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若市やましたスキー場  作者: 美作為朝
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「先ずお金を投入してからボタンを押してください」

 風呂場にある使い捨てカミソリの自販機の説明より。




 風呂場は、立派だった。この家は三世代に渡る大家族なのだ。当たり前だろう。

 脱衣場で服を脱ぐときは、少しいつも怖い気持ちになる。誘拐された時に誘拐犯は、ズボンだけ脱がし取り上げるという、それだけで、人前を逃げることが出来ない。

 しかし、そんなことをいっていたら、どこにも泊まれないし、人の社会は信頼で成りたっている。

 巧はタオルで前を隠し、ガラガラと浴場の曇りガラス戸を開けると、中は、十畳はあろうかという、ちょっとした大浴場になっていた。真ん中に湯船があり、シャワーや蛇口が3つ。あの良枝が薦めることだけはある。

 湯気の中、巧が湯船に浸かると、湯船に誰か居た。

 中学生ぐらいの少女だ。

 あわてて、湯船の反対側に位置を変える、巧。

 少女はなにも言わず肩まで浸かり、黙って無表情で巧の方を見ている。少女は叫び声一つ上げない。

 和夫かずおの娘であろうか?。歳格好からいけばそうなる。

 男風呂と女風呂の区別はなかったはずだ。

 巧のほうが、恥ずかしくて、うつむいたまま少女の方を見られない。痴漢扱いされれば終わりだ。

 少女は、なにも言わず、湯船に浸かり続けている。浸かっている限り、お互い裸は見えないわけだが、そういう問題ではない。少女の表情は伺えない。この少女には羞恥心がないのだろうか。

 少女は、それこそ人形のように、長い間、浸かり続けている。

 巧は、湯船から出られず、のぼせて気分が悪くなりそうだった。もうダメだ、と思いかけた瞬間、少女は、ざばーっと大きな湯水の音を立てて、湯船から出て、脱衣場へ向かった。まるで、そこに巧がいないかのような振る舞いだった。

 巧みには湯気の中、少女の尻が少し見えた程度だった。女子中学生と混浴が出来裸が見れて良かったなど思うことなど一切なかった。

 少女が湯船から出ると、巧も飛び出るように湯船から出た。

 巧は、のぼせ上がり、頭がくらくらする寸前であった。

 先ず、ヌルいシャワーを長い間浴び続け、体を冷やした。簡単に体と頭を洗い、逃げるように風呂場から出た。

 脱衣場のかごには、脱いだままの巧の衣服がそのまま置いてあった。この21世紀に衣服を盗むなんて考えられない。心配した自分が馬鹿みたいだった。

 なぜか、あわてて、自室へ向かった。

 

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