ー第1話リスタート
ー第1話リスタート
昭和55年8月岐阜県岐阜市北部
あれから2年。
雨屋で行方不明になった末次清美は、17才の高校生になった。
プロポーズされた竹山透と共に、自転車で北に1時間かかる、県立高校に通っている。
小谷刑事の息子である利治は、2月で3才の誕生日を迎えていた。
45才の竹山と戦った分部豊は、裁判で3年の実刑を言い渡されて、2年目を刑務所内で過ごしていた。
分部が収監されている岐阜刑務所は、岐阜市北部の…現在のメモリアルセンター北側に建っていた。この刑務所は、網走刑務所の次に重い刑の囚人が収監される施設で、高さ10m以上ある厚いコンクリート壁に囲まれていた。
岐阜市は、真ん中の長良川を挟んで、通称川南 川北と呼ばれる。初期は、街の大半は川南にあり、この刑務所が建設された頃は人家など無い場所だった。
しかし、昭和55年頃には周囲を民家が取り囲み、この広大な敷地とコンクリート壁は街にそぐわない景観となっていた。
分部は、この刑務所の中で、ある事件をそのまま実行しようとしていた。
分部は元々45才の竹山の世界の人間だった。その世界で、この刑務所は脱獄事件を起こしている。
その脱獄の詳細を、分部はネットのサイトで詳しく知っていた。岐阜刑務所は、この脱獄事件により数年後閉鎖・移転される事になる。
独房は、大きなホールの両側に並んでおり、北側に大きな鉄扉がある。その向こうに看守の詰所があり、2重に鉄格子の扉で仕切られている。
この建物は昭和初期に建設されたもので、幾つか改修された部分がある。
それは、ホールの天井に沿って通っている配管だった。
問題は、この配管が北側の鉄扉の上のコンクリート壁に穴を開けて、外に出ている事だった。改修の際、開けられた穴は塞がれるはずだった。しかし、15mの高さの配管に取り付く方法がないという理由で、穴は塞がれず工事は終了してしまった。
配管は詰所の天井裏を通り、建物の外に出て、コンクリート壁の外に立つ電柱へと続いている。
分部はサイトで見た通り、競馬好きの看守と親しくなり、暑い夜にホールで寝られるよう、独房の鍵をはずしてもらう事に成功した。
午前0時の巡回の後…南側の明かり取りの、天井まである鉄格子の入った窓枠をフリークライミングの要領で登ると、配管に飛び付いた。
サイトの脱獄犯同様、分部も密かに指を引っ掛けるだけで登る訓練を、2年間密かに積んでいた。
フリークライミングなど見た事のない、この時代の人々にとって、それを想像する事など出来なかった。
そして、新しい配管は軋みもせず、分部の体重を支えて、鉄扉の上まで導いた。
詰所の天井裏をくぐり、ポッカリ外に開いた穴から、コンクリート壁まで1mを飛び移る。
そこから電柱に飛び移り、ズルズルと滑り降りると…分部は暗闇に姿を消した。
彼の独房の床には、便箋に書かれた文字が残っていた。
ーまだゲームは終わってないぞ 老いぼれ小谷ー
と。
こうして、分部のカウンターアタックのボールが、昭和の岐阜の街に蹴り込まれた。
岐阜県警捜査1係 小谷 晴朝に向かって…。
ー第2話コンペティション エリアにつづく