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結果的な予習と復習

 ――――あ、これ油断したら死ぬやつだ。


 瞬時に、そう確信した。

 こういう時、ミリアムは冗談を言わない。ごく稀に適当なことを言うこともあるが、そういう時はもっと声音が明るい。

 今は、そう。本性丸出しで独り言を呟いている時のような、もっと低めの声のアレだ。そういう時のミリアムに遊びっ気は無い。


 ……魔力武器も創り出しているし、これは本当に危険かもしれない。



「――――……二人とも」

「お、おう!?」

「何だ」



 冷や汗を流しながら、二人に呼びかける。当然と言うべきか、ネリーの声には僅かな恐れが滲んでいる。

 アンブロシウスは、泰然自若としたものだ。元々、こういう機会が訪れることを内心で察知していたのだろうか。



「死ぬなよ」

「わ――分かった……!」

「……当然だ」



 そもそも、一日で終われるのか? 元々俺はそこまで器用な方じゃない。魔力の馴染み方が遅かったとはいえ、魔法の扱いも決して得意ってわけじゃないんだ。

 けど多分、俺の戦闘技術は死ぬ気にならなきゃ上達しない。ミリアムもそれを理解しているんだろう。殺す気は無いだろうけど、限りなくそれに近いところまで追い込まれる可能性は高い。


 とは言っても、こっちから攻撃するわけにはいかなくて――――ああ、なるほど、追いかけっこだな確かに……!



「五」



 ミリアムのカウントダウンの声が聞こえる。


 というか――五秒ぽっちかよ、逃げる時間!

 いや、理解はできる。逃げるのはいいけど、逃げすぎると趣旨に反するし、抗うのもいいけど抗いすぎるのもまた、趣旨に反する。

 これはあくまで訓練なんだ。鍛えたいなら、最低限ミリアムからも見える位置にいないと話にならない。



「四」



 俺は元々、城の中の構造に詳しくない。

 逃げ回ったところでどこかで捕まるのがオチだろうし、そうなると訓練にならない。なら、開けたこの庭園の周辺にいるのが最善だ。


 二人がどうするのかは分からないが……俺はこの場に留まろう。

 相手はミリアムだ。この距離なら、まず間違いなく数秒もせずに追い込まれるはず。

 普段でだって本気のつもりだし、いざ戦うとなれば躊躇もしないつもりだが……こと頭の回転に関しては、窮地に追い込まれることでより早くなる。技術の習得に関しても同じことが言えるだろう。もっとも、突き詰めるとそれは「窮地に追い込まれないと本気にならない」ということでもあるかもしれないが……。


 だが、何が何でも、ここでミリアムの言う「精密な魔力操作」を体得する――――!



「――――来いよ……!」

「お望みとあらば」



 俺の言葉に対して満足げに頷き、ミリアムはカウントを止めた。

 直後――俺の視界から、ミリアムの姿が消える(・・・)



「!」



 次の瞬間には、彼女は俺の懐に潜り込んでいた。

 先の、カイルさんの時のそれと比べれば遅いのかもしれないが、だとしても十分に――それこそ、俺の認識が追いつかない程度には速い。


 僅かに視界の中に移り込んだミリアムの目には、確かな殺意が渦巻いている。

 少しでも手を抜くようならば、ここで殺す――と。その瞳は、雄弁に物語っていた。



「ッ」



 風景がスローモーションになっていくような錯覚に見舞われ――瞬時に、脳内を思考が駆け巡っていく。


 魔法――違う。駄目だ。まずもってこの状況で魔法を発動するまでのタイムラグは、一瞬であっても即座に命に関わる。そもそも、魔力コントロールによる身体強化でミリアムの攻撃を(かわ)すというのが趣旨である以上、その方法を捻り出すべきだ。

 思い出せ。そもそも、魔力コントロールによって肉体を強化するというのは、どういうことか。


 俺は――それを知っているはずだ。

 一度は、確実にそれを成し遂げたはずだ――――!



「――――――!!」



 加速する意識の中で、全力をもって体内で魔力を循環させる。

 血流のように――それを拡張し、全身に浸透させるように。


 ――――カイルさんと戦った時に、脳のリミッターを外したように!



「おおッ!!」

「!」



 瞬間、俺は思い切り床を蹴り、この身をはるか後方へと躍らせていた。

 ミリアムの姿は、前方――先程まで俺がいた場所にある。


 ――――成功した。


 ほんの僅かな切っ掛け、それも、最初の一撃で――成功した。



「は、は――――」



 ……散々ミリアムからは覚えが悪いだの習得が遅いだのとこき下ろされてきたが……ようやくだ。

 やっと――――鼻を明かすことができたぞ。



「……お見事」



 そんな俺を見て、ミリアムは素直に賞賛の言葉を投げた。


 ……その手に握る短刀に僅かに血が付着しているが、あれに関してはそもそも俺の反応が遅れたせいだ。胸元に痛みはあるが、俺の不手際の証としておこう。



「よくこの一回で習得できましたね?」

「前にカイルさんと戦った時に、強引に光速に対応したって話、しただろ? 多分、それ――魔力で脳のリミッターを外したりしたんだと思う。だから、それをちょっと応用してみたんだ」

「――――ああ、成程……」



 俺の説明に納得いったのか、いってないのか。苦虫を噛み潰したような表情で、ミリアムは一つ、頷いて見せた。


 以前、命懸けで大馬鹿をやらかしたことは叱りたいが、それが、こうして求めている技術の習得に寄与しているということにジレンマを抱いていると言ったところか。ここで褒めたらまた同じことをしでかすんじゃないかと不安なのだろう。

 気持ちは分かるし、俺も何かやらかすようなことは無い、なんて自信は無い。多分、その時になれば俺はまた平然と命を張るだろうし。



「では、アンブロシウスとネリーの方へ行ってまいります。後ほど、もう少し実戦的な訓練も行いますので、少し休憩しておいてください」

「あ、ああ。分かった」



 言うと、ミリアムは瞬時にアンブロシウスたちの逃げて行った方向へと、まるで姿を消すように瞬時に移動して見せた。

 あれは――外から見ると俺もあんな感じに動いているのだろうか。それとも、ミリアムの動きのキレが良すぎるだけなのだろうか。


 どっちにしろ、これでスタートラインに立つことができたと言うのなら……もう少し喜んでもいいのかな。


 ……どうも、すぐにもう一段解難易度の上がった訓練をすることになるようではあるけれど。

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