真面目不真面目
「リョーマさん、実はサイコパスかバトルジャンキーの気があったりしませんか?」
「前者はありうるかもしれません」
「失礼なことを仰らないでくださいエフェリネ様! オルランド卿も肯定しないでください!」
こっちにもあるのかその言葉。
確か、平然と嘘をついたり口が達者だったり、ものごとに対する罪悪感が無かったりするのが特徴だったっけ。
……当てはまっている部分があるだけにやや言い返しづらい。
「普段なら金銭を要求していたかもしれませんが、差し迫った事態が事態だけに今回はそのようなことは言っていられません。明らかな格上を相手にするんです。どれだけ訓練しても不安で仕方がない……」
「訂正します。偏執狂ですね!」
「失礼なことを仰らないでくださいエフェリネ様」
俺のことを何だと思っているんだ失礼な。
いや、自分でも割とそんなケがあるんじゃないかと疑ってはいたけれども。
ともすると、エフェリネの俺に対するこの評価が正しいのかもしれないけれども。
……ともかく、そういう印象を持たれていたのだとしたら、それはそれとして非常にショックではある。
俺、これでもある程度常識を弁えて生きてきたつもりなんだけど。
「何か手はありませんか?」
「そうですね……何で訓練が上手くいかないのですか?」
「下手に攻撃を加えると傷つけてしまいそうで恐ろしいのです。自分は以前より力が強くなっているのは確かなのですが、だからこそ、加減が少し難しくなっていまして……」
魔力武器に限らず、徒手空拳の一撃でさえ容易に岩を砕く。同じ魔族であっても、直撃すればただでは済まない――というのは、既にカイルさんとの戦いの際に証明されていることだ。
そう簡単に死にはしないと理解はしていても、そんな威力の一撃を味方に向けるのはやはり、抵抗が強い。
……もしかして俺、本格的に戦いに向いてないんじゃないだろうか。
「怪我をした時に、治療できる魔法を使える者もいないんです。抵抗なく、攻撃を加えられる相手になら訓練として適切なのですが……」
「こればかりは、オルランド卿の覚悟の問題ではありませんか? 必要と認めたなら、そうすることは躊躇わないものかと」
そういわれるとぐうの音も出せなくなるのだが。
……練習でできないことが本番になってできるわけがない、ということでもあるだろう。
「でも、ライヒでの戦いの時はちゃんと戦えてた……んですよね」
「……ええ、まあ。多分……」
「自分でやっておいて多分って」
いわゆる、トランス状態というやつかもしれない。
多分、何事にかけてもなりふり構わないヤケクソのような状態の方が、俺はパフォーマンスを発揮できるのだろう。
……いや、普段全力を出していないってわけじゃない。わけじゃないんだ。俺自身はいつでも全力でいるつもりだし。
火事場の馬鹿力というやつだろう、多分。脳のリミッターが外れるから、突拍子もないことを考え付くし、躊躇うことなく実行に移せる。
「でしたら、これなんてどうでしょう?」
と、ふと思い出したように服の中から引っ張り出してきたのは、大粒の魔石だ。
マルティナさんやドミニクスさんが特に何も言ってこないということは、見せても特に問題ないものなのだろう。あるいは、適度にありふれたものなのか……。
「これは?」
「岩人形を作るための、核となる魔石です。相手が生物でないなら、リョーマさんも本気を出して訓練できるのではないでしょうか?」
――――なるほど、その発想は無かった。
昔、聞いたことがある。古来からある剣術、示現流の修行というのは、基本的に一人で行われていたと。
杭や巻き藁、あるいは枝葉を集めて固めたものを仮想敵として、ただひたすら刀を打ち込み続ける。どうしても刀筋は単調になってしまうものの、戦場で必要な気勢と筋力は培われるものなのだとか。
今の俺たちの場合、巻き藁や杭に打ち込めば最初の一撃で即座に破壊してしまうことだろうが……魔力を通して強化したら、また違うだろう。ゴーレムだというなら、誰かが後ろで操ればある程度は意のままに動かすことができるだろうし……俺が最初に魔力を込めればそれ以上魔力を使うことも無いし、ミリアムならなんとかできるだろう。
じゃなくても、一人で納得いくまで打ち込み続ける手もある。
そうなると、わざわざ仲間を相手にしなくても済む――か。
「こちら、今回のお礼です。差し上げます」
「よろしいのですか?」
「構いません。国に戻ればいくらでも作れますから」
「……は、はぁ」
……毎度毎度こうしてこの子は魔石を懐から取り出しているが、いつでもストックしているのだろうか。もしかして。
いや、ありうるけども。常に魔石を持ち歩いているというのもいかがなものなんだ……?
「ともかく、ありがとうございます。今後の訓練に有効活用させていただきます」
「え、ええ……個人的にはもっとこうお食事とかそういう方向性を期待していたんですが……」
「そのような畏れ多いことはできません。すべては――――天帝を降してからです」
「……わぁクソ真面目……」
「汚い言葉をお使いになられないでくださいエフェリネ様」
間違ってないし。俺別に間違ってないし。
批難受けるようなことしてないし。
……十九で結婚するのはまあ、ちょっとは言われてもしょうがないかもしれないけど。
でもそうなると真面目ってわけじゃないし、そうまで言われることは無いんじゃないかなって。
「……では、そろそろ良い頃合いです。視察の方に戻りましょうか」
「えぇーっ。もうですか? 見るべきところは殆ど見たような気がす……」
――――言いかけたその瞬間、エフェリネの傍の二人から向けられる視線が冷え切った。
「い、行きましょう」
「……はあ」
……失礼なことをするな、とか。ちゃんと仕事をしろ、とか。そういう意味を込めた視線だったのだろう。即座にその意味を読み取ったエフェリネは、神妙な面持ちで俺の言葉に頷いた。
「……自分が真面目というより、エフェリネ様が少々不真面目なだけでは……?」
「うぐ」
俺がこう、変に真面目な部分があって、それがあまり良くない結果を生んでいることは認めよう。
しかし、それはそれとして、エフェリネがただ不真面目だから、俺に対してそんなことを言ってしまっているだけなのでは……?
そんな意味を込めて呟くと、エフェリネは少しだけ顔を強張らせた。
……流石にあるんだな。不真面目してる部分への罪悪感は。




