置されているベンチに横になる。食べてすぐ寝るのは健康にわるいといわれてるが仕方がない。
満腹の状態で暖かな陽射しを浴びていると眠くなってしまうものだ。うん、とっても気持ちがいい。
意識が遠くなっていくのを感じる。少し眠るか。
バタン‼︎といきなり屋上のドアが開く音がした。特別棟の屋上は滅多に人がこないので珍しいな。
折角眠る寸前だったのにと煩わしく思いながら体を起こしドアの方を見る。
何故か転校生がいた。
息が乱れ頰に若干の赤みがさしていることから走ってきたのだろうがわかる。
何故人のいない特別棟の屋上に来たのか分からないが俺のことを見て笑っている。
もしかしてだが俺に用事があったのだろうか。これでも浮かないためにも課題などに提出物は出しているはずだが。
いや、勘違いだな。俺の日常生活における勘はちっとも当てはまらないから。
うんうん。声をかけて恥ずかしい思いをするとこだった。
前にもあったよな。
道で見覚えにない人が声かけながら近づいてくる。それに手をあげたら俺の後ろに振ってたんだよな。
あれと似たようなことをするとこだった。周りの目線がボッチに刺さるんだよな。
「氷室凛くんだよね。いつもここでお昼食べてるの? 一人だと寂しくないの。友だちと食べた方が美味しいよ」
「……ああ。静かでいいところだからな。一人でいるのが好きなだけだ」
彼女はこんなボッチにも気を遣える優しい子みたいだ。だが、最後の言葉は心に刺さる。
友だちいない人はどうすればいいんだよ。
しかも一人が好きって言っちゃったよ。何言っての俺。テンパり過ぎだろ。
自ら一人でいるのと結果的に一人になるのは違うだろ。
彼女はなんでここにきたんだろうか。聞いてみるか。
「転校生はどうしてここに来たんだ? ここにはなんもないぞ」
「氷室くんを探して来たんだ。こないだのお礼が言いたくてね。 ナンパから助けてくれてありがとう。ほんと困ってたんだ」
「別に気にしなくていい。俺が勝手にやったことだからな」
俺の言葉を聞き彼女は困ったように笑った。
「それでも私が助かったのは事実だから。私が言いたくてお礼をいってるの」
笑いながらお礼を言う彼女にそうかと返した。
会話が途切れ沈黙が続く。普段では気まずく感じるが彼女に対してはなぜか居心地がいい。
彼女となら友だちになれるかもしれない。
そんなことを考えていると彼女がベンチのとなりに座った。距離が近い。
女の子特有ののいい香りが漂ってきた。
緊張する。なんでとなりに座ってるの? 何が狙いだ。
意を決して彼女の方を向く。目があった。汚いものなど一切見て来たことがないような目だ。
ああ、これは汚してはいけない。ずっとこのままであるべきものだ。
さっきから強く脈打つ心臓がうるさい。彼女に聞こえてしまうのではないかと心配になる程だ。
そのまま彼女と見つめあっていると突然顔を背けた。頬が赤くなっている。
「ねえ、そんなに見つめられると流石に恥ずかしいよ」
語気が強く怒っているのかと思ったが顔が真っ赤になって照れているように見える。
そこまで言われて俺がやっていたことが急激に恥ずかしく思えて来た。
すまないといい彼女に謝る。
彼女はにっこり笑い許すと言ってくれた。
「でも、一つだけ条件をつけるね。明日から私とここでお昼食を一緒に食べること。いいね」
立ち上がり指をさして確認して来た彼女に頷く。
言いたいことを言い終えたからか笑顔で手を振りさる彼女を見送る。
勢いで頷いてしまったがこれはいい機会だ。
彼女と友だちになれるかもしれない。なぜか分からないが彼女と一緒だと安心する。
今日この出来事から俺の青春が始まっていくのかもしれない。
晴れ渡る空のもとそんなことを考えてみた。
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