先代勇者、当代魔王
読み専だったのについ書いてしまいました。
不慣れゆえにまだまだ、甘いところやおかしな所がございますがそれでもよければお暇つぶしにどうぞ
アルトは悩んでいた。それぞれが満身創痍でアルトが止めを刺す迄もなく息絶えてしまいそうな勇者一行についてそれはもう悩んでいた。
自身の死が怖いのか仲間の死が怖いのかはたまたその両方なのか泣きそうな魔法使いに私も泣きたいとため息をつき。
どうにかこの状況を打破できないかと思考を巡らせているであろう賢者に是非とも素晴らしい智慧を貸してくれと応援し。
自分が一番最初に力尽きたのが悔しいのであろう剣士に前衛なんだから仕方が無いと同情し。
魔王である自分が憎くて仕方が無いと視線で訴えてくる幼馴染みである勇者に痛む心に気がつかないふりをして。
アルトは嗤う。勇者たちを小馬鹿にした調子で。
「あははははっ。弱い!弱すぎるわっ、貴方たち。よくそれで私を殺すとか言えたものねぇ?」
屈辱に顔を歪める彼らに気がつかれないように治癒の術をかけながら。
「あの宰相までも討ったというから期待していたのにとんだハズレくじだわ」
「……ッ!」
何かを言い返そうとするも傷が痛むのか呻くだけとなった勇者を見てアルトは心の中で謝る。
本当は私だって殺して欲しい。もう人を殺すのも村や町を焼き払うのも嫌だ。それに、幼馴染みである彼が自身に向ける憎悪の目に心が折れそうだ。
でも私はまだ死ねない。私が死ねば次に苦しむのが彼らだと知っているから。だけど私には彼らを殺すこともできない。
そんな葛藤が表情に出ていたのか訝しげにこちらを見てくる勇者達に慌てて表情を取り繕う。そして誤魔化すように口を開く。
「良い事を思いついたわっ。折角ここまで来てくれたのだからおもてなしをしなきゃダメよねぇ?」
嗚呼、我ながらなんて白々しい言葉。だけど勇者達に余計な疑問を抱かせないように言うが早いか彼らの周囲の空気濃度を弄り気絶させると比較的温厚だと言える魔物に彼らを運ばせる。
一人になったアルトは途端に大粒の涙をこぼす。
「ごめんなさい、ミルティ。ごめんなさい、クルト。ごめんなさい、ごめんなさい」
ミルティとは、先に言った宰相の名である。そしてクルトとは先程まで対峙していた勇者のことだ。
元々アルト、ミルティ、クルトは同じ村で育った兄弟のようなものである。
そしてアルトは当代勇者であるクルトの先代にあたる元勇者だ。ミルティはアルトと一緒にパーティーを組んでいた。
勇者は魔王を殺すと魔王に成ってしまう。
そんな残酷な真実をアルトは知らなかった。いやーーー知らされていなかった。
国王及び国の中枢に食い込む貴族たちは知っていた。だが、アルトやミルティ、クルトといった勇者及び勇者のパーティーに当たるものには教えられない。教えられないどころか捻じ曲がった情報を与えられ、魔法で洗脳される。
クルトがアルトに気が付かずミルティをも殺せた理由はこの洗脳のせいだ。
この洗脳は魔王を殺すと同時に解け勇者達は真実を知ることになる。
真実を知った勇者一行は絶望し魔族に身を堕とす。まぁ、真実だけでは絶望しない者も稀に存在するのだが、ご丁寧な事にそんな人用の罠がある。
その罠とは自身の気の置けない相手を自身が殺すというもの。
通常であればそんなことしないだろう。だけど相手が憎き魔族であれば話は別になる。
例えば、宰相であり元魔法使いだったミルティは魔法使いの少女の師だった。
主に特攻をしていた魔王軍隊長のハイレンは剣士である青年の兄だった。
私の腹心だったシーナは賢者である女性の親友だった。
そして私は……クルトの幼馴染みであり婚約者だ。
ちなみに私が絶望する原因だった先代魔王は私の父だった。
「本当……嫌になるわ」
私の小さなつぶやきは澱んだ空気に溶け未だに止まることのない涙も頬をつたい顎先から雫となって落ちる前に空気中に溶けた。
こういう瑣末な事でも自分が既に人外なのだと思い知らされ胸がしくしくと痛む。
いっそのこと勇者達の寿命が尽きるまで逃げてしまおうか?
そうすれば少なくとも当代の勇者達は絶望しなくて済むのではないだろうか?
いや、そんな事をすれば王たちがどう出るかわからない。勇者に掛けられている洗脳が強くなり彼らの脳を壊してしまうかもしれない。
それ程までに強力な洗脳なのだ。かつて自身も経験したからこそ解る。
「でも、とりあえずはあの子達の傷を癒して一週間は稼ごう」
一週間あればもしかしたらなにか思いつくかもしれない。それに、先程言った「おもてなし」ということでもう少し稼げるかもしれない。そう考えると過去の私を褒めたくなる。
とにかく今は時間が欲しいのだから。
この話……もしかしたら続くかもしれません←
誤字脱字やおかしなところがあれば教えていただけるとありがたいです。