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若市やましたスキー場  作者: 美作為朝
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 5

「現在のところ、姫路では今年だけで六名もの行方不明者が発生しています、いずれの場合も、」

ローカルニュースのリポーターのコメントより。




 たくみはこの広い民宿にもなっている屋敷内を迷いながらもどうにか、自室にたどり着けた。

 ふすまを開けると、部屋に誰か居た。

 小学生らしき少年が体育座りをして、テレビをみていた。

 巧は、洗面道具を思わず落してしまった。携帯のシャンプーや洗面具が相当な音を立てたはずなのに、少年はこちらを見ずにテレビを見ていた。

 巧は、どう少年に声を掛けたらいいのか、わからなかった。

 巧の金でテレビを見ているのだ。しかし、この際そういうことはあまり気にならなかった。

 とにかく、この少年には部屋から出ていってほしかった。

 声をかけるまで少し時間がかかってしまった。

「ねぇ、君、僕、、 」

 呼びかける二人称が巧の心のように二転三転した。

 少年がゆっくりと本当にゆっくりと振り向いた。

 少年が振り向くだけで、これだけ怖かったことは巧は一度もなかった。

 どこにでもいる小学生だった。

 ただ、風呂場での女子中学生と同じで、無表情なことこの上ない。

 巧はどう言って、この小学生を部屋から出て行かせるか、困った。風呂場の少女は自然に出ていった。居座られたら、実力行使をしなければいけないのか。

「僕が、お金払って、見られるようにしたテレビなんだけど、、」

 一番穏便に遠回しに婉曲に出ていって欲しい、いや出ていおくべきであることを意思として伝えた。

 少年の目はなにも見ていなかった。焦点は巧を通り抜けて、ふすまあたりであっている感じだった。

 畳み掛けるのはマズイのかわからなかったが、巧の心情しては結果としてそうなってしまった。

「あのね、、」巧みがそういった時。

 少年が話した。

「食事」

 巧は安心した。なにより、意思が疎通したことに。この少年は巧に食事を呼びに来たついでにテレビを見ていただけだったのだ。

「分かった。ありがとう、すぐ、行くよ」

 巧はそう答えたが、もしこの少年が座り続けたらという一抹の不安は残った。

 が、少年は、ゆっくり立ち上がると、なにも言わず、巧の部屋を出ていった。

 またもや助かった、なんでもないことなのかもしれないが、ただ、そう思った。

 旅は、思いがけないことが多数おこる。みなそれを半分期待して日常から抜け出すためにたびに出るのだ。スキー旅行も同じだ。

 しかし、巧はすぐに、カバンとカバンの中の貴重品を確かめた。

 なにも盗られていなかった。

 ここは、ど田舎だ。ここの家族は、プライバシーの感覚が少し都会の人間とずれているのだろう。田舎では、鍵をかけないと聞く。ただ、それだけにちがいない。

 そうであって欲しい。

 少年が見ていたテレビ番組は、只のローカル・ニュース番組で、姫路では行方不明者がここ数年で記録的増えていることをリポーターは現場から、アンカーマンはスタジオから伝えていた。

 これも、日本ではよくあることだった。


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