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九天の高みへ -世界を殺す毒- (旧)異世界で堕ちた英雄  作者: トリ丸
一章 異世界で堕ちた英雄編
6/39

―6

 

 俺の(ひつぎ)の中に入っていたのは剣なのだが大きい棺のくせに割に合わない位の短刀が入っていた。

 スペースの無駄遣いと言ってもいいぐらいだ、長さは30cm弱で刃が20ぐらい重さは視覚情報だけでも分かっていたが重くはない軽くもない。鉱物の塊なのに扱いやすいように重さを何者かが調整したかのようなちょうどいい重さだ。


 疑って生きてんなと感じても、俺がそう思ってしまう以上どうしようもないなと自己嫌悪状態からやっとこさ抜け出す。

棺の中に入っていた武器を鞘に収め、とりあえず腰に巻き付けておいた。 他の奴らの武器をちら見したがどれも予想の斜めをいく武器は無かった 。


 ――宮本が刀の英雄

 ――黒崎が鞭の英雄

 ――秋月が弓の英雄

 ――早川が槍の英雄


 俺は短刀だから短刀の英雄なんだろうけど、俺だけ2文字で一番弱そう……もう少し俺には違う武器が欲しかったと苦笑する。


「皆さん自分だけの相棒は手に入りましたか? ……では、説明しますよ。

今、皆さんが手に持つ武器はこの世界では神器と呼ばれ普通の武器とは異なります。 神器は壊れることがなく、そして埋め込まれた宝玉には何らかの力が秘められていると考えてられています」


 俺は手を挙げ声をかける。疑問は理解出来ないと気持ち悪くなるタイプだし、武器の件で少し質問があったのだ。


「おい、グリゾネ」


「先生が抜けてますよユースケくん、何か質問ですか」


「神器とかそういう物は何を根拠に言ってるんだ」


 質問に周りも同意の声が広がる。


「ふ~む……これは授業[3]の歴史の時間で説明しようと考えていたのですが……まぁ、いいでしょう知りたいという欲求は今後の授業にも影響しますから。 根拠、それはこの世界に来た異界の人間が皆さんだけではないからです」


「「な、なんだってーー!!」」


「だが、それは400年前の話だ。 驚くな」


 ルールフは先程と変わらずゴツそうな鎧兜を着たまま腕をくみ独り言のように喋る。


「だから私のセリフをキメ顔で言わないでくださいよー、ルールフさん」


 キメ顔? 兜で見えないのだが分かるのか……それにしても400年か随分と昔だな。


「先せーい! はい質問質問」


 そして黒崎はにこやかに勢いよく手を挙げる。


「はい、黒崎君」


「その人はどんな人何ですかー」


 初めて先生と呼ばれて嬉しいのか、先生の真似事が出来て嬉しいのか目尻に涙を浮かべながら質問に答えようとするが鐘の音が響き渡り4回鳴る時計の3度目、元の世界でいう午後3時を告げた。


「えっと……それも歴史の時間に…話ますね。

これで、授業[1]は終了します。明日は王国の闘技場で[2]と[5]を一緒にしちゃいますのでくれぐれも自分の相棒を忘れないようにしてくださいね。それでは」


 ルールフは我関せずというような感じでさっさと部屋から出ていった、それを追いかけながら先程の発言をたしなめるグリゾネの姿を見て俺たち生徒はとても暖かな目で見送るのだった。



・・・・・



 俺授業を真面目に聞いていた反動で眠くなったので部屋に帰ろうとティナに頼もうとしたら、宮本と黒崎に呼び止められた。 なんだコイツら俺の安眠を邪魔する者は何人たりとも許されない。


「どうしたんだ」


「いや~宮本君がお城を探検したいって言うからさ中村君もどうかなって?」


 野郎だけでかよと苦笑しながら、この城のことは気になっていたので二つ返事で返した。


 ティナには自分で帰るといって宮本たちと城の探検に出掛けた。

黒崎とは朝話したが宮本とは話らしい話をしたのはこれが初めてだったが真面目で固そうな感じではあるが意外と普通だった。


 だが時間がたつごとに宮本の口数は減っていき、いまはもう返事すら返ってこない。


「おい、お前から誘ってきたくせ黙るんじゃねぇよ」


 そう言ったところでようやく宮本は自分が黙っていることに気がついたのかこちらに振り返り頭を下げた、


「すまない。少し考え事をしていた」


「そんなことでいちいち頭を下げんなよで、何考えてたんだ?」


「僕も気になるな~」


 黒崎はゴシップを追い求める記者のようにニヤニヤとすりよってくる気持ち悪い。


「私たちが元いた世界は今どうなっているんだろうかと考えていた」


「それ、僕も気になったからナシュアちゃんに聞いてみたんだけど、某ネット小説よろしくのこと僕たちは世界の辻褄合わせとして居ないことになってるみたいだよ。 帰れたらまた辻褄合わせは起きるから大丈夫なんだって」


 聞き慣れない名前が出てきた誰のことか知りたいがさっきから黒崎のテンションがやはりキモい。


「ナシュアってだれだ黒崎」


「あれ、聞いてなかったの? この世界に来た時にいたお姫様の名前だよ」


 へ~そんな名前だったのか初耳なんだけど。 まぁ俺のなかでは完全にモブだけどなあのお姫様 (もうお姫様と仲良くなってんじゃねぇよ)


「そうなのか!! ならやはり違うのか」


 宮本は憑き物がやっと落ちたような顔になり目に光を宿していた。


「何が違うの~ みやもん」


「最近ニュースになっているが、どこかの研究所職員が失踪したのは知っていると思うが、このことまだ報道されてはいないのだが、続けて中学生男女合わせて四人も謎の失踪を遂げている。 ……というか、みやもん? なんだそのおぞましい名前は愛称なのかも疑わしいな」


「ふふ、いい名じゃないかみやもん(笑)」


「やっぱりそう思うよね!! なかちんも」


「なかちん?!! それは俺のことなのか……」


「そうだよ、僕は気に入った人にはよくつけるんだ~」


 くそ、宮本(みやもん)のせいで俺も巻き添えをくっちまったじゃねぇか。しかも宮本の奴なんだあの同情の顔はやめろ、お前のほうがよっぽど酷いわ。

 後、失踪の話は俺たちが話し合ったところで前進しようがないから当然無視だ。


 その後しばらく通路を迷い続けると城の裏庭に出た。


「へ~ 、こんな所もあるんだ~ ここは庭園かな」


 辺り一面に咲き誇る黄と赤の花々にその周りを飛ぶ花と同じ色をした蝶達にほんの少し間目を奪われる。


 この世界の花なんだろうか? もともと花には詳しくはないのだが、これは○○の花ですと言われたら納得してしまいそうな言ってみれば見るからに普通の花だった。


「一輪もらってもいいのかな?」


 そんなことを黒崎は聞いてくるがもちろん俺と宮本は返答はしない。 黒崎に遊ばれるのは目に見えているからだ。

 ちなみに俺たちがこうして黒崎と歩いているのは、早く部屋に戻りたいが道がわからないので逃げれないだけなのだ。


 俺たちの気持ちに1ミリも気づかず笑いながら花を千切ろうとしたとき、黒崎は急に空へ跳ね飛ぶ。 ……いや、投げ飛ばされていた。


「小僧達……ここで何をしていた? ここは王族以外は立ち入ることを許されていないはずなのだが」


 俺を含め全員が奴の体からでる殺気を皮膚を通してと感じていた。

 宮本は初めて感じる、元のいた世界には感じることのない恐怖に顔を歪ませていた。

 無論俺もそうだ。足は勝手に震え、歯がガチガチと音をたてる、そして自分の心臓が自分の存在を強調するように鼓動を上げる。


 俺は無限のような一瞬を経て、震える口を無理やり動かした、


「ま……迷っ、たんだ。 城を歩いていたら。 そしたらここに出た」


 俺の成り立っているかも分からない言葉を聞くと、アイツからでる殺気が徐々になくなっていき、俺たちはやっと動けるようになった。


「そうか、ならばすぐにメイドを連れてきてやろう」


 そう言うと、胸の内ポケットから小さなベルを取りだし鳴らす、

すると眼鏡をかけた緑髪を束ねたメイド、たしか黒崎の所のメイドが現れた。


「どうかなさいましたか ジュドムスさん」


 ジュドムスと呼ばれたことで、俺はようやくその男の姿を確認することができた。

 白髪と白髭(しろひげ)が似合う印象だがその髪は元来の髪色ではなく数本混じる赤の髪で分かった。


「この小僧共は邪魔だ。部屋まで連れってやれ」


「わかりました」


 俺はなぜかこの(ひと)に惹かれていた。畏怖や敬意そんな言葉だけでは少し足りないようなそれでいて自分の気持ちを表す言葉が出ないのにイライラするが、これは憧れに最も近いのだろう。


「俺はちょっとジュドムスさんと話したいことがあるから、部屋までの道を教えてくれ」


 彼女は黒崎以外は興味無しといったようでそうですかと頷き、機械のように抑揚もない説明し終えると。 黒崎と宮本と一緒に城へ戻っていった。


「で、なんだ小僧の話したいことって」


 ジュドムスはどこから取り出したのか如雨露で花に丹念に水をあげながら尋ねた。


「俺が別の世界から来た英雄の1人だってことは知ってますよね」


「……執事だからな」


 俺は言うのを少し躊躇する。朝自分でこの事を話すと自分の立場が危うくなることは確認した上でのこの行動なのだから笑えてくる。

 だが、俺はこの人とアイツになら言ってもいいとそう思った。


「俺は…………記憶喪失なんです」



・・・・・



 この世界にきて何だか普通に話せた気がする。 他人と話す時は何故かぶっきらぼうになり、人との壁を作ってしまう節があるな。


 部屋のドア開けて中に入り、明かりをつけると部屋の中央で人が立っていた


「ティナか、どうかしたのか」


「私は今のところ貴方に仕える様に命じられているので、貴方に行方知らずになられると大変私が困るので余り心配させないで下さい」


 俺の事を本当に心配し、怒ってくれているティナの姿を見て胸が締め付けられる。


「心配してくれたのか……すまないな」


「いえ、別に特に貴方の事など考えて探してなどしておりません。 余り思い上がらない下さい」


 顔を背けずじっと見つめているティナが月の光とも相まって綺麗だった。

 こういう奴を世間ではツンデレとでも言うのだろうか。 俺はそんなことを考えながらさっきのジュドムスとの会話を思い返していた。


「それにしても、何でこの世界の執事ってあんなに態度がデカイんだ? それともジュドムスだけなのか」


 その発言に対してティナは恐る恐る俺に尋ねた、


「ジュドムスさんとお話しをしていたんですか」


「あぁ、相談に乗ってもらった」


 ジュドムスという名を聞いてティナが珍しくおろおろし始めたのが可愛くて何もせずに見守ってあげた。

 数分後ようやく落ち着きを取り戻したティナは赤面しながら椅子に座った。


「執事というのは、王族の身を守るために組織された第0王国騎士団の別称です。

彼らは王族の身を守るために執事という形で王族の身辺警護をしています。 そのため第0小隊は人族の最強集団とのことです」


 俺は黙ってティナの続きを待った、


「なぜなら彼らは元騎士団総隊長もしくはSS級ギルド冒険者でしかなれないからだと聞いています」


 そうなのだ、俺もジュドムスから軽く話は聞いていたのだが、彼らは貴族だとかそういうものに縛られない普通の人とは格が違う存在らしいので貴族の奴らから良く疎まれているとかなんとか。


 完全に落ち着きを取り戻したティナは淡々と執事のことを話していった。



・・・・・



 ようやくティナの話しが終わり、俺は寝るためにベットに潜る、


「それでは、明日も今日と同じぐらいのお時間に起こしにきますので」


 そこで俺はティナを呼び止めた。


「おい、もし俺が記憶喪失だって言ったら信じるか?」


 そこでティナは首を傾げて、可愛い笑顔を向けた。


「そうですね…………今の(・・)私なら信じますかね。 貴方の言葉が嘘であれ本当であれ」


「そうか……お休みティナ ありがとう」


 出来るだけの優しさを込めて彼女にそう告げた。


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