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分担

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!! おお、おお、王よッ! お早い快復で、このオスヴァルト、実に実に、おおおおおおおッ!」

「ぐえええええええええええッ!? おま、ちょ、折れる折れるやめろそれ以上はヤバッがあああああ!?」

「何をしているんですオスヴァルト!?」



 それから数分後。

 俺は地下でオスヴァルトにサバ折りを仕掛けられていた。


 いや、正確なことを言えば、俺の帰還に喜んだオスヴァルトが抱き着いてきた――という状況なわけだが。

 実体化を解除せず、その上感極まりすぎて無駄に力が入り、結果としてベアハッグのようなサバ折りのような格好になってしまっているというわけである。



「お、っと……おお、申し訳ありませぬ、王よ。このオスヴァルト、無事の御帰還に思わず……」

「も……もう一度病院に行くところだったぞお前……」



 本人にその気は無いだろうが、もうちょっと加減してほしいところだ。

 それだけ喜んでいたと言われて、まあ――嬉しくないなんてことは無いけど。



「改めて。何事も無く快復なされたようで何よりです、王よ。このオスヴァルト、今日という日を待ちわびておりました」

「あ、ああ。ありがとう」



 大袈裟だな……と、一瞬考えたが、オスヴァルトはいつでも大袈裟なヤツだった。

 毎度毎度、ちょっと行きすぎな気がしなくもないが。



「さて……と」



 オスヴァルトに関しては、それほど問題と思ってはいなかった。一挙手一投足が無駄に大袈裟だが、なんだかんだで律儀な男だ。

 問題があるとするなら、もっと交流期間の少なかった相手――――。



「む」

「…………」



 視線の先には、一組の男女が立っている。エメラルドグリーンの髪と瞳を持つ少女と、黒曜石のような色味を放つ甲冑を身に付けた、大柄な騎士だ。

 リースベットとアンブロシウス――先日の術師と戦いになる前、この手でその存在を魔族へと変換した二人である。


 あの戦いを経て俺が入院してしまったことで、二人との交流はたった一日で断たれてしまったわけだが……果たして、俺のことを覚えてくれているのかどうか……。



「貴様、誰だ?」



 告げられたのは、衝撃の一言だった。

 いや、とはいえ想像できないほどではない。そうなっても仕方ないだけの時間はある。だが。



「くだらない嘘つくなよ」

「む」



 ――――俺の目と耳は、彼女の言葉を「嘘」だと認めていた。



「なるほど、ミリアムの言っておったことは間違いないようだ。いやすまぬ。ちょっとからかってみようと思っただけのことよ」

「やめてくれよ。一瞬肝が冷えた」

「くははは! 許せ冥王。ちょっとした茶目っ気というやつだ」



 と、言うにはちょっとタチの悪い冗談じゃなかろうか。

 もし俺がそれを見抜けていなかったら、多分血を吐いて寝込んでいた気がする。


 ……オスヴァルトといいリースベットといい、俺をもう一度入院させでもする気か!?



「……冥王。お前は俺たちの恩人であり、盟友だ。それを忘れるはずがあるまい」

「お前……本当にいちいち格好のいいことを……」

「気に入らんか?」

「いや。俺は、ほら。だいぶ不格好だから。一人くらいそういう言葉がサマになる奴がいた方がいい」

「……そうか」



 と、どことなく嬉しそうに、アンブロシウスは顔を俯けた。



「よく帰ってきた。改めて――これからも、よろしく頼む」

「ああ、こちらこそ」



 差し出された手を握り返す。力強く握られたその手からは、掛け値無しの信頼が窺えた。

 俺には勿体ないくらいだ。そう思っていても、口に出しはすまい。それは、アンブロシウスに対する侮辱にもなる。



「おい、余を置いてけぼりにするんじゃない」

「お、おう。すまない」

「うむ。許す。では、余とも握手だ」

「……ああ」

「余の騎士共々、改めてよろしく頼むぞ、冥王よ。頼りにしておるからな」

「勿論。こっちこそ、頼りにしてる」



 互いに手を差し出して、再び握手する。

 アンブロシウスのそれと似て手甲そのものとも呼ぶべきその腕は、しかしちゃんと女の子らしく華奢な印象を受ける。また、アンブロシウスと比べて軟らかいような気もした。

 やはり本人の言う通り、リースベットは戦闘向きではないのだろう。


 ――――さて。挨拶も済んだことだし、とりあえずはこんなところか。



「じゃあ、みんな。ちょっと集合」



 一言声をかけ、他の皆を呼び集める。


 ここからは、現実的な話に移ろう。



「――――さて、どういったお話になりますかな?」



 魔法で簡易的なテーブルを用意し、七人で囲む。

 まず、口火を切ったのは、現状について最も理解があるであろうオスヴァルトだ。促されるように、本題に入る。



「うん。今、冬眠させている獣について、どうするかってのはもう伝えてあるよな?」

「オスヴァルトから聞いたぞ」



 他の面子に先んじて、ネリーが答えて見せる。


 なるほど、ネリーが理解しているなら他の面々もだいたい理解しているだろう。頷きを一つ返して、続ける。



「なら話が早い。食料を供給するのに、分担を決めたいんだが……もう決まってたりするか?」

「いえ。こればかりは王が戻って来てから――と決めておりましたので」

「そうか。なら今から決めて行こう。俺の一存で構わないなら、これから伝えていくが……」

「構わないでしょう。ですね?」



 ミリアムの問いかけに、皆が一様に頷いていく。


 誰も彼も物わかり良いな!


 俺としてはもうちょっと異議を申し立ててもらっても何も構わないと思うのだが。というか、ここまで肯定一色だと逆に不安になる。



「……ええとだな。まず、アンブロシウスとネリーには、冥王領の方に狩りに行ってもらいたい。途中で食べられそうなものを見つけたら、その採取も頼む」

「わかった。狩りだな。オレにまかせろ」

「……承った」



 意気揚々と返答するネリー。対照的に、アンブロシウスは静かに――しかし、確かに闘気を漲らす。

 ネリーは狩りに夢中になって採取を忘れていそうだが、アンブロシウスがいるなら問題ないだろう。


 ……万が一、アンブロシウスが狩りに夢中になるという可能性も否定できないが。



「次に、レーネ。できれば、ミリアムとオスヴァルトも。畑の面積を増やす必要がある。ちょっと大変だろうし、俺も手伝うけど……できるか?」

「あ、はいっ、やります!」

「成程成程、事実上このオスヴァルトが現状王以外に魔法を使うことのできる唯一の人員であることを鑑みると、これも納得の」

「大丈夫です」



 この三人に関しては、特に問題無いだろう。今までずっとやってきたことの延長のようなものだ。レーネへの負担は少し大きいが、そこは家にいる者が手伝えばある程度補える。

 オスヴァルトの魔法を使えば耕地を拡げること自体は簡単だろうし。



「リースベットは、虫たちを使ってレーネの手伝いとハチミツ集めなんかを頼みたい」

「うむ、了承した――む? 余の仕事少なくないか?」

「いや、むしろ責任重大だよ。ハチミツを集めてくれたらそれが栄養源にもなるし」



 自然に受粉させるには、虫の力を借りることが多い。リースベットの力で虫を操れば、それを促進することもできるだろう。

 ハチミツは調味料になるのと同時に、非常時には傷薬代わりにもなる。そして何より、売れば金になる。

 それに関してはあまり積極的になるべきではないと思うが、まあ選択肢の一つとしては一考に値するだろう。



「で、俺はクラインで働いて金を稼いで帰ってくる。振り分けはこんなところだ」

「問題ないかと。では、すぐにでもこのように動きますか?」

「いや――――もう少し、問題がある」



 これは直接的に食料調達とは関係ないのだが……その一方で、必ず話し合っておかなければならない問題でもある。


 それは――――。

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