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ゆかいな霊王国

「――――では、以上をもって冥王、リョーマ・オルランドへの質疑、及び通告を終える。ご苦労であった」



 そうして結局、今回の話はその言葉をもって終わることとなった。


 結果それ自体は、成功――と見てもいいだろうか。

 全部が全部そうだというわけじゃないが、現状の俺たちにはそれほど不都合が無いというだけでも充分に上出来だ。

 何より社会的な地位を得られたことが大きい。あるいは、現状では人々に明かすことはできないかもしれないが――それでも、生存の権利を得られただけで、俺個人は嬉しく思う。


 さて。結局のところ、俺たちがここにいるのは基本、「公王に呼ばれたから」であって、それ以上のことは無い。

 アンナとミリアムは、どちらも宿に荷物を取りに行ってもらっている。どうせ、こちらに用事があるわけじゃあない。

 しばらく観光や交流がてら、近辺を歩いて回ったらすぐに帰ろうかな――と思いつつ、王宮の庭園を歩いていた矢先のこと。



「あ、リョーマさん! 少しよろしいですかよろしいですね!?」



 ラスボス(エフェリネ)の襲来である。



「いえ……良くはないかと……」



 よろしいかと言われても、何もよろしくないというのが本音だ。


 何でだって王宮でまで普段通りの姿を見せなければならないんだ。こんなところで人に見られて誤解でも受けたらどうすると言うんだ。

 そりゃあ、俺個人はエフェリネと話していても問題は無い。無いが、それはそれとして世間体等々を考えれば、今は接触するべきではないのではないか――?



「その通りです、エフェリネ様」



 そう考えていると、エフェリネの背後から先程の人――ヴェンデルさんが前に出た。



「彼は魔族であり、我々霊王国にとっては敵対者――その事実を忘れて呑気に会話でも、というのは褒められたことではありません」

「そうは言いますが、ヴェンデル。突然そうやって態度を変えろ、などと言われてもなかなかできることじゃありませんよ……」

「あなたは痛切にそうしてください」

「不本意ながらその通りです」

「むうううううううう……」



 一国の王がいつまでもそれでいいわけが無いだろう。



「……申し遅れました。リョーマ・オルランドと申します。先程はお世話になりました、ヴェンデルさん」

「……ヴェンデル・ファン・オールトメッセン。挨拶が遅れ、申し訳ない」



 互いに一礼を交わし、エフェリネの方へと向き直る。

 自分だけのけものにされたのが腹に据えかねている……というか、そのせいでむくれているらしい。


 本当になんというか、王というより子犬系というか。

 この人は本当に何で霊王なんてやってるんだ。



「不躾ながら、少し聞かせていただいてもよろしいでしょうか? 先程の、我々への条項の件なのですが……」

「何か――問題が?」

「いえ、普通の人なら魔族に対して多かれ少なかれ偏見を抱いているものだと思いますから。先程、普通の人間に対してそうするように、ごく当たり前の意見を出していただけたことが嬉しく――――」

「私は霊王国の国益を優先したに過ぎん」



 と、礼を告げた俺に返ってきたのは、そんなすげない言葉だった。



「は……はぁ。と言うと……?」

「貴様たち魔族と戦争をすることになれば、少なくない犠牲が生じるだろう。矢面に立たねばならぬのは、他ならぬ最強の精霊術師であるエフェリネ様だ。そして、万が一にでも傷つき倒れられでもしたならば、霊王国は立ち行かなくなる――私はそのリスクを排除したまでだ。魔族のためなどではないということを努々(ゆめゆめ)覚えておけ」

「……わ、分かりました」



 いわゆる、ツンデレとかいうやつだろうか。


 いや、それは無いな。この人は徹頭徹尾「国のため」を思って話している。

 言葉に嘘も無く、恥ずかしがるような様子も無く――淡々と、己にやるべきことを課して徹底的に果たしているようだ。

 この様子から察するに、他の人と同じく魔族のことについては良い印象を持ってはいまい。だが、国に害を及ぼすもの――戦争の可能性――を排除するためになら、プライドを捨ててでも正しいと思ったことをしようとする意志が見える。


 これはこれで、好感が持てる人だ。

 適当なその場しのぎの嘘をついてないってだけでも、悪人ではないことだけは充分分かる。


 ……俺がそれだけ嘘を吐き続けてきたせいかもしれないけど。



「私はそうは思ってませんよ……?」

「はあ。ありがとうございます」

「何でそんなに微妙な反応なんですかぁー!」



 信用できるできないは別にして、今この時点であなたが一番子供っぽいからです。


 嫌いだというわけじゃなく。

 むしろ人柄は好ましいけれども。



「……そういえばエフェリネ様。あなた確か、さっき……自分に嫁ぐ相手がどうのという時に『自分が』なんて言い出してたような……」

「他に適任者が思い浮かばなかったので……あれは忘れてください」

「勿論、そうさせていただきます。エフェリネ様も口走ってしまっただけでしょうから」



 なんだかやたらとヴェンデルさんからの視線も痛いし、これ以上さっきの話の追及はできなさそうだ。

 下手したら殺される。



「――――その件で話があるのだがね!!」

「うおおおおああ!?」



 と、そんな折に唐突に背後から叫ぶ声があった。


 耳が痛い! ちくしょう、オスヴァルトを髣髴とさせるようなことを!

 この声、確かちょっと前に聞いた覚えがある。これは――――。



「お父様!?」

「ドミニクス……」



 驚きの声を上げるエフェリネと、大して呆れたような視線を送るヴェンデルさん。

 この状況でエフェリネの父親である彼が来る理由というのも――はっきり言って、明白と言えば明白だが。


 その表情はどこか興奮したものが見え、明らかな怒りの色がある。

 ……まあ、次に何を言うか予想はできる。けども。



「娘とどういう関係なのかね君は!!」



 ――――やっぱり来たよ、この手の質問!!

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