『検体97番』 ヒルダシナリオ part2
α実験体の検体97番は多くの戦闘経験を持つ兵士を相手に
無傷の生還を果たします。
ただ命令に従う。
それが今の彼女。
ジャン 「よし。体は問題なさそうだな。…しかし被弾ゼロとは素晴らしい戦績だな。」
ドクター・ジャンは笑いながら私に話しかけて来る。いったい何が面白いのか
私には理解できませんが認められている事はわかりました。
訓練終了後、80人の兵士の死体と31体のアリフだったモノが実験場から搬出
されました。
生き残ったアリフの中には新たな能力を獲得した者もいるらしく、私も精密検査を
受けています。
検体97番 「生き残れというのがヴァレリー所長の指示でしたので、被弾するべきではないと
判断しました。」
ジャン 「…。そんな簡単な事かよ。アイツ等はお前たちを殺す気だったんだぞ。」
普段と変わらない口調ですが、表情は険しく、ジャンは緊張した様子で話します。
これはヴァレリー所長が私たちに向けて「殺さなければ壊される」と言った時に似ている気がします。
やはり、この2人は似ているのでしょうか。
ジャン 「…。ま、無事だったんだ。何よりだよ。…っで、検体97番。
能力に変化はあるか?それ以外でも、心境や調子の変化など何かあったら教えてくれ。」
私は普段の私の行動と今朝の行動を思い返し、違いについて考えます。
検体97番 「昨晩の就寝から起床にかけて変化は特別ありません。
強いて挙げるのであれば巡回が遅かったこと程度です。」
ジャン 「巡回については報告を受けている。
監視達も訓練の事は知っているからな。
自分たちがどれだけ危険なパンドラの番をしているのかやっと理解たのだろう。
今までは動かぬ的に能力を使っていた程度だったからな。」
ドクター・ジャンは含み笑いを浮かべながら呆れたように話しています。
しかし、どうやらコレはドクター・ジャンの期待する答えではないみたいです。
おそらく次の質問を考えているのだと思います。顎に生えた無精ひげを撫でて
壁を見つめてるので間違いないと思います。
ジャン 「…そうだな。ん…。昨夜の訓練以降、能力を新たに発現させた者も居るが
そのことは知ってるか?」
検体97番 「はい。私がこの部屋に入る前、その件について話しているヴァレリー所長が
話していたので。」
ジャン「それについて、お前はどう思う?」
質問の意図が理解できません。
何かを想う事が正解なのでしょうか。私は眼を閉じて答えを探す。
ドクター・ジャンが投げかけた意図を理解したい。しかし、その答えを見つけられなかった。
検体97番 「…特にありません。」
探した結論だけを端的に伝える。
ジャン 「ほぉ…。特に無いか…。では質問を変えるとしよう。
私は今回の訓練で生き残った者達に何か望みのものを与えようと思う。
自由や権利というものは難しいが、せめて形のある要望なら応えられるが…
検体97番…君の望む物は何かあるかい?」
検体97番 「特にありません。」
今度はすんなり答えが出た。先程の質問とは異なるモノだと理解しています。
しかし、考え方そのものは先ほどと、ほとんど同じ性質だと理解したためです。
ジャン 「…。よし。コレを持ってみろ。」
そう言って私に短剣を手渡します。
ジャン 「それで自分の太ももを刺しなさい。」
検体97番 「了解しました。」
私は言われたとおりに大腿部を短剣で貫きます。
ジャン 「やはりか…。良いだろう。ではもう一度それを私に返してもらえるかな?」
検体97番 「了解しました。」
大腿部から短剣を抜き、ドクター・ジャンに渡すと、ドクターの表情は変わり
訓練時の兵士の様な鋭い眼光を放ちました。
そして、次の瞬間短剣は私の眼球に向かって伸びてきます。
このまま進めば眼球を貫き、短剣は脳まで到達するでしょう。
しかし、短剣は眼球前、2センチの距離で急に止まりました。
ジャン 「何故避けない。」
検体97番 「此処はドクター・ジャンの部屋であり、アリフである私は貴方の決定に従う
べきだと判断しました。」
ドクター・ジャンはふぅっと軽く息を吐き私にキャンディを渡す。
ジャン 「食べておきなさい。それは新しいタイプの物だ。外傷を数分で回復できる。」
検体97番 「はい。」
ジャン 「嫉妬や期待、願望も無く物欲も無い。…場合に合わせて忠実に行動する兵士…
理想的な存在だろうな…」
ドクター・ジャンは何かをメモします。口元が若干つり上がり笑っているようにも見えました。
ジャン 「ん。わかった。もしかしたら君には後で大きな手伝いをしてもらうかもしれない。
その時は手伝ってもらえるかい?」
検体97番 「私はそのために存在しています。」
何故ドクター・ジャンはわかりきった質問をするのでしょうか。理解できません。