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ー第12話 公安 久利坂



ー第12話 公安 久利坂



「部長。小谷刑事の読みは当たりましたね。」

司老しろう 正孝まさたかが、安全装置をかけたままの拳銃をホルスターに収めながら言った。

「…これで、分部は素直に小谷さんの所に行くと良いが…。しかし奥さんもやるな。合気道の師範だそうだ。」

「勝負してみますか?。元柔道日本代表候補として。」

白根は、わざと何?と云う顔をして見せた。

「何を言うか。それは武を汚すものだ。小谷佐恵子師範に対して失礼だぞ。司老。」

「すいません。」

司老は頭を下げて見せた。

「しかし部長。6時まで後11時間…たどり着けますかね、分部は。」

「公安が本気で動いている。陸自も部隊を出したようだ。イギリスとアメリカの特務に感づかれる前に、何とかしたい所だな。」

「感づいてるでしょう。でも感づいてない振りをしてくれてる…じゃないですか?。」

「駆け引きは有るさ。貸し借りもな。だが長引くとそれも出来なくなる。6時までが限界だ。」

「相方の山際さんは?。」

「その言い方はやめろ。常盤一平ときわ いっぺいが、J部隊の件で引きつけてる。俺の姿がないから、気づくのは時間の問題だが…それまでに終わらせないと、山際に食いつかれたら厄介な事になるぞ。」

「クライムズの時も大変でしたよ。本まで出されちゃいましたからね。」

「結構面白かったがな。」

「買ったんですか?。部長も?。」

「それが仕事だ。」

「私も仕事で…。まぁしかし、伝説の小谷刑事の仕事を、この目で見られるとは思いませんでした。どうやるんでしょう。見当もつきませんが。」

「ファンタジスタだな。そういう意味では、分部も同じか。」

白根は、戻ってくる小谷佐恵子の姿を見ながら言った。



佐恵子は、ゆっくりと白根に近づいて来て耳打ちした。

ー公安の久利坂さんですよ。気をつけてー

白根は顔色を変えないように努力した。公安トップの久利坂くりさか本人が、現場に居る事自体が公安の本気の現れだった。

そして、分部が現れたこの場所に来ていると云うのは…白根にとって赤信号だった。グレーの背広に、頭は五分刈りと云うチンピラのような容貌をしている。公安の中でも異色の人物だ。しかし、弱冠21才で公安トップに立ち、以後10年間だだの一度もミスがない。そして、2部はイージス艦機密漏洩事件で、久利坂に潰されかけた過去がある。今回は分部と云うより、この久利坂が白根にとって最大の問題だった。

ーそれにしても。現れるのが早すぎる。ー

白根は嫌な汗が出るのを感じた。

佐恵子は白根に耳打ちすると、そのまま官舎の中に入って行った。

久利坂は闇の中から、スッと現れた。


「白根刑事部長。分部の死体はどこです?。」

いきなりストレートを打ち込んでくる。小細工は通用しない。

「まだ生きてます。光速ピザと云う宅配業者のバイクで逃走中です。」

「光速だったから、撃てなかったか?。司老刑事?。銃声がしなかったぞ…。」

下から舐めるような視線で、司老を舐めまわし始めた。

「うまく射線を消されました。ポジション取りのミスです。申し訳ありません。」

司老は本当の事を言った。ただし、それは意図しての事だったが…。

「左のルートを抜けられたか。確かに、下見もしてないのに左を抜けた分部の勝ちか…。甘く見たと言いたいか?。司老刑事。」

「その通りです。」

「素直だな…2部にしては。イージス艦の時は山のような小細工で楽しませてくれたのに…。妙だ。」

久利坂は白根を見ない。司老を睨みつけている。

「まさかとは思うが…逃がすつもりか?。白根刑事部長。」

見ているのは司老だ。

「公安の久利坂さんが確保して頂ければ問題ありません…」白根は久利坂の対決心を削ぎにかかった。

「…わざわざ現場に降りて来て下さっているのに、我々が邪魔をしては失礼かと?。」

白根は久利坂を見据えた。気合い負けすれば、全てが予定通りに行かなくなる。久利坂もその視線を受けて立った。どちらも目をそらさない。司老は、この落とし所がどこに落ちるのか測りかねていた。



そこに横山が駆け込んできた。この横山よこやま まさるは公安出身で、白根が引き抜いた人物だった。もちろん、状況はわかっていない。

「部長…これは久利坂さん。お久しぶりです。」

久利坂は、この緊張感の無い言葉に気合いを失った。

「…横山か。楽しそうだな。公安より2部の方が居心地がいいか?。」

「いえ。どちらも任務です。違いは有りません。」

「お前の仕事振りは知っている。俺には見る目が無かったようだ。今なら公安に戻って来ても良いぞ。」

横山は役立だずと罵られた日々を思い出さずにはいられなかった。

「…いや。やはり自分は、公安では役に立ちません。自分はやり方が自分流過ぎます。2部は逆に、それを求められます。」

久利坂は、ホウと云う顔をした。

「それに気付いたとは、たいしたもんだ。ますますお前が欲しくなった。2部が潰れたら、いつでも帰って来い…歓迎する。」

横山は、わずかに怒りを顔に走らせたが、すぐに消した。

「2部は潰れません。白根刑事部長がいる限り。」

久利坂は、急に吹き出して笑顔になった。

「横山。それは確かだ。良い上司に巡り会ったな…お前がうらやましいよ。じゃあ退散するか…。で…。末次と竹山ってのが岐阜城天守閣に登ったのは…分部とどんな関係があるのかな…うかつだな、県警は。」

2部の3人を凍りつかせて、久利坂は背中を向けて歩き出した。

「陸自の特殊部隊が天守閣周辺に展開するそうだ…これは機密だが。行くと撃たれるから行かない方が良い。もっとも、天守閣ってのがフェイクの可能性もあるがな…。」

久利坂は闇に溶け込んでいった。


「何もかも知ってるな…久利坂は。」

白根は、下に落ちている小さな石を見た。それを拾い上げると、その石に向かって言った。

「久利坂さん。盗聴機ってのは、対象を常にカバーしないといけませんよ。背広の真後ろの襟に付いてるヤツみたいにね。」

司老が少しあわてた。

「せっかく付けたのにバラしちゃ駄目ですよ部長。」

白根は、その石コロ盗聴機を唸っている冷房の室外機の上に投げ上げた。

「司老。どう頑張っても公安とは五分五分だ。負けはせんが、勝つ事もかなわん。天守閣がフェイクだとは…一体どうやって探り出したんだ?。」

「部長。大抵は漏らしてるヤツがいます。小谷さんは知ってるでしょう。…でも分部は天守閣に行ってしまう。捕まえなけらゃならない。上に行く前に。」

「それも考えてるようだ。小谷刑事と話した限りでは、サーカスみたいな離れ業に思えるが…。まぁこの事件。最初からサーカスを見るようではあるがな…。」

白根は、遥か南にライトアップされている、岐阜城を見た。司老も横山も、不安そうにそれを見た。





次話予告!

第13話道三隧道

ついに久利坂の拳銃が分部を捉える!間一髪間に合った小谷 白根 司老だったが…。天守閣に向け、脱出劇が開始される!








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