『廃墟に残るモノ』 リーベシナリオ part4
辛い記憶を抱えながら、彼女には優しい理解者が2人もいる。
今となっては他人を思いやる気持ちを持てるほど余裕が出てきたことは
喜ばしい変化です。
朝になるとメガネはぎこちない動きをしながら食堂にやって来る。
きっと私の忠告を無視して遅くまで仕事をしていたのだろう。
自業自得だ。
リヒャルダ「イェンさん。大丈夫ですか?」
リヒャルダがメガネにコーヒーを差し出す。
イェン「う、うん。…あのリヒャルダちゃん。
…。僕が仕事してる時ってうるさいのかな?」
リヒャルダ「え?そんなことないと思いますけど…どうしてですか?」
イェン「えっ…いや…その…ううん。大丈夫だよ。」
2人は揃って不思議そうに首を傾げている。
作業中の音などリヒャルダに聴いてもわかるはずないのに、本当は馬鹿なんじゃないかしら。
オシラNO5「おーい。お宝発見!」
名前も知らない男が子どもみたいにはしゃぎながら食堂に駆けこんでくる。
イェン「ん~どうした?金目の物でも見つけたのかい?」
オシラNO5「とりあえずコレ見てくださいよ。コレ。」
そう言って一枚の紙をイェンに差し出す。
イェン「ッ…」
イェンは驚いた表情で息を飲んだ。
よっぽど驚いたのかメガネの緊張が伝わって来る。
リヒャルダ「何ですか?私にも見せてください。
これ…リーベさん…?」
オシラNO5「そうなんですよ。コレ。めっちゃ似てません?つーか、本人でしょ本人。」
イェン「いや、でも少し慎ましい感じがしないか?」
リヒャルダ「そうですか?私には少しキツイ様に見えますけど…」
イェン 「いや、顔じゃなくて胸が…ぐはっ…」
リーベ 「貸しなさい。」
確かにそこには私に似た女性が映っていた。
だが、身に付けているブローチがその人を表していた。
若かりし頃の母だ。間違いない。
私も初めて見る写真だ。
穏やかに笑う表情が私がリヒャルダに向ける表情と重なり嫌な汗が出て来る。
リーベ 「私は…あの女の亡霊じゃない!」
写真を握りしめたままテントを出て森を抜け、その先の教会へ一息で駆け抜ける。
壊してやる、消してやる。内戦なんかじゃなく私の力でアレを否定するんだ。
今の私はあの頃とは違う。
一人で生きられるし、力も手に入れた。
教会に着いた。
昼の風景は私が居た時間をより鮮明に映し出す。
リーベ「はぁはぁ…」
崩れた壁を壊すために振り上げた拳は力なく震える。
怖くない、怖くない。
私は強くなったんだ。
リーベ「うあぁ!」
力の入っていない拳を壁にぶつけて、手に痛みが走る。
薄皮がめくれ血が滲むと震えは一層強くなり、自分では止められなくなっていく。
リーベ「もう、あの頃の私じゃないんだ…
ケン(K)ペオーズ(P)心火の…岩漿」
コレが魔術だ。
私だけの力…私が、私を守る為に手に入れた力。
他人の意識に影響を受け姿が変わってしまう魔術師…だけど…それだけじゃない。
私の拳なら城壁だって突き破れる。
有っても無くても変わらない、世界に何の影響も与えないこんなモノとは違うんだ!
壁を壊した後、今度は全力で焼け焦げた柱を砕く。
どうだ。どうだ!
もう、檻でうずくまるだけの私じゃない。
リーベ「私は…変わったんだ!」
ギムレット「必要の無いモノなんて言わないで!
私にはたった一人の友達なんだよリーベ!」
リーベ「っ。」
ギムレットの言葉が脳裏を過る。
それは生きる事に理由を見つけられなくなった時、ギムレットが泣きながら私の頬を叩いた時の記憶。
此処はただの廃墟じゃなかった…
ギムレットが確かに居た証だったのに…
私は…
この場所が呪いのように私を苦しめ、此処の出逢いが私の魂を救ってくれた…
わからないよ…ギムレット…私はどうしたら良いの…
力なくその場に崩れる私にリヒャルダはそっと寄り添い、
私の手を強く握ってくれていた。私が泣き止むまでずっと…隣で。
今回のお話で『廃墟に残るモノ』は完結です。
次回からは同じ世界でほぼ同じ時間軸のお話に変わります。
次は鯱織いちごさんオリジナルキャラクター
α実験体のヒルダシナリオです。
また、HPではラジオやボイスドラマなどもアップしていくので
こちらもチェックして頂けると幸いです。
https://nue0229.jimdo.com/
☆リーベシナリオに凪兎先生の挿絵が入ります‼‼
近日更新予定。
こちらもご期待ください。