ボッチは会話がうまくできない
人生に一度きりの青春という名の高校生活。 今は、春休みなので友だちや彼氏、彼女と遊んでいる人も多いだろう。
現在16歳青春真っ盛りの俺氷室凛は思った。
さあ、俺も友だちと遊びに行くか。と意気込んで見るが友だちはいない。
友だちいない歴16年だ。むなしい。
そんなことを考えてると隣から声がかかる。
「凛くん春休み中ずっと家にいるよね。お友だちと遊びに行かないの?」
ソファのとなりに腰かけ足をぶらぶらさせている姉だ。
内容自体は弟である俺を心配しているが、これは違う。姉弟なだけあってわかる。
隠しているつもりだろうが目が笑っている。俺をおもちゃにして遊ぶ時の目だ。
「俺に遊びに行く友だちいないの姉さんは知っているだろ」
「えーそうだっけ? お姉ちゃん忘れてたよ。ごめんね凛くん」
姉がとても大げさに両手を合わせ謝ってくる。常々思うがほんと家では雰囲気が緩いな。
外では艶のある黒髪をポニーテールにして抜群のスタイル。凛々しい表情で、ザできる大人の女性みたいなのにな。
緩い雰囲気も非常に絵になる自慢の姉だ。
ただ最後の一言はとても心にくる。
「俺は友だちができないわけじゃない。つくらないだけだから」
姉の目が暖かいものに変化した。たしか、俺の小さい頃のアルバムを見るときもあのような目だった筈だ。
この流れはマズイ。
「……えっと。お姉ちゃんからかいすぎちゃってごめんね。凛くんは優しい子だし、カッコいいから大丈夫だよ。特に凛々しい目とか。うんうん! 直ぐにお友だちもいっぱいできるからね」
ああ。つらい。なんで見栄を張ってしまったのだろうか。
本心で言ってるのが伝わるからよけいに恥ずかしい。今なら顔から火が出るかもしれない。
両親が仕事で多忙な為、3つ上の姉には幼い頃から面倒を見てもらっていた。その影響で今だに子供と思われている。
そんな姉に嘘が通じるはずがなかった。
ここは伝家の宝刀を抜くべきだな。さあ、行くぞ。
「お姉ちゃんありがとう!」
説明しよう。伝家の宝刀とはブラコン気味の姉に対する最後の切り札だ。
いつもは姉さんというところをお姉ちゃんという。そして笑みをを添えるのがポイントだ。
強力な分欠点もある。お姉ちゃんなんていうのは小さい時だけだったから、非常に恥ずかしい。
「えへへ。お姉ちゃんだって。凛くんはいくつになってもかわいいな。一生お姉ちゃんの弟でいてね。えへへへ……」
これをすると普段はしっかり者の姉がトリップをしてしまう。このまま居続けると危険だ。直ちに離脱しよう。
丁度いい時間帯なので外に走りに行くか。断じで今の姉に捕まりたくないからではない。
運動は大事だしな。
さっと立ち上がりリビングを出て廊下に続く扉を音の出ないように丁寧に閉める。
「凛くん……。かわいいな。……あれ? 凛くんどこ?」
自分を呼ぶ声がしたがきっと気のせいだろう。いや、絶対気のせいだ。
春という季節は夏や秋と比べて過ごしやすい。暑くもなく寒くもなくといったまさにベストな気候だ。
花粉症にかかっている人を除けば好きではなくとも嫌いな人はいないだろう。
幼い頃から剣道をしていたため同年代に体は鍛えられている自信がある。そのため大抵の人はついてこれないスピードで飛ばす。
世話をやいてもらった姉を守るためにはじめた剣道だがここまで成果がでてくると嬉しい。爽やかな風を感じながら気分も高揚してくる。最高の気持ちだ。
「ねえいいじゃん。遊ぼうよ」
バカの声が聞こえ一気に気分が悪くなる。さっきまでの気分が台無しだ。
そちらを見てみると嫌がる女の子にガラの悪そうな男二人がナンパしていた。
まわりを見渡しても気づいている人は何人かいるがみんな見て見ぬふりだ。面倒ごとは避けたい気持ちもわかるが助けるべきだろ。
困っている女の子(特に姉)がいたら助けるという 姉の教えに従い助けよう。
決意を固め少女たちの方に向かう。
「だからいいじゃん。てかこっちが下手に出てるからって調子乗理すぎじゃね」
「だよなー。おかしいよなー」
バカの理論には呆れるしかないな。だが、拙いことになってきた急ぐか。
「やめてください。誰があなたたちなんかと遊びますか!」
その声には若干の恐怖が混じっているように聞こえた。
それでも気丈に立ち向かう少女は気高く美しく見えた。
あんなチンピラごときに触れていいものではない。
背の低い方のチンピラが少女に切れた。そのまま腕を後ろに振りかぶり殴るつもりか。
これだからチンピラは。まあ殴らせないけどな。
ガシッ‼︎
振りかぶった腕を掴み捻りあげる。チンピラの悲鳴が聞こえるが無視だ。
え⁉︎
少女のかわいらしい声が聞こえた。
「ねえ。君たち邪魔。いつまでここで騒いでんの」
自分で思ってた以上に低い声がでた。
単純にイラついてるからだろう。
決してチンピラでさえ友だちがいるのかよっていう私怨ではない。
「テメエ何しやがる」
もうひとりの方が怒鳴ってきた。
掴んでるチンピラを投げつけ黙らされる。
二人はもつれながらころんだ。
ここで俺の睨みつける攻撃。
ただでせえ鋭い目つきが恐怖を誘うだろう。自分で言っててむなしいな。
そんなことを考えてるとチンピラたちが捨て台詞を残し去っていった。あまりのテンプレぶりに驚愕せざるおえない。
「あの……ありがとうございます。助けていただき助かりました」
声がしたので少女の方に振り向く。そこにいたのは紛れもなく美少女だった。染めているのではなく自然な感じのやや赤みがかったショートヘアーの茶髪。目をパッチリと表現できる大きさで、口や鼻といったパーツも整っている。体型などは未だ発展途上と言えるが美少女だ。
何を話せばいいのか全く分からん。ただでさえ人と話すのは得意ではないのに。
どうする? どう答えればいい。
彼女の目をみると感謝に若干の尊敬が混じっているような気がする。
やめてくれ。そんな目で見られたら余計何を言えばいいのか分からないだろ。
はやく答えなければ。えー。
「ああ……。……怪我がないようでよかった。次からは気をつけろ」
やっちまった。何目線だよ俺は。何が気をつけろだよ。人に言う前に俺が気をつけろよ。
ほら見ろ彼女もキョトンとしてるじゃん。やっぱ初対面の人はきついな。
なんか言われる前に逃げるか。アデュー。逃げるが勝ちってね。
なんか言ってるような気がするけど俺には聞こえないなー。うん、全くもって聞こえない。
あー友だちほしいなー。でも現状だと無理だよな。ろくな会話ができないし。
ほんと残念すぎるぜ俺。
吹き付ける風が冷たく感じるのは気のせいではないだろう。
処女作となりますので感想をいただけると嬉しいです。