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九天の高みへ -世界を殺す毒- (旧)異世界で堕ちた英雄  作者: トリ丸
一章 異世界で堕ちた英雄編
9/39

―8

魔素同化症の説明のみ書き替えました。

 

 “ 魔素同化症 ”


 これこそ俺を奈落の底へと叩き落とす、悪魔が微笑みながら運んできた病魔の名だった。


 この世界の魔法の構造を聞くに、改変という言葉が近いことが分かった。

 大気中に漂う魔素を体内に取り込み、魔力を生成するのは想像が付く。だが、この世界の魔法は消費したい魔力分を魔素へと放り出すイメージだそうだ。

 ある特定の魔法を行使するのに一定の魔力が必要なのではないらしく、特大の魔法を使いたいなら、それに応じた魔力を消費して扱えとのことだ。

 

 魔力というのは魔素を元にできたもので、昔のお偉いさんはこう考えたわけだ。魔力を消費してできた魔法という事象が、ものの数分で崩れ、形を留めていられなくなるというの原因は、魔素に自浄作用があるからだと。

 つまり、この世界の魔力というのはペンキのようなもので、濃ければ濃いほど、魔法として存在する時間が増えるということだ。

 そういう理由から、俺の雷の魔力は薄すぎて、魔法を魔法として観測する前に消えてしまう、欠陥品らしい。


 そしてこの症状は珍しいうえに特効薬が存在せず、自然治癒を期待するしかないがいまだ治ったという例は一度もないらしい。

 他の周りが魔法の練習をしている中、俺は直立不動のまま光を反射しない瞳で虚空の空を見つめていた。


 道端に落ちている死にかけの蝉を見るような目で俺を見ていたグリゾネだったが、見るにみかねてか、魔法の授業を一旦止め。

 “ クラフト ” の授業へと移るために騎士団長であり友人でもあるルールフを呼びに戻った。


 先程受けた傷が激しく、魂がでかかっている俺はグリゾネが背を向けると同時に情けなく座り込む。

 そこに這いよるように近づいた早川が俺の肩を掴み揺らす。 瞳の焦点が合わず、力なく早川の思うままに揺らされる俺を見て秋月は近づき膝を折る。


「大丈夫なんですか? 」


「…………死んでるの?」


「死んでなんかねえよ……」


 後になればなるほどか細くなる声に早川は俺の髪を掴み無理矢理目線を会わせた。


「なら……そんな顔はやめる」


 怒っているようなそれでいて心配してくれているような顔に俺の胸は締め付けられるように痛くなった。


「そうですよ。鈴ちゃんの言う通りです。頑張りましょう中村くん」


 言うだけ言って俺の返事も待たず、早川はさっさと戻って行ってしまった。

 アイツが俺に向けて言った言葉は、本当に俺がうっとおしくて言ったのかもしれないし、憐れんでいるのかもしれない。なにを考えているか全く分からない彼女の言葉に俺は不思議と元気づけられた。



 ・・・・・



 何はともあれ、気持ちの整理がついた頃にグリゾネはルールフを連れて戻ってきた。


「次は “ クラフト ” の授業ですが一応説明しておきますね。クラフトとは技の型や一連の動きを指す言葉で、その道の名人や達人ではないと編み出すことは出来ません。しかし、素人でもその型や一連の動きを真似ることで発動出来てしまう。それがクラフトです。

 では、簡単な説明このくらいとして、ルールフさん後は頼みます」


「わかった、見ていろ」


 グリゾネは説明を終えると王宮の方へと歩き去り、その場にはルールフと俺たちが残った。

 さすがにルールフは教え慣れしているというか無言の圧力で、てきぱきと大岩のある場所まで連れて行かされた。


「ルールフさんやルールフさんや」


 黒崎はわざとらしく腰を曲げ両手を腰に回し足をぷるぷるさせながらルールフ近づく。


「なんだ? ……ふむ…………黒崎」


 今思い出しただろコイツ。 さっき無言の圧力は俺たちの名前知らなかったからかよ。

 黒崎も苦笑いしながら、大岩を指差す。


「ここって闘技場ですよね。そんな大岩どうしたんですか? 」


「これは昨日グリゾネに頼んで作ってもらった」


 俺たちは感嘆の声をあげ、この大岩を見上げる。

 やっぱ凄いんだな魔法って、この大岩3メートル位はあるぞ…………は……はは……はははははははははははははははははぁ~、いいなぁ……。


「さっきの説明の補足するがクラフトは素人でも型さえ知っておけば基本は出来る。 しかし、それ以上となると才能そして日々の鍛練が必要だ」


 とよく響く声で言った後、組んでいた腕を戻し人間の背ぐらいの大剣(バスターソード)を抜き大岩に向き合った


「これがクラフト基本剣技《 スラッシュ 》だ。」


 降り下ろす刃に目映い青い光が纏い3メートル近い大岩は割けるように真っ二つになった。


「……これは凄いな」


 いつも冷静な宮本がまるで少年のような目でルールフの姿を見つめていた。



 こんなものを見せられた俺たちは年甲斐もなく高揚していて、いざクラフトの練習に入ろうとルールフがこちらに振り向きそれぞれの武器を見た時、俺たちは聞いこえてしまった。

 小声でふむ……2人以外は剣ではないのか…… この言葉は本当にコイツが騎士団長が務まるのか疑うほどの台詞で、急上昇したルールフの株を大岩のように真っ二つにした。


 その後ルールフが今度は他の奴を呼んでくると、威風堂堂とした面持ちで去った後、俺を除いた全員ががクラフトと魔法を独学で学ぶために王宮の書庫室へと向かった。


 そして俺は…………昨日の庭園に足を運んでいた。



 ・・・・・



「はぁ、はぁ……居た」


 庭園の中を探すこと数十分俺が探していた相手は昨日と変わらず燕尾服に黒い蝶ネクタイの姿で一本一本丁寧に水をあげていた。


「またか、今度はなに用だ小僧。 まさか……道に迷ったとは申さぬよな……」


  老人は俺の背に周りゆっくりと首に手刀を置き、老人とは思えない覇気のある声で現役の騎士団長のルールフと遜色のない気迫を持って問いかけた。


「……そんなの決まっている。 昨日の返事を貰いに来た」


  そして俺は後ろ腰の短剣を抜き、執事ジュドムス。

  王国騎士団第0小隊最強《 朱拳の虎 》戦を拳一つで勝利へと導き、戦場を肉塊と血に染め上げ命を貪る虎。




  俺はそいつに斬りかかった。



 ―――――――――――――――


 昨日の夕べ俺の秘密を何かに操られたように吐露していた。


 そしてその返答は、あっけらかんと一言で済まされた。


「それがどうした異界の小僧」


 決壊したダムの水のように溢れ、飛び出す言葉を老人は一回も眼を反らさず腕を組んだまま聞いていた。


「・・・今の俺がどうしたいのかわからない。 でもしたい時に出来ないのが一番辛い!」


 言いたいことを言い続けて、呼吸が乱れきった瞬間、俺は殴り飛ばされた。


「だから、どうしたいうのだ!!」


「ぐぅ・・・」


「立ち去れ小僧。 このぐらいの圧に耐えられんお前にどうこう出来るほど世界は甘くないぞ」


 老人も溜めていた何かを吐き出すように怒鳴り蹴り上げて、俺は城に戻る扉まで転がった。


「……っ! ……明日もう一度来ます。 俺の師になってくれるかどうか」


「くどいな小僧、俺は弟子はとらん。 それにお前のような弱い者ならなおさらだ」


 俺は蹴り飛ばされ時にぶつけた左腕を押さえながら返事も聞かずに庭園を立ち去った。


 ―――――――――――――――


「小僧!! まだ、儂の弟子になるって妄想でもみとるのか」


 俺の初撃は腕によって防がれる。


 ジュドムスは剣を払い上げ、俺の脇腹に手刀を振り下ろす。 俺は寸前の所でかわし転がるように相手との距離をとった。


「どうした小僧。 まさかこの老いぼれならば勝てると思ってきた訳でもあるまい」


「強えな、やっぱ……」


 ジュドムスが挑発的に手を招き、風が俺の背を後押しする。


「早くかかってこい小僧!」


「上等!!」


 俺は地を勢いよく蹴り、ジュドムスの射程の輪の中へ飛び入った。

  俺は真正面から向き合い、存在を強調させることで繰り出される拳の的を絞った。 狙い通りに来た右ストレートを避け、がら空きになった右腹を下から斬り上げた。

 ジュドムスは避けることなく膝をたたみ腕ごと剣を蹴り上げ、そのまま軸足を回転させ蹴りを放った。


 俺は避けることも防ぐことも叶わず蹴りをその身に受け、近くに生えていた木まで吹き飛び背中からぶち当たる。


「ぐはぁ!!」


 背中への衝撃は骨を通し身体中に痛みを走らせる。


「もういいだろう小僧。 お前では儂には勝てん」


 そう言いながらも闘気を絶やさずに俺をしっかりと見据え近づいてくる。

 

「……い、やだね」


 やっと思いで出した強がりと共に体の状態を確認する。


  手は動く、腕も振れる、足もまだ走れる、背中は……まだいける、呼吸を整えて・・・・行くぞ。


  今度は手数で攻める、そう腹に決め走るだす。


 しかし、重心を崩し頭から地面に倒れ込む。 そして何かに乗っ取られるように意識が飛んだ。


 相手の射抜く眼で見られながも僕は気づかないでいた。

 なぜならさっきの衝撃で頭は全く違う方向に傾き瞳は狂気に歪んで血走っていたからだ。


  楽しい。 ………………楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい・・・・・・スッゲー楽しい!!

 血がたぎる、心臓が今まで感じたことのないほど早く鼓動し、強者と闘うことで死というスリルと勝利への願望。 そして今まで何かに縛られて生きてきたような解放感による快感。

  それだけが今の自分を突き動かし、そしてそれをもっと貪るように強者(ジュドムス)のもとへ走り出す。

 まるでそれは鎖から解き放たれた獣のようだった。


  獣のように剣を振るってもジュドムスに傷一つ付かず、攻撃は最大の防御という言葉は実力の前には何の意味も無いことが、次の一撃ではっきりと気付かされたのだ。

  ジュドムスは無茶苦茶に振る斬撃からタイミングを計り素早くバックステップで距離を開け、突進してくる僕に渾身のカウンターを右頬に叩きこんだ。


 僕は後ろに数歩たたらを踏み、背から倒れた。

 そして僕は無意識に口が開いた。


「やっと出てこれたのに……」



 ・・・・・



  「気づいたか小僧。 その様子ではもう出来まい」


 気づいた俺は地面に転がっていて身体中が悲鳴をあげていた。


 俺はさっきと同じように身体の状態を探る。

  手は辛うじて握れる程度、足は完全にきていて走るどころか歩くこともままなりそうもない、何でこんなに息があがっている。 俺に何が起きた!?

 思考が定まらない……何も考えられない、だけどそんなことはどうでもいい今はただ!!


 木を掴み立ち上がり肩で息をしながらジュドムスに叫ぶ。


「俺が……この状態でお前に一太刀入れたら……俺を……俺を弟子にしろ――――――!!」


 ジュドムスは身体を怒りに震わせ、さっきまでとは比べものにならない程の殺気を放ちながら振り返った。


「付け上がるなよ小僧が――――!!」


 俺は震えて今にも崩れ落ちそうな足をしかっりと踏みしめ、力なく垂れ下がった手を構え、心の中で呟いた。


( クラフト発動 “ デッドライン ” !! )


 短剣から溢れ出す赤く淡い光は、剣に意思をもたせたように剣が動き俺は剣に操られたまま相棒を握り続けた。

 この世の(ことわり)に導かれるように短剣に引き摺られにてジュドムスに突進した。


 ジュドムスは戦場で培った勘なのか勢いよく真後ろに飛び構えた。


 赤い淡い光はジュドムスとの距離を詰めるたびに色を変え、眼前に広がる景色は赤黒い血一色だった。





 感触のない一閃が走り、

 俺の剣がジュドムスを通り過ぎたと同時にジュドムスが着地し、俺は地面に引き摺られ倒れ込む。


  見上げるとジュドムスの左肩が小さく斬り割かれ、そこから赤い血を流していた。


 俺は意識が遠退くなか俺は笑いながら、こういう時のセリフは決まっている……ざまあみろだ。 と唇だけを動かし、俺の意識は誘う黒い闇の中に溶けて消えた。



 ・・・・・



 儂は表情は変えずとも溜め息を吐かずにはいられなかった。


 無意識の状況判断でポケットからベルを取り出しそれを2回往復させた。


( さてこれからどうするこの小僧、約束した手前断れねえしな。

 しかしこの土壇場で儂が見たこともないクラフトを放ち、この儂に楯突く小僧。 ……面白いじゃねぇか )


 久々の全てを忘れ、ただの模擬戦じゃ味わえない命のやり取りを行った虎は息子をみるような目で痣だらけの体を擦る(さす)。


 そう考えを纏めている内にメイドが来たので小僧を運ばせ、明日から儂の所へ来るようにと言付ける。


 メイドが出払ったの見計らい、胸から取り出した酒を呑みながら笑う、


「小僧 合格だ。 明日からこの儂が今日のお礼を含めてとことん可愛がってやるぜ 」


 その言葉は朱く染まった庭園で気まぐれな風たちにしか聞こえていなかった。


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