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容赦って何ですか

「お話は終わりましたか?」



 不意に、上から声が降ってくる。

 ――と同時、上からミリアム……と、グロッキーになって目を回した二人が、ミリアムに首根を掴まれる形で降り立った。



「あ、ああ……大丈夫なのか、二人は?」

「死にはしないでしょう。あと二、三日続けたら上達もすると思いますし――多分」

「おい今多分っつったか」



 そこはかとなく不安にさせるようなことを言うなぁこいつは!



「出来なければ戦いに出さなければ良いのです。今のままでは足手まといもいいところですから」

「そういう言い方は……」

「しかし、王よ。事実として、足を引っ張るような者がいるならば、その者だけでなく、仲間も含めて危険に晒されますぞ。現実は正しく見据えねばなりますまい」

「あ……ああ……まあ、そうだな……」



 そりゃそうだ、というか……当然だ、というか。

 あんまりにも死ぬ可能性が高いなら、そもそも戦いに携わらせちゃいけないのは間違いない。

 現状の二人では、そうなる可能性が高いのだろうけども。



「……まずアルフレートに一対一でやらせてくれないかって頼むよ。駄目かもしれないけど」

「大丈夫ですか? 今更、もう一度話に応じてくれるとは思えませんが……」

「直接乗り込めばいい。幸い、手段(・・)はあるんだし……」



 幸い――と言ってはなんだが、アンナを助ける時に、事実上のワープを果たしたアレだ。

 霊的領域……あの世を一度経由してこちらに戻ってくることで、強くイメージした場所へと移動する技術。

 アンナの時ほど強くイメージは出来ないかもしれないが、それでも何とかなる程度のものではあると思う。



「それもそうですが……やはり、万が一のことを思うと、戦力の増強は急務です」

「アルフレート以外に対して、か?」

「ですなぁ。人間も決して一枚岩ではありませぬ。それはお分かりでしょう?」

「……ああ」



 その辺は俺の方が理解している。エフェリネからも聞いている通り、あの時の会談の場に居合わせた人間だけが全てじゃない。

 俺たちの排除を望む者もいるだろうし、逆に、俺たちのことを必要以上に保護しようとする者もいるかもしれない。それは、人によって千差万別だ。

 俺たちを排除すべしとする人間が、いずれ襲いに来たとしてもおかしなことはない。


 だからこそ、それをどうにかするために鍛える必要がある、ということでもあるわけだ。

 強ければ手加減がきくようになる。その場の選択肢が増えれば、殺すことなく捕まえるということだってできるだろう。だからこそ、ミリアムの言う通りに戦力の増強は急務だ。



「けど、やっぱり成長速度には個人差がある。俺だって優秀な方じゃなかったしさ。もうちょっと、長い目で見てくれないかな、ミリアム」

「そう仰るなら、善処はしますが……」



 言いつつ、その顔からは少しばかり不服そうな印象が窺える。



「先代の頃と比べて、頼りないか?」

「……そのようなことは」

「嘘つけ。これじゃあダメだって顔してるぞ」



 指摘すると、「まさか」とでも言いたげな様子で、ミリアムは自分の顔を撫ぜた。


 でも――実際、ミリアムは多分そう思っているだろうとは、思う。

 元々、俺に対してさえ、先代の冥王と比較するような言動が目立つんだ。人間の戦争の頃のことを鮮明に覚えているだろうミリアムが、当時の魔族の手勢と今の俺たちを比べないとは思えない。

 その上で、寸評を下すのは……現状を考えれば、決して悪いことではないのだろう。

 彼女の憂いていることは、おおよそが事実だ。改善する必要は、勿論ある。



「不満、というか不安はありますが……足場固めの時期です。文句はありません」

「そうか? ……そうか」



 そう言うのなら、そういうことにしておくのが無難だろう。

 ミリアム自身も、そんな風に考えていることは表に出すべきじゃないと考えているから、言葉にせずにいるのだし。



「……どっちにしろ、俺ももっとしっかりしなきゃいけないな。ミリアム、訓練の続きを頼みたいんだけど、いいか?」

「ええ、構いません。では、続いてはもっと実戦的な訓練に移りますが――オスヴァルト、ネリーとアンブロシウスをどこかに移して寝かせておいてください」

「承った。では王よ、健闘を祈ります」



 力ずくで引っ張ってきたミリアムの時とは異なり、オスヴァルトはあくまでスマートに――見える風に、魔法を使ってネリーとアンブロシウスを持ち上げて、この場から離れて行った。


 ……いや、別に魔法で運んでいくのはスマートではないけども。

 魔力の消費もあるし、結局抱えて連れて行くのが一番効率的には良いんだけども。

 見栄張ってるんだろうか。張ってるんだろうな。



「……では、少し講釈させていただきます。と言っても、私にできるのは体術までですが」

「体術まで? ……武器の扱いとかは?」

「どうせ改造されるおつもりでしょうに、扱いをどうせよと?」



 ごめんなさい。

 マジごめんなさい。

 というか聞こえてたのかよ。



「そもそも、リョーマ様が多少武器の扱いを覚えたところでアルフレート様には勝てません」

「ひでぇ」



 でも事実なんだよなそれが。



「なので、アプローチを変えます。武器の扱いに劣るのならば――――」

「――それ以外の部分で、か」



 戦いは総合的な能力を競う場だ。スポーツとは異なり、あらゆる全てを用いて「勝つ」ことが求められる。

 今の俺では、アルフレートに武器の扱いで勝つことはどう足掻いても無理だ。

 一方、魔法に関しては――「冥王」として扱える俺固有のものがある以上、優劣は付けづらい。

 体術は……カイルさんのものを見る限り、剣術よりはまだ俺が勝つ目がある。もっとも、あの光速移動を連続してやられると、どうしようもないが……。



「私にできる技術を可能な限りお伝えします。この模擬戦で、確実にものにしてください」



 告げた瞬間、ミリアムが構えを取る。

 どこか日本的な――空手だとか合気道だとか、そんなものを彷彿とさせる構えだ。


 なんとなく懐かしさを覚えるが、やはり武術――体術となると、どこでも共通項というものが出てくるものなのだろう。

 人間に限らず、生物の体には明確な急所というものがある。そこを狙い、あるいは打ち抜くために必要な構え――それを突き詰めたなら、結果的に同じような格好になっても違和感は無い。


 ――――ただ、ちょっとした問題が。



「……あの、座学は?」

「模擬戦しながらでもできますよね?」



 あ、はい。

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