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若市やましたスキー場  作者: 美作為朝
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「ようし、おまえらに二つの選択肢を与えよう、ここからパラシュートで飛び降りるか、この俺から蹴り落とされるか」

 第82空挺師団の曹長の訓示より。   




 どのへんで衝撃に耐える姿勢を取ればいいのかわからなかったのも良くなかったかもしれないが、まだ、天も神もたくみを少しだけ助けてくれた。

 着地した瞬間に両足おもに、足首に鋭いに痛みは走ったが、思ったほどではなかった。積もった新雪が助けてくれた。

 スキーはまだ裏切らない。

 それより、ゲレンデの端にあるリフト、新雪がえらく積もっており、たくみ咲香栄さかえは、こしはらあたりまで埋まってしまった。

 これが、出られない。手を咲香栄さかえを抱くようにして飛び降りたので、手が胴と一緒に埋まってしまい全然使えないのだ。

 ぴし、ぴし、バーン、バーン。

 巧が飛び降りたことに気付いた和夫が狂ったように発砲しだした。

 巧は、今度は新雪に埋まったままという姿勢で射撃の的となった。手が使えないので、文字通り虫のように、体をくねらせ、新雪から出ようとするが、出られない。さなぎからちょうにな変身する芋虫いもむしはこういう気持ちなのだろうか?。

 ぴしという雪に銃弾が挿さる音と違う音がした。

 スキーウェアの左肩が銃弾で破れていた。それで、ウェアの左肩が破れ、左手の自由度が増した。左手を雪の上に持っていけた。

 巧は左手を新雪の上につくと大きく、力を入れて、埋まった自身を新雪から這い上がらせた。 

 出た。

 が、今度は這い上がるときに継映つぎえのブーツが脱げた。脱げて当然だ足先

しか入っていないのだから。

 しまったと思ったが、掘り出して、履き直す余裕も気力もない。ないほうがありがたいぐらいの代物だ。

 もう4/5はリフトで来ているのだ。どうせちょん切られる運命にあった足なのだ、凍傷もやむなしとしよう。

 巧は靴下で雪面を駆けだした。

 スキーブーツとスキー板を埋めたのは、丁度リフトの中継所の反対側あたりにあたる。そこを目指し、ゲレンデをまさに大横断。必死に走る。足先がもう冷たいとか、痛いとかいう感覚がない。

 相変わらず、ボルトアクションなのだろう、銃弾が一定の間隔で飛んでくる。

 ひゅんとバーンの連続。見越し射撃と巧の走った後への射撃の連続だ。

 ゲレンデは、山の斜面に作られているので、中央が盛り上がているはずで、向こう側にいけば、射線から反れるいや潜れるはずである。

 新雪は、ひざあたりまで積もっている。両手を振り、ももを高くあげ、必死に走る。

 その時、一瞬、あの日の午前に滑走し、板とストック、ブーツを上から転がるように走ってついてきていた三六さぶろくが見つけて掘り出していたら、という想像が頭をよぎったが、そんなことを考えている余裕も暇もなかった。

 ゲレンデの反対側に着いた。

 スキー用品を埋めた場所は、他の積雪の場所より不自然にうねっていてすぐわかった。

 急いで、掘り出す。

 屋内から、必死に逃げてきたのだ、手袋などしていない。素手だ。

 雪を掻く、雪を掻く、雪を掻く。

 誰かが掘り出した痕はない。

 頑張れ、スキーは裏切らないのだ、自分が裏切ってどうする。

 雪を掻く、掻く、掻く。

 出てきた。ストックに、板に、スキーブーツ。頬擦ほおずりしたいうぐらいだ。

 しかし、さすがに、足の先、手の先が限界だ。指先は真っ赤になり、感覚がない。

 雪まみれで濡れた靴下は脱ぎ捨てた。体を丸めあぐらをかき自分の膝の裏で挟み足を温め、手は息を小さく何度もかけウェア内に入れ咲香栄さかえの場所をちょっと邪魔し、温めてもらう。

 スキーブーツを素足で履くが、死ぬほど冷たい。

 スキーができる状態になったが、ここで、滑り降りると山下家に戻ることになる。そんなことは絶対にできない。ここから、幼子を胸にスリングで懐き、もう一リフト分、スキー板とストックをかついで登らなければならない。

 しかし、足枷で丸太につながれていたときより、元気があるように感じられる。

 しかも、二つ目のリフト分の斜面は緩斜面だったと記憶している。

「それ、いけ」

 巧は元気に走り昇りだした。和夫と競争だぐらいの気合で登っていた。斜面に対して垂直に昇るとさすがにしんどいので、斜めに斜面を切りつづら折りで昇る。

 和夫は猟銃を持って、ゲレンデを登坂。

 巧は乳飲み子にスキー板。先に登ったほうが、その後、スキー。いや違った。

 巧だけが、そのあとスキーだ。しかも、自由への滑走。妻の美咲には、黙ってスキーに行ったことを真っ先に詫びよう、そしてもう二度と黙ってスキーに行くのはめよう。

 一度、美咲をスキーに真剣に誘うのはどうだろう。心礎しんそこ丁寧に教えよう、興味を持ってくれるかもしれない。

 巧は、つづら折り昇りの最後のつづらの昇りさしかかった。

 頂きには、小さな木が立っていた。一本の太い枝をつきだして。 

 木にしては、太く二本の幹が分かれて根を張っていた。

 巧は、寒さでなく恐怖に震え上がった。

 ゲレンデのいただきには和夫が猟銃を腰だめにして無表情な顔で立っていた。

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