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適切な対応

「詳細は後日きちんと煮詰めて公王陛下に報告、その後に正式な決定を通達します。が……今この場で決められることは決めておきましょう」

「承知しました」

「な、ま、待て、そんなことッ」

「貴女の意見は求めておりません」



 既に一度こちらがマウントを取ったおかげだろうか。フランチェスカ伯の言葉に対して、あの暗殺者は二の句を告げられずにいた。

 元々、フランチェスカ伯の言葉自体が割と有無を言わせない風だからというのもあるだろう。俺自身、彼の言葉に対して反論を投げ掛けるのは憚られていた。



「フランチェスカ伯の妹という前提は崩さずにおくべきですか?」

「そこは言うなれば最低条件でしょう。養子に取って名字を付けます。名前はご存知ですか?」

「いえ、名前は何も。元々そういう状況でなかったこともありまして、個人情報は何一つ聞き出せておりません」



 もっとも、その個人情報ですら存在するかどうかは不明だが。

 この少女にしたって、密偵の端くれだと言うなら自身にまつわる情報を消してから諜報活動に臨むだろう。そうじゃないといけないというわけじゃないが、今、このような状況に陥った場合のリスクを減らすためには、そうするのが自然だ。



「ではこちらで勝手に名付けますか」

「……そうする他無いでしょうね」

「いや、いいのそういうことして!?」

「ば、ば、ば、馬鹿げている、何なんだ貴様らは!?」



 流石に現状には焦りを覚えたのだろう。アンナに続くように少女が吠えた。



「名乗りもしないのが悪い」

「けどその、この子にも割とその、人生があってさ?」

「お前嫉妬してんのか同情してんのかどっちだよ……」

「だってリョーマも領主様も割とひどいこと言ってる気がして……」

「では、対案をお聞かせください」

「え。た、たいあん……?」

「……代わりになる案ってことな」

「……ないです」



 案の定、アンナは特に対案も無く言っていたらしい。

 感覚派というかなんというか、本当にこういうところの感性だけは疎いというか……。

 こういう優しい――というか甘いところに俺が惹かれたのは確かだけど、流石にもう少し考えてから発言してほしいところだ。



「この愚図!」

「何アンナ馬鹿にしてんだ殺すぞ」

「ひっ」

「落ち着いてくださいリョーマ様!」



 ……流石に我慢の限界に達していたらしい。少女の言葉に呼応するようにして放たれた膨大な魔力は、少女の身体を震え上がらせ、フランチェスカ伯の目を見開かせていた。



「……失礼しました」

「結構。これで話が早くなります」



 そういうつもりでやったんじゃなかったのだが。



「とりあえずは私の親戚筋に出してフランチェスカ姓を付けることを確定しておきましょう。でなければ方便とはいえ私の妹ということにはできません」

「了解しました」

「……上の名前について候補は?」

「『サラ』や『イヴ』のようなシンプルなもので良いのでは」



 昔観たスパイ映画のヒロインの名前だったように記憶しているが……この暗殺者には、ともすると贅沢だろうか。「ああああ」とか「もょもと」とか「げろしゃぶ」とかそんなものでいいかもしれない。

 ……言ったら言ったで怒られそうだな。



「そちらのお二人は、何か候補はありませんか?」

「いえ、私は特に」



 丁重に断るミリアムだが、思えば以前ネリーの名前を決める時にやたらと長い名前を並べ立てて顰蹙を買っていた。名前のこととなると口を閉ざすあたり、あの時のことを気にしているのだろう。

 この辺が得意なのはレーネだろうが……今はいないわけだし、それにほど近い感性の持ち主と言えば……。



「アンナ、何か名前の候補とか、無いか?」

「え、あ、あたし?」



 元々自分の名前の「アンネリーゼ」が嫌だからと、人にはアンナと呼ばせているという経歴もある。自分が別の名前だったら――と考えたことも、一度や二度じゃないだろう。なら、もしかすると何か候補のようなものが残っているかもしれない。残っていないかもしれない。

 どっちにしても、即興で考えるならミリアムよりはだいぶマシなはずだ。そうであってもらわないと困る。



「え、う、ううん。ヴァレリーとか、マルグリットとか……?」

「……成程」



 よし普通だ。標準的な外国語の名前はよく知らないが、少なくとも俺の知っているようなフォーマットに当てはめても特に問題はない。



「そうですね。では……マルグリットというのは親族におりますので、ヴァレリーという名前を使わせていただきましょう」

「承知しました。では、しばらくの間は領内に戻り、続報を待ちます」

「よろしくお願いします――――彼女の面倒も含め」

「……はい」



 そう言って、俺たちは未だ体の震えの止まない少女――ヴァレリーの方を見た。


 非常に、癪だ。

 いくらそれが必要だからと言っても、やはりミリアムの言う通り災いになるものを自ら内側に招き入れるのは、不安しか感じない。

 その災いのもとの口が悪いと言うのだから尚更だ。いつ、どのタイミングで俺がキレてしまうか、あるいは俺の周囲の――例えばオスヴァルトやレーネのように、俺の悪口が聞こえたら容赦をしないような面々が聞いてしまうとどうなってしまうか、正直なところ分からない。

 改めて、フランチェスカ伯も厄介なものを押し付けてくれたな、と思う。



「では、これで自分たちは失礼します。また後日伺いに参りますが――万が一のこともあり得ます。くれぐれもお気を付けてください」

「無論。もっとも、どのような刺客であれ、生半可な者であれば即座に討ち倒して見せますよ。ご安心を」



 そういえばそうだった。この人、かなりの武闘派……というか、肉体派でもあるんだ。

 決して闘いは好まないだろうけど、ワイバーンの首を簡単に圧し折ってしまうような御仁だ。多少のことなら一人で何とかなるのだろう。


 ……領主に戦闘能力が必要なのかどうかは置いておいても。

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