『検体97番』 ヒルダシナリオ part1
帝王都は魔術師を不穏分子と見なし、グリモ帝王の政策により迫害されていました。
これを受けて魔術師との衝突は激化し、全面的に敵対関係を取ることになります。
しかし、神の血を引く彼らを退けるには科学の力を持っても力不足でした。
そこで帝王都は人工的に、対魔術師人型兵器アリフを開発します。
アリフとは精霊を科学の力で結晶化させたもの。
実験を繰り返し、アリフの製造方法を確立するも個体差の激しいモノしか生み出せず、
また命令に対し従う者が生まれにくい為、実践配備されず軍の一部の者しか
知らないブラックボックスとなっている。
舞台は初期実験体であるα素体での製造が終盤に差し掛かったところから始まります。
帝王都歴59年 私は一般の人間とは隔離させた施設、α実験場で生活をしていました。
α実験場とは人工生命体アリフを製造、教育し兵士として育てる帝王都機関です。
私は此処で毎日、能力検査、戦闘訓練を繰り返し行っています。
ジャン「おぃ、97番。聞いているのか検体97番。」
彼はドクター・ジャン。α実験場の副所長です。アリフの産みの親に等しい科学者。
検体97番「すみません。呆けてました。」
私のすぐ横を初期生産型のアリフが笑いながら通り過ぎる姿に私は意識を奪われていました。
ジャン「しっかりしろよ。今回は、ほぼ実戦に近い形で行うんだ。調子はどうだ?」
検体97番「特別問題ありません。」
ヴァレリー「本当に気をつけなさい。壊される可能性だってあるのだから…はいキャンディよ。一応予備に持っておきなさい。まったく模擬戦だっていうのに…」
彼女はヴァレリー所長。α実験場の最高責任者です。
キャンディというのは私達、アリフの生命エネルギーを固形に変換した薬の俗称です。
キャンディで補給できるのは基本的に生命エネルギーですが、私たちは生命エネルギーを
消費、変換し特別な能力を使役できます。
私の場合は物に風や炎等の属性を付与する力があります。
ドクター・ジャンとヴァレリー所長は仲が良くないのか、ドクター・ジャンが話した後に、ヴァレリー所長が大きな声を出す事が多いです。
しかし、不思議な事にドクター・ジャンはそれに笑って応えるのです。
人間のコミュニケーションは不可思議です。
私たちはギャレッド大佐の元に集められ、訓練の内容の説明を受ける。
対魔術師兵器を持った兵士との模擬戦闘。それが今回の訓練ということでした。
ヴァレリー「アリフ達に命じます。今回の模擬戦闘訓練は能力を使う事を禁じます。」
元々、戦闘向きで無い私の能力は制限されても問題にならないと思われます。
しかし、ヴァレリー所長の表情は強張り、普段より緊張感のある声を出していました。
ヴァレリー「生き残りなさい。能力を使わなければそれで良い。後は各自の判断に任せます。
実践だと思い、戦いなさい。敵を殺さなければ…壊されます。」
検体97番「…。殺さなければ…壊される…」
何故か最後の一言が私の心に残りました。
普段の訓練と違う、もっと強く明確な何かがあるように思えました。
ブザーが鳴り一斉にアリフと兵士の打ち合いが始まりました。
地下に造られた街は大小さまざまな建物が混在し、人間が使うであろう家具や生活用品も整えられていますが、それがあちこちで壊れていきます。
私は短機関銃を手に裏路地に入り、数人の兵士を倒しながら4階立ての建物に入り階段を駆けあがる。
屋上に出る戸の外で私が扉を開けるのを待っている兵士の気配に気付きました。
私は冷たい引き金に指を添え、一瞬だけ引き金を引きます。
一発の弾丸は兵士の心臓に命中しました。
反撃もせず、兵士は静かに胸を確認し流れる血を見て表情は固まりました。
兵士は銃を落としてその場に倒れ込みます。
それでも私は死んでいるのか確認する必要があります。
ゆっくり戸を開け、兵士に近付く。
兵士は睨む様に私を見てきます。不思議です。私は訓練をしているだけなのに。
何故この様な眼を向けられるのでしょうか。
…しかし、それより重要な事は…
検体97番「生きている」
そう、私はまだこの兵士を殺していないのだ。
血を流しながら、うつ伏せに倒れる兵士の頭に銃口を向ける。
1発では殺せない可能性がある。次は数発使っても脳を破壊し確実に殺すべきでしょう。
軍人1「!」
検体97番「殺さなければ…」
今度は5発使い軍人の頭部を完全に破壊します。
検体97番「壊される…」
硝煙の匂いに不快感を覚えながら私は殺した人間の数字を数える。
検体97番「これで3体目」
はい。
現在の名前は検体97番の彼女。
この話では出てこない他の検体は特に自我が強く
悪戯好きや本の虫、何事にもビクビクと怯える臆病者達が数多く存在します。
つまり、問題児ばかりが集められたクラスの中に優等生が1人混じっていると
言った方がわかり易いかも知らません。
そんな優等生の検体97番がどう変化していくのか、『検体97番』
という話の中で描いていきたいと思います。