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憧れの悪役令嬢は男キャラだったようです  作者: 椋星そら
第1章 どこかおかしなこの世界
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01 ことの始まり

私は、勝手に市場に出たことを、今、果てしなく後悔していた。

買い物に来ていた、晴れたある日。少しだけだからと侍女の目を抜けて、賑やかな市場に惹かれて足を運んでしまった。私のような身分の人間が来るような場所ではないことは重々承知している。ただ、無性に気になってしまったのだ。……思えば、別に庶民の場だからといって、気にすることはないだろう、なんて言い訳をしながら。


ただ、まだ7歳の私は物事を甘く見ていた。大柄の男の人にぶつかって、派手に転んで、この有り様。石畳の階段の隅に座って、血の滲む膝を茫然と見つめていた。当然ながら、痛い。




「……大丈夫?」


しばらくそうしていると、突然上から声がしたと思い顔を上げる。すると、服装は平民のそれだが、顔が随分と整った少年がこちらを見下ろしていた。同い年ぐらいだろうか。帽子を被っていて、両手で大きなバスケットを持っている。


「転んだの?」


まじまじと少年を見ているとそう聞かれたので、素直に頷く。


「この辺の人じゃなさそうだけど……迷子とか?」

「家の人が近くにいるから大丈夫」


本当は迷子に近しいところはあるが、肯定しづらかったのでそこは適当に誤魔化した。すると、少年は疑うことなく「なら大丈夫だね」と笑顔になる。


「でも足、痛そうだから……ちょっとだけごめんね」


バスケットを一度地面に置くと、少年は私の膝に手を翳した。すると、膝は光に包まれて、光が消えた頃には傷が跡形もなく消えている。


「……魔法?」


なんとなく覚えのあるその感覚に、私はそう質問していた。


「んー……内緒!あっ、今のは、秘密だからね!じゃあ、僕行かなきゃ」


少年は困ったように笑顔ではぐらかすと、本当は急ぎだったようで小走りで去っていった。……お礼、言えなかったな。今度、会うことがあったらお礼をしないといけない。そう思いつつ、私はすっかり痛みの消えた足で立ち上がった。







それから家の者を探そうとふらふらしていると、噴水がある大きな広場に出た。周りを見ると上質な服を着ている人もいるので、この辺で探していれば会えそうだ。


その思惑は当たっていて、ほどなくしてきょろきょろと焦りながら周りを見ている侍女を発見する。その鬼気迫る表情から、私に何かあれば彼女の首が飛ぶことをようやく理解した。それと同時に、身勝手な行動を申し訳なく思う。


早く彼女の元に行かないと――――




そう思っていると、遠くから叫び声が聞こえてきた。



「きゃあ!泥棒よー!!」


女の人の金切り声が聞こえてくる。どうしたものかと振り返ると、無精ひげを生やし、いかにも貧しそうな男が、不相応な紙袋などを持って走っている。そして、その人を騎士らしき人たちが追いかけている。叫び声と総合して考えると、通りすがりの夫人を狙ったひったくりだろう。



危ないから近寄らない方が良いというのは明らかだった。ただ、泥棒はこちらに向かってきている。避けないと、そう思ったのも束の間、慌てる人が右往左往して満足に移動できない。人にぶつかってふらふらしている私に、とどめが刺された。


「おい、邪魔だ!どけ!」


意外にも足が速かった泥棒は私を突き飛ばし―――


ざぶん。


派手に突き飛ばされた私は、そのまま近くの噴水に頭から突っ込んだ。ごん、と鈍い音がして、おそらく頭をぶつけたのだろうと理解する。


まだ小柄な私は十分水の中に浸ったし、なにより、意識が遠のいていくのだ。息ができるはずもなく、私はそのまま意識を手放した。







身体がどうしようもなく、熱い。焼かれて死ぬのだろうかという気すらしてくる。……そういえば、頭をぶつけて噴水の水に沈んだのだった。あの侍女に責任がいってないだろうかと心配になる。私が悪いし、あれは全部自業自得だ。


そう言おうにも、身体は動かず、意識はどこかふわふわしている。





『あー!ほんと、最高のエンディングだったな~!おかげで寝不足だけど!』



……聞き覚えのある声がする。いや、聞き覚えというより、これは私の声ではないだろうか。そう自覚すると、目の前に不思議な景色が現れた。



『やっぱり王子は王道だったけど、私はカミーユ様が好きなんだよな~ふふん』



黒髪の少女が、不思議な物体を持ってニヤニヤしている。あれは何だろう。というより、何を言っているかもあまり理解できない。混乱している私をよそに、少女はぶつぶつと独り言を言っている。怖い。



『もう少しでひかこいもフルコンだし、今日も学校から帰ったらやんなきゃ』



ひかこい……?フルコン……?

疑問に思ったのも束の間、そういえば『私』は『煌く光に導かれて~剣と魔法と恋物語~』をやっていて、フルコン――スチルやエンディングを全て回収すること――を目指していたのだったということを思い出した。



――――あれ、私、なんで理解できているの?



そう思った瞬間、光が弾けた。

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