ー第17話生還
ー第17話生還
「白根刑事部長。これは説明が要りますよ。」
久利坂は怯えた(おびえた)目で、湧いて出て来た機動隊を見ながら言った。
「分部。メモリアルセンターの鍵束を捨てろ。次に核弾頭を久利坂さんのポケットに入れろ。それで向こうに戻れ。それ以外の結末は、この白根登が許さん。射殺する。」
分部はゆっくり立ち上がると、鍵束を足元に落とした。両手を挙げている久利坂のポケットからプラスチック爆弾を取り出すと、核弾頭を入れた。
「行け分部。小谷さん、清美さん、透くんも…。」
金属製の楯が開いた。分部がその間に入った。まだ刑事の田島が、差し出された両手に手錠を掛けた。続いて清美が入り、透が入った。
「2部には感謝します。我々だけでは、こうは行かなかった。」
「いや、小谷さん。これはこちらの都合でしたまでの事。気になさらないように。」
「では。」
小谷晴朝は、白根と息子に握手した。
司老は、まだ窓の所で電源ランプを気にしていた。その司老は、久利坂がニヤッとしたのを見逃さなかった。
「撃て!。」
久利坂が叫んだ時、たまたま電源ランプは司老に味方した。公安の精鋭20人が、森の中でバタバタと倒れた。白根も小谷利治もレンジに入っていて倒れた。
開いた穴のせいで、小谷晴朝と久利坂は無事だった。
久利坂は銃を抜いたが、田島が小谷晴朝を楯の中に引きずり込んだ。
狙いを定めた時には、楯は閉じていた。あきらめた久利坂は、追いかけて向こうに行ってしまう愚は犯さなかったが、殺気を感じて地面に伏せた。
雨のように、金属製の楯に銃弾が跳ね返り始めた。陸自が目を覚ましたようだった。
やがて楯はボヤケ始め、銃弾は森の中に吸い込まれていった。
「事態は収拾された?。…白根にやられたか。」
久利坂はポケットの核弾頭を確かめながら、銃撃が止むのを待った。
「小谷さん!。よく無事で。」
田島が笑顔で小谷に言った。
「そうだ。向こうのお前に、お前を頼むと言われた。これからは少し厳しく鍛えてやろう。恩返しだ!。」
「はぁ…。でも、分部は変わりましたね。」
「変わったんじゃない。元に戻ったんだ。元はああいう人間だったんだ。…しかし、よくここが分かったな?。この機動隊が居なかったら、死んでたぞ。」
「特別編成別班の情報です。地磁気の異常を探知する装置とかを持ってまして、雨屋とプールをカバーしてたんですが、ここが出たと云う事で…間に合うかどうか賭けでしたが。」
「それは?司老とか云う?。」
「えぇ。司老さんとか云う、まだ20代の刑事です。」
小谷は、思わず学生会館の窓を振り返った。
「…親父か。血だな司老家の。」
「何です?。」
田島は小谷の視線を追った。
「多分、その息子に同じような物で助けられた。」
「そうですか…。私も一度行ってみたいですね。」
「行くと大変だぞ。我々のせいで、向こうに処分者が出たかもしれん。償いようもないが…。」
「でも我々は救われました。向こうの方々に感謝と敬意を払わなければなりません。」
「その通りだ。それでいい。」
ー5年後 道三隧道
分部は網走刑務所に送られ、5年服役してのち出所した。
小谷と共に、ハシゴを持って道三隧道に入った。
上の通路に行く為にハシゴを掛けなければならない。その場所に窪みがあった。
「ここにハシゴを入れると、落とし穴が作動する仕掛けだな?。」
分部はハシゴにロープを結び、引き上げられるようにしてハシゴを置いた。何も起こらない。
小谷は、不自然に置いてある石のブロックを壁際に見た。
持ち上げて、ハシゴに乗せてみた。
バンッと音がして、小谷が飛びのいた。ドッーと天井からハシゴに土砂が降り注ぎ、床が抜けてハシゴは落ちた。
2人でハシゴを掘り出し、外から土を持ち込んでトラップを完全に埋めた。
再度ハシゴを掛け、上の通路に入った。斎藤道三の波の家紋を刻んだ石組を外して地図の間に入った。1ヶ月を費やした。
そこには石の壁に、岐阜市街いっぱいに広がる地下通路網が刻まれていた。
その地図の前に、斎藤道三と思われる頭蓋骨が安置されていた。石の容器の中で、わずかに頭髪が残っていた。
「あったな。爺さんに教えてやるか?。」
「いや。爺さんは自分で見つける。穴は埋めた。死ぬ事はない。」
「これからどうする?。」
分部は壁の地図を見つめていた。
「やる事ができた。爺さんとこれを全部調べる。…見ろ。通路は2階建てだ。」
「建設省と防衛庁を敵に回してか?。それくらいの刺激がないと、犯罪者に戻りそうだな。」
分部は微笑した。
「もう犯罪を犯す理由がない。それに。小谷刑事の人間愛に、勝てる犯罪者はいない。」
「褒めてくれるのは光栄だがな、上には上がいる。」
小谷は鋭い目で、頭上に広がる自分の戦場を見上げた。
ー第17話後書きに続く