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「勃起した男性性器を女性の性器に挿入します」 和夫の保健体育の教科書より。
巧は自室に戻ったが、布団が敷いてあるということはなかった。自分でしなければならないらしい。
死んだような表情の力斗のことが思い出され、テレビを見る気にもなれなかった。トイレに行き、早く休むことにした。なにより、明日は、スキーをするのだ。車を脱輪までさせてまで行うスキーだ。一日中思う存分滑るつもりだ。しかし、この若市やましたスキー場には夜間照明設備はない。ただ、この若市山やましたスキー場は一日利用のリフト料金も破格の安値だ。それを忘れてはいけない。
脱輪のことを思い出すと、この宿泊所の周囲のことが若干気になった。
それより、この若市山麓の集落の様子はどうなっているのだ?。
廃校になっているのに、ここの子どもたちは学校はどうしているのだろう?。布団から出て、障子を開けてみた。
なにも見えなかった。
最初、雨戸が閉まっているのかと思ったが、ちらちら降る雪が見えたので、雨戸はない、窓ガラスしかない。
全く、漆黒の闇で雪と闇しかなかった。
集落の灯りなど一切見えなかった。
闇だけである。
この山下家の屋敷の前は国道があり、巧が進んできた進行方向のままに右側が廃校とこの山下家と若市やましたスキー場だ。右へ回るカーブで脱輪し国道の左側は巧が脱輪させた崖になっていて、その下に岩場を伴った沢が流ているはずだ、きっと集落は国道の左側の崖の下にある筈だ。なぜなら、農業用水として沢の水を利用しているはずで、そのためには、崖の下に田や畑を造っていないと、沢の水は利用できない。
巧は自分の完璧な推理と理屈に納得し布団に入った。
しかし、大変な一日だったことに間違いはない。
巧は深い眠りについた。
巧は、突然、夜中に目覚めた、車ごと崖に落ちるような悪夢を見たわけでもなく、大男の和夫に襲われる夢を、見たわけでもない。只、唐突に夜更けに目醒めた。寒かった。巧は布団を鼻まで上げ直した。そして強烈な尿意を覚えた。
寒いと、どうしてもトイレが近くなる。それに昨晩の夕食は、汁物だった。
巧は寝ぼけ眼子で布団から出ると、寒さにさらに震え、尿意は一層激しくなった。半纏をはおり、灯りを急いでつけ、部屋をでた。
廊下は、小さな常備灯が点灯していた。この安宿泊所にしては、気が利いている。
トイレで用を足し、手を洗い、もう一つさらに震えた。
「おお、寒っ」
巧のトイレでの独り言に誰か女が答えたような気がした。
最初は、巧は自分の気のせいだと思った。
そして、よく耳を澄ました。
か細い女の声が聞こえたような気がした。
それは、"気"のせいでは、なかった。
糸のように細い女の声が聞こえた。
それは、絹のように滑らかな女の声だった。
喘ぐようで、泣くようで、喜んでいるようで、無理強いされているようで、悲しんでいるようで、そして望んでいるような。
巧は、引かれ惹かれるように、声の方に進んでいった。
女性の喘ぎ声のするほうに古い屋敷の中の薄明かりの中、巧は進んでいった。
気がつくと、巧は囲炉裏がある大広間の入り口に居た。
囲炉裏の炎がちらちらと光源に幾重もの変化を与えるなかに、一人の大男と二人の女が薄い浴衣をはだけさせ重なり、離れ、艶かしく、動いていた。三匹の淫靡な獣の動きと声だった。
大男は、巧に気付き、巧の方を見た。
男は和夫だった。
二人の女のうち一人はわかっていた、風呂場でその裸体を巧は見ていた。まだ女性として未発達ながらも、裸体自身は女をはっきりと男に自己主張していた。男はそれに抗せないのだ。
女の一人は継映だ。大きな声で喘ぎながら、も広間の端にいる巧に気づいているようだった。目があった。
もう一人の女も自分から、長い髪を振り乱し喜悦の声をあげ和夫に絡みついていた。
女のもう一人は井千子だった。
井千子も巧に気づいているらしい。
三人の声と動きはどんどん激しくなっていった。
親子で三人は抱き合い、求めあい、激しく、燃えていた。
囲炉裏の炎に照らされた三人は美しくさえあった。
そして、なにより淫靡で、淫らだった。
巧は、人生でこれほどいやらしいものを見たことがなかった。嫌悪しながらもどうしてこうも熱烈に惹かれるのかわからなかった。
そして、勃起している自分に巧は気付いた。そしてもう一つの事実に気付いた。三人の抱き合う親子の周りには、小学生の力斗、烈太三六が間近におり、妹の呂華の裸の肉体にお互いの性器をこすりつけ舐めあっていた。 それを見た瞬間巧のの中でなにかが弾けた、巧は悲鳴を上げながら自分の部屋に走っていった。