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ロクデナシの紹介状


――――結論から言おう。


 ヨナスは頭が悪かった。



「釈明を聞こうか」

「俺は悪くない!」



 拘束されながらも叫び捨てるヨナスに、俺は軽く頭痛を覚えた。


 この期に及んで何故この男はこんなことが言えるのか――その神経には呆れ果てるばかりだ。関心すら覚える。



「ウゥゥゥゥ……」

「…………」



 レーネは獣じみた唸り声を上げ、ミリアムは軽蔑しきった目でロクデナシ(ヨナス)を見据えていた。当然ながら、そこに歓迎の意思など介在してはいない。


 当然だ。夜中に泥棒に入った馬鹿を歓迎する者などいはしない。


 ことの起こりは数分前。三人して眠りに就いた、その三十分ほど後。自然に発生するはずのない異音が、入口の方から聞こえてきたのが最初だ。


 レーネの時と同じようなことがそうそう何度もあるはずは無い。が、万が一のこともある。これで気にせず再び寝入ってしまうと、何か後悔することが起きるかもしれない――と、そんなことを考えていたはずだ。

 確かに、あのまま眠ってしまうのは最悪手だった。このロクデナシの犯行を見逃すところだったのだから。


 何者かが廃屋を物色している、と。気付いた時に既に、俺は行動に出ていた。

 その「何者か」の肩を掴み、死なない程度の腕力でもって……床材が傷まない程度に叩き付け、組み伏せる。


 下手人の顔を見た瞬間、様々な思いが胸に去来したものだが――考えてもみれば、俺は無用にヨナスに期待を寄せていたのかもしれない。


 この男に、悪行を重ねるべきでないという言葉は通用しなかったのだ――――。



「判決」

「死刑」

「極刑」

「異議あり!!」

「被告人の異議を却下します」

「お、横暴だ!」



 お前の行為とどっちが横暴だ。

 首根を掴む手の力を少しだけ緩め、問いかける。



「……あのなヨナス。お前何でこんなことしてるんだよ」

「お前の魔石が金になると思ったから……」

「山に埋めていきましょうリョーマ様」



 人間嫌いのミリアムは、頻繁に物騒なことを言う――が、今回ばかりは同意せざるを得ない。


 ヨナスのしでかしたことは紛れもなく悪事だ。悪意の有無は関係なく、我が家の財産を奪おうと画策していることには何ら違いが無い。



「誰にも見つからないと、それはそれで困る……いや、困らないかな……」

「ちょっと待てよリョーマ! 俺たち友達だろ!?」

「ともだち……?」

「えっ何それヒドくね」



 友人だと思ってる人間の信用を裏切る行為の方が、よっぽど酷くはないか。


 この際、夜中出歩いていて、熊にでも襲われた――ということにして、この男の存在そのものを葬ってしまおう。そんなことをふと思ってしまう。


 友達。まあ、知人だ。知り合いのよしみで助けてやるか……と、情けをかけてやろうかどうかと悩まないではないが……既に前科がある以上、看過はできない。



「山の肥料になってもらった方が、村の人も喜ぶんじゃないかな……」

「か、かーちゃんは泣くぞ!?」

「喜びでな」



 ヨナスの母親――マレインさんと言ったか。

 あの人も、ヨナスの悪行にはほとほと辟易としているようだった。ヨナスの話題が出るたび、憎々しげに「あのゴクツブシの腐れ外道が!」と悪態をついていたものだ。


 よくもまあ自分の息子のことをああまで悪く言えるものだ――とドン引きしていたものだが、この姿を見てはその言葉に同意せざるを得ない。



「遺言があるなら聞くぞ、ヨナス。いや、ゴクツブシの腐れ外道」

「わざわざ名前呼んだあとでカーチャンの口癖を真似るのやめろ! あ、やめてくださいお願いします」



 悪知恵が回る程度の頭はあるからか、ある程度は自分の立場を理解しているのだろう。

 なら、まずはその悪行をやめてはどうか……とも思うが、やめないんだろうな、この男は。



「リョーマさま。どうするんですか?」



 不機嫌そうに、レーネが問いかけてくる。


 レーネにとっては、ヨナスは見ず知らずの他人……それも、泥棒、という認識でしかない。そんな人物といつまでも話していないで、早いところ官憲にでも突き出せばいいのに、と思っているのだろう。深夜遅くに起こされたことも原因かもしれない。


 実際、俺もそう思う。



「ううん……まずは、マレインさんのところに連れて行くかな」

「ま、まま、待ってくれよォ! カーチャンはダメだ! カーチャンだけはだめだ!」

「あなたの責任でしょうに、母親に知られたくないから泣きつくなどと……」



 ミリアムが吐き捨てるように言う。が、気持ちは分かる。

 マレインさんは「次は無い」と吐き捨てるように言っていた。

 ヨナスのこれまでの行動を鑑みれば、鉄拳制裁でも及ばないほどの「何か」が起きるのだろう。

 完全に自業自得だが。



「そ、そうだ! リョーマ! ま、魔石の売り出し先のことを教えてもいい!」

「同じ穴の狢にはなりたくない」

「せ、精霊術師に頼みたいことがあるってんで、聞いてたんだ! 在野の、それも、魔石を作れるほど腕のいいヤツなら、是非頼みたいことがあるって!」

「はぁ?」



 苦し紛れの出任せだ――と思わなくもない。


 ただ、ヨナスも俺が組するとはもう思ってはいないだろうし、咄嗟の出任せにしてはいやに具体的だ。

 判断を仰ぐためミリアムの方を見るも、彼女は侮蔑の視線をヨナスに注ぐだけだった。

 ヨナスは徐々に視線を快感に感じてきているようだった。ホントに何なんだお前は。


 ……ともかく、俺が判断するしかない、ということか。



「とりあえず、話だけ聞かせてくれ」

「ほ、ほら、これだ」



 と、ヨナスは懐から一通の封筒を取り出す。

 捕まるのをある程度予見していたのだろうか。ならその知恵をもっと別の方向に回せと言いたくなってくる。


 横からミリアムが奪い取るようにして封筒を受け取り、その中身を改める。



「……ギオレン霊王国の……精霊術学校の講師からの手紙のようですが」

「ギオレン?」



 俺の知っている地名と言っても、精々が村……クラインと、クラインを含めたこの近郊を治める領主の住まう、ライヒの町。加えて、この村と町の属する国――スニギット公国、という程度しか知らなかった。


 ギオレン、という国名は初耳だったが……霊王国、という語感。精霊術の学校という言葉から考えても、到底魔族(おれたち)に友好的な国だとは考えづらい。


 怪しい、というのが第一の印象だった。

 ヨナスがギオレンの名を騙って……というところに関しては、そう心配しなくとも構わないだろう。知らなければ権力も通用しはしない。



「内容は?」

「……魔石を作る、という相手に会いたい。可能ならばこちらの頼みも聞いてもらえるよう頼んでくれないか、ということですが」

「お前どこでそんな繋がりを持ったんだよ……」

「類は友を呼ぶ、ってな」



 つまりこの手紙の主も同類(ロクデナシ)か。

 心底うんざりする話だが、確かにヨナスの知り合いならばそうなるだろう。



「……どうされますか?」



 向かうか、否か。


 行くメリットは正直なところ、無いと言ってもいい。ギオレンという国がどういった国か、魔族にとって敵か、味方かさえ分からないような場所に飛び込んでいくことは憚られる。

 ヨナスのことも考えるなら、この手紙を破り捨てて早いところマレインさんに突き出すのが一番、だろうが。



「行ってみよう」



 俺はそう判断を下した。



「なぜ?」



 ギオレンのことについて知っているのだろうミリアムが、訝し気にこちらを見る。確かにメリットは殆ど無いに等しい。


 だが、俺が気にかかっているのはこの「学校」のことだ。


 この精霊術学校というのがどの程度の教育を生徒に施しているのか。また、精霊術と魔法についての相違点や魔力というものの捉え方など気になる点は多い。


 それだけでなく、スニギット公国外の情勢――例えば魔族に対する考え方や捉え方の違いなども知っておきたい。

 とはいえ、ヨナスがいる目の前でこういったことを言うのはいささか問題があるので。



「多分、今必要だと思うから」



 総括して、一言。そう答えた。



「じゃあ、ヨナス。まずこの手紙の送り主に返事を書いてくれないか」

「ゆ、許してくれるんだな!」

己惚(うぬぼ)れるな」

「ひでぇ」



 妥当だよ。

 国によっちゃ文字通り腕切り落とされてるぞお前。



「それで、どうするんですか?」

「ダミアンさんに預ける」

「ゲェェェェッ!?」



 ダミアン・ブラウエル。レッツェル家の畑以外の働き口を探していると説明したところ、快く自身の経営する酒場で働いても良い――と、俺を受け入れてくれた人だ。

 見上げるほどに背が高く、子供が泣くほどに恐ろしい顔……ではあるものの、身元も素性も不明な俺を雇い入れてくれた、大らかで器の大きい方でもある。


 と、同時に。犯罪に対して大らかなわけではないということは明言しておきたい。

 高価な酒を盗んだヨナスが顔面の面積を倍にするほど殴られたことは先に述べた通りだ。まず間違いなく厳格な人ではある。加えて、実質的に村長としてクラインの村を取り仕切っているあたりからは、器の大きさや思慮深さも読み取れる。


 少なくとも、まず冷静になれないヨナスの母親(マレインさん)よりは、ヨナスの扱いとして適切な案を提示してくれるかもしれない。

 まあ、死ぬよりはマシだろう。と思う。精々ヨナスにとっての地獄を見る程度だ。



「文句は言わせんぞ」

「言わせません」

「せん」

「……わ、分かったよ……それで……」



 渋々、と言った様子で、ヨナスは俺たちの提案に頷いた。


 その後、廃屋のロープと巻き藁を使って、ヨナスが逃げ出さないよう一晩中簀巻きにする運びとなって、俺たちもようやく再びの眠りについたのだった。

 なお、翌日。ダミアンさんに引き渡されたヨナスは、前回よりもひどい有様ではあったが、なんとかかんとか生存はしていた。


 その話を聞いたミリアムが思い切り舌打ちをしたのは気のせいではあるまい。

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