番外編―1
久々の投稿です。 今回のは―6の裏話です。
事の発端は黒崎がメイドにお姫様抱っこをされながら部屋に戻る途中から始まるらしい。
黒崎は唐突に目を覚ますと辺りを見回し自分に何があったのかを近くにいた宮本に聞き、怒りに顔を歪め来た道を引き返そうとする。
「どこへ行くつもりだ」
怒りの全力疾走も宮本には敵わず捕まり、両脇に腕を通され拘束される。
「離してみやもん! 僕はどうしても僕を投げ飛ばした人に会わなくちゃいけないんだ」
腕の中で暴れる黒崎を宮本は弟を宥めるように優しく語った、
「黒崎、さっきのはこちらにも非が有る。 第一にあんなに綺麗に手入れされている花を千切ろうと…………なんだ、黒崎が悪いんじゃないか」
「えっ!?」
黒崎は怒りを忘れ顔を上げた、その驚愕と同時にあっけらかんとした表情は身体の力が抜けたように見えた。
宮本は黒崎の頭をポンポンと叩き撫でながら言った、
「私も腹の中で何も思ってない訳ではない……どうだ、模擬戦でもしないか? 最近刀を振っても調子が出ないんだ、付き合ってくれ」
さも素晴らしいことを思い付いた顔をして練習に誘う宮本に対して、いつも通りの顔になった黒崎は意地の悪い笑みを浮かべた
「何でこのタイミングなの? みやもん」
宮本は青空のように爽やかな表情で笑いどこかで聞いたことの有るセリフを口にした、
「昔から言うだろう汗を流せば嫌なことなんて忘れるって」
・・・・・
陽も落ち、風が騒ぎ出す夜月の下で二人が対峙し服を靡かせていた。
「黒崎の所の侍女は優秀だな」
一人は細く長い加工された木の棒を右手に構え臨戦態勢を整えていた。
もう一人は端を固く結んだロープを片手に相手の目を捉えるために見上げた。
「まあね~、でもあげないよ」
自分の侍女が褒められて機嫌が良くなったのか先程までの悪態顔は霧散していた。
「しかしすげいな、これも英雄補正という物なのかこの棒っ切れが普通の刀と同じ位の重量に成るとはな」
「うんホントホント、僕の何かほとんど変わらないよ。 あ、でも威力的には向こうが上だし耐久性も有るんだからやっぱあっちがいいなぁ」
そして朗らかな会話も終わり、お互いの眼に違う光がやどると風が止み闘いの火蓋が落とされた。
「構えろ、黒崎」
「お手柔らかにみやもん」
・・・・・
「え!? 終わりかそれで終わりなのか? 結果は? バトルの内容は? 」
俺はあの老人との会話というかお願いを交渉を行った帰りに廊下で、汗だくになった宮本と黒崎に発見され鼻歌混じりの超機嫌のいい黒崎に強引に集団浴場男湯に連行された。
「ふん、真の強者は軽々しく話さないものだ」
「意味は伝わりますよ~この弱者野郎が」
宮本は目を見開き立ち上がった。
「……これを見てみろ」
右腕を捲りまじまじと見せてきた、そこには赤黒く変色し今も何故動かせているのか不思議な腕がそこにあった。
「おいおい、お前これは随分痛そうじゃないか。さては言い訳のつもりか」
同情するが皮肉も忘れない、それが俺という人間だ。
宮本は失望したように溜め息を吐いた。
「何も分かってないな、よく見てみろこの右腕以外は両足の関節部分にしか当ててない他は掠りもしていない……それを笑いながら行うだ。 つくづく私は運がいいあんなのが敵ではないのだからな」
といい再び宮本は湯船に浸かった。体温が上がっているせいかよく見ると宮本には完全に治らず残っている切り傷や色の違う皮膚が多数存在している……気のせいだろうか。
……そういや、やけに遅いな黒崎の奴ここは大浴場なんだから後がつかえてるっていうのに宮本には黒崎の奴が遅いから見てくるわと伝え、脱衣場にのっそのっそと歩いていく。
すると、
「ごめんごめん、手間取ちゃったよ」
黒崎が来た。 しかしその姿を見た瞬間目が点になるのが分かった。
何故なら黒崎はタオルを腰にではなく胸の辺りに巻き付けていたからだ、まるで女のように……
「気色悪いわ、なに考えとんじゃーーーーー!!」
と俺は風呂桶を黒崎に投げつける。
ちなみにこの世界の風呂は金持ちの道楽として意味を持たないため数週間から一月に一度のペースでしかはいれないので、現代っ子の俺はこのタイミングで入れたのは行幸だ。
そろそろ降ろしたかと思い再び黒崎の方を見るも、直っておらず殴って無理矢理にでも直させようと近づく、そこで見たものは顔を真っ赤に染め、目を背ける姿広がっていた。
「ん……顔を赤くしてもうのぼせたのか」
と冗談混じりに頬を叩きながらもしもの事を想定してこの会話の路線を変更しようとする。 しかし無残にも俺の計画は失敗する。
黒崎ははにかみながら、
「ああ、ゴメンね男の人の裸って初めて見たから、ちょっとびっくりしちゃって…………凄いねその……筋肉」
「回避が間に合わなかった!!」
・・・・・・
黒崎が投入されてからのどんちゃん騒ぎは後続であるグリゾネやルールフなどの騎士団長が到着するまで続いた。
黒崎は先の首謀者としてルールフに捕まり全員の背を流すことを命令される。
み、見んなよ黒崎、男の裸を見たいならそっちのガチムチ(ルールフ)にしとけ良心的だから。
俺と宮本はひきつった笑いをしながら脱衣場を急いで出ると女子組、寝間着姿の早川と秋月を見つけた。
風呂あがりなのだろうかしっとりとした髪にもっちりとしていそうな肌に目がさ迷いそうになるが、健全的男子高生でもある俺は見逃さなかった。
秋月…………奴はデカい。 何だあの質量は、そして早川も2つの脂肪袋を掴み取ろうしない……何故なんだこれじゃあ二人のきゃっきゃうふふなシーンが観れないではないか!!!!
「中村……その卑猥な妄想を顔にだすな、みっともない」
なんだと、ふふふ……しかしこれは俺だけの欲望では全世界いや全宇宙の意思その物なのだ!!
「明日……どうする気だ中村」
突っ込めよ顔で分かるんじゃ無いのかよ、なんかすべった空気になっちまうだろが……
「それで、お前の方はどうだったんだ」
「なにがだよ」
「あの執事に話したんだろ、どうだったんだ」
その事か言わないといけないのかね。 ま、変に勘ぐられるのも嫌だし
「振られちまったよ……俺なんぞを師と仰ぐには小僧、お前には無理な話だとよ。 男なら力づくでやって見せろってさ」
宮本はこちらに振り返り男前な優しい笑みを浮かべた。
「それで、お前は行くのか」
行くのか? 愚問だな、そんなの決まっている。
「行くに決まっているだろ。 まだ完璧に振られたわけでもないしさ、俺は諦めの悪い奴なんだわ」
宮本は自分の部屋に足を進ませながら、俺の聞こえる程度の距離、声で言った。
「やはりお前は度し難く、みっともない男だ」