『検体97番』 ヒルダシナリオ part3
ドクター・ジャンとの面談を終えた検体97番 。
評価されている事を理解し、今までにない感情が
自分の中で芽吹き始めているのを感じる。
ドクター・ジャンとの面談で変化の切っ掛けを得た彼女は
女所長であるヴァレリーと話すことになるのだが…
ドクター・ジャンとの面談が終わり監視員と共に自室に戻る途中でヴァレリー所長が反対側
から向かって歩いてきます。
分厚い書類を読みながら進むヴァレリー所長はすれ違うと急に大きな声で私を呼び止めました。
ヴァレリー「待ちなさい!」
私と監視はすぐに立ち止まり、ヴァレリー所長に向け敬礼をします。
ヴァレリー 「貴方、その傷をどこで負ったの。」
肩まで掛かる長い黒髪を振り私に問いかけます。
検体97番 「検査室です。」
私は間を置かず簡潔に答えます。それが最善の方法であることを理解しているから。
ヴァレリー 「あのヒゲ…。私の許可なく、検体に傷を付けるなんて…
そこに座り、大腿部を見せなさい。今すぐ!」
私は言われるまま近くの椅子に座り短剣で貫いたズボンの部分を破り、損傷個所を見せる。
ヴァレリー 「貴方、今までに似たような事をされた事は?他に傷は無いの?
ジャンが貴方に傷を負わせたの?」
ヴァレリー所長は怒りを滲ませながら矢継ぎ早に質問を続ける。
検体97番 「いいえ。ありません。いいえ。」
私は問いに対して、間を置かず簡潔に答えます。
それが最善の方法であることを理解しているから。
ヴァレリー所長は不思議そうに私の顔を覗き込みます。
ヴァレリー 「今の…私の質問に答えたの?」
検体97番 「はい。」
ヴァレリー所長のこの表情は初めて見ます。しかし、似た表情は検査室でも見ました。
ヴァレリー 「…今まで、検査室で傷を負った事は無い。」
検体97番 「はい。」
ヴァレリー 「今、他のカ所に傷は無いのね。」
検体97番 「はい。」
ヴァレリー 「…では、…貴方…自分でその傷を作ったの?」
検体97番 「はい。」
ヴァレリー 「貴方、賢いのね。αは感情が豊かな個体が多く、学習能力があることは報告で
知っていたけれど…凄い。理解力、思考瞬発力、情報の精査が上手いのね。」
検体97番 「ありがとうございます。」
私の対応に不快な想いはしていない事はわかりました。
しかし…怒りとも喜びとも異なるヴァレリー所長の感情を私は理解できません。
ヴァレリー所長は傷を見るとそこが次第に小さな音を立てて治癒している事に気付きました。
ヴァレリー 「どうゆうこと?…えっと検体97番よね。
自己治癒能力があるという報告は受けていないけれど。」
検体97番 「はい。先程、ドクター・ジャンに新薬を頂きました。」
ヴァレリー 「なるほど。それの実験か。…新薬の試験的投与を単独で行うなんて…
さぁ~て…これは減俸だけで済むかしらね…」
ヴァレリー所長は怪しく笑う。私は知っています。この笑みの後には決まって
ドクター・ジャンの悲鳴に似た声が響くのです。
検体97番 「…」
ヴァレリー 「あら、ごめんなさい。もう良いわ。戻りなさい。」
ヴァレリー所長は立ち上がってその場を後にします。
その日の夜、ほとんどのアリフが寝静まった研究所内にドクター・ジャンの悲鳴は
一際大きく響き渡りました。




