ー第2話コンペティション エリア
ー第2話コンペティション エリア
午前2時の巡回で、空になった独房は見逃された。分部に取り込まれていた看守の担当だったからだ。
そして午前4時の巡回で、刑務所はパニック状態に陥った。施設内部をくまなく捜索するのに、1時間の無駄な時間を浪費した。
岐阜県警に第一報が入ったのは5時30分…検問が敷かれたのは6時00分。分部は復讐の態勢を完全に整えていた。
小谷晴朝に連絡の電話が入ったのは5時40分。携帯など無く、黒電話のベルと妻が受話器を取る音で目が覚めた。
3才の利治は、頻繁に鳴る黒電話のベルに慣れていて、スヤスヤと寝入っている。
妻の佐恵子が振り返ると…すでに小谷晴朝の手が受話器を受け取ろうとしていた。
「田島さんから…。」
佐恵子が言うと、うなずくだけで受話器を受け取った。
「小谷だ…。……。そうか…。末次家と竹山家には、三橋と加藤を張り付けろ。俺の自宅に栗林を寄越してくれ。朝のラジオ体操は止めるように町内会長に電話だ。6時では間に合わんかもしれんが…しないよりましだ。小中高の校長、PTA会長にも登校中止を要請しろ。今日登校日の学校があるかもしれん。」
小谷晴朝は言いきると、電話を切った。佐恵子がすでに、背広を用意して待っている。素早く着替えて、官舎の玄関に出ると、栗林刑事が車で入ってきた。
「栗林。分部がウチを襲うかもしれん。頼むぞ。」
「小谷さんはどちらに?。」
「分部のアジトになりそうな場所を突いてみる。コンペティション エリアを狭めないと、手に負えなくなるぞ。」
コンペティションエリア…CAとも呼ぶ。直訳で競合地域。小谷が好んで使う、小谷用語だ。
「街中がCAってわけですか…。」
「活動拠点を奪えば、CAは限定できる。問題は限定するまでの間だが…ゼロにはできんが、少なくすれば分部の精神的優位性を奪う事ができる。キーを寄越せ…。」
小谷晴朝は、栗林からキーを受け取ると、官舎前に停めてある覆面パトカーを発進させた。
無線を署に入れる。
「移動フタマルイチキタ…小谷。キタ本部どうぞ。」
ー小谷か。谷垣だ…分部の所在は不明だ。目撃情報もないー
「署長。川北の農作業小屋を潰してみます。奴が拠点に使ってるかもしれません。」
ー…小谷。刑務所に書き置きがあった。分部の目的は、お前に対する復讐だ…気をつけろ。ー
「ならば好都合です。自分から動きを限定するとは…分部らしい。」
ーお前の指示は、田島が全て実行した。県警全体は、岐阜市と隣接市町村の検問を6時に完了した。他に必要な物はあるか?。ー
「すでに分部は、最初の標的を狙える位置に居るはずです。動いたら、その地域から外に出さないようにして下さい。」
ー分かっている。最初の標的の予測は誰だ?ー
「…言えません。分部がこの無線を聞いている可能性があります。ですが、分部が動けば確実に身柄を押さえます。」
ー頼むぞ。何か有ったら無線を入れろ。後続を投入させる。ー
「わかりました。」
小谷晴朝は無線を切った。最初の標的ウンヌンは、分部が無線を聴いていた場合の張ったりだった。効果があれば、分部は動かない。こちらは時間をかせげる。
「期待うすだが…。」
小谷晴朝は独り言を言った。
この時分部は、小谷の無線を、手回しハンドルで蓄電できるラジオで聴いていた。この当時、警察無線はデジタル暗号化されておらず、市販のラジオで周波数を合わせれば聴く事ができた。
最初に清美を雨屋に追い込んだ時…分部は背負っていたナップサックを、古い米櫃の中に隠した。2年を経て雨屋でナップサックを回収すると、岐阜城の天守が再建されている金華山に登った。その天守の展望台に入り込み、双眼鏡で市内を眺めつつ、警察無線を聴いていたのだ。
今までの分部なら、末次清美か竹山透に即襲いかかっている所だが…予想外に雨屋で分部を待ち伏せていた小谷晴朝に、慎重になっていた。
この小谷という刑事が、どういう人物なのか知った上で、動く事に分部は決めた。警察無線を聴いた限りでは、今まで通りに動いていたら、全て失敗に終わっていた事を認めざるおえなかった。
奇策は、この刑事には効果がない…。
「なら。小谷自身の足元をすくうしかないって事か…。」
分部は双眼鏡の中で走り廻る、無数のパトカーを眺めながらつぶやいた。
ー第3話沈黙 小谷が仕掛けた心理戦に沈黙する分部。戦いの前の静寂。小谷晴朝の分部に対する想いとは…!。




