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改稿中('◇')ゞ
僕は逃げてきた。
勉強もスポーツも人間関係も学校も人生も全てのことを諦め、逃げだした。
自分の弱さを肯定出来ず、他人のせいにして殻の内へと閉じ籠っていった。
幼い頃から人々を苦しめる悪者達を倒す、特別な力を持つヒーローに憧れた。それは大きくなった今も変わらない。
出来のいい兄と比較され続けたことによって内気なで人付き合いが苦手な僕を気にかけてくれる人、ましてや僕を助けてくれる人なんて家族にも学校にもいるはずもなく。
親との関係はすっかり冷め込んでしまい、このまま高校を卒業するにしてもしないにしてもある程度の年齢になれば家から放り出されることになるだろう。
逃げたかった。こんな世界から。
パソコンから空想の世界を見続けても、背後にある避けようのない現実がすぐそこまで迫って来ていることに、僕は耳と目を閉じることしかできなかった。
大企業の社長である父も、その後を継ぐ兄さんも、母さんも、スポーツ特待生になった妹も全て僕に対する当て付けだ、嫌がらせだ。
僕だけが凡人であり、この家の汚点。……誰がそんなことを望んだ? こんなのは僕じゃない!!
口では何とでも言えても、努力を止めた僕に結果が伴うはずもなく、傾斜を転げ落ちるように落ちぶれていった。
堪えきれなかった。
誰もいない部屋で制服を着替え、誰もいない家に「行ってきます」と言って玄関まで行くのは朝の日課なのが。
そこからどうすることもできず、自分の部屋へかけ上がり、扉の鍵を閉め、ベットに入った途端震えだす汗ばんだ体を抱きしめるだけの自分が。
逃げた後悔と情けなさに苛まれながら、現実を否定するかのように深い眠りにつければ何も考えずに済むだけの日々が。
堪えられるわけがなかった。
目覚めたのは昼過ぎ、用意されているはずもない昼飯を求め、財布を片手に家を出る。
特に用も無く、宛もなく、雨の降る中、ふらふらとさ迷い歩き続けて行く。
するといつの間にか、どこかの神社の石階段の前まで来ていた。
(こんな道初めて通ったけど、こんなところに神社なんてあったのか)
僕は何かに導かれるように神社の石段を上り、神社を徘徊していると木の影に狐が震えて倒れているのを見つけた。
「おい! お前大丈夫か」
真っ白になった頭をほったらかし、倒れた狐駆け寄る。
黄金色だっただろう毛が泥と雨でべったりと濡れ、力なく震える狐は薄目を開くと寒いのか、それとも逃げる体力すら無いのか、ただ僕にもたれてきた。
僕は上着のジャージを即座に脱ぐと、冷めきっている狐をくるみ、ハンカチで狐の体から滴る水分を拭き取りながら神社の社の階段に腰掛け、体温向上に付き合った。
・ ・ ・ ・ ・
考えごとしている間に寝むっていたようで、目を覚ますと狐が僕の脚の上に座りお礼をするかのようにに俺の顔を舐めていた。どうやらこれに起こされたらしい。
「ちょっとやめろって、くすぐったいって」
元気を取り戻した狐が嬉しそうに跳ねながら、鳴くのを見ていると本当に良かったと自分のことを
不思議そうな顔で僕の反応を待つ狐に破顔しながら、抱きしめ境内を回っていく。
首を傾げながら狐が、もう帰っちゃうの? みたいな顔で覗き見てくる。
「はは、辛くなったらまた来るよ。お前には感謝してるし賽銭でもしてから帰ろうかな……」
僕は新しく出来た癒しスポットに別れをつげ石段を下り始める。
「旅にでも行こうかな」
幸いにも、親からはなるべく自分たちに接触されないように多めの食費を渡されている、これだけあれば大抵ことはできるはずだ。
男は度胸が肝心だ、大丈夫。何もない今なら気楽に前へ進めるさ。
この狐のお陰で何か吹っ切れた気がする。今までの陰鬱とした感情から決別出来た感じだ。
石段を降りて深呼吸をしようとする。 しかし僕の左側からいきなりトラックが飛び出してきた。
「……旅って、……そっちの旅じゃ……ねぇよ」
それは初めて口に出したツッコミ……それが僕 中村 悠祐のこの世の最後の言葉だった。
・ ・ ・ ・ ・
目が覚めると真っ白いただ白いだけの部屋? 空間? のような場所に突っ立っていた。
「えっと、僕はたしか神社にいたはず…………だめだ、その後が思い出せない」
「お目覚めですかなお客人」
突然響いてきた老人の声で、何もない部屋が急に色ずき始め、幻想的な空間の部屋に一変するると、一人の老人がまるで最初からそこに座っていたかの様に椅子に座ってこちらを見ていた。
「ここは一体どこなんだ」
「ここは人ならざるものが来る部屋、対価を支払って頂きその方が望む物を提供する我が屋敷にございます」
屋敷? 説明になってないぞ僕はここが日本のどこに在るのかを聞くこと…………!?
「おい、人ならざるものってなんだ!! まるで僕は人じゃ無いような言い方じゃないか」
「はい、残念ながらお客人は交通事故で亡くなり幽霊という存在としてこの屋敷に招かれました」
急いで手を確認すると向こう側が透けて見え、その言葉が真実だと認識せざるを得なかった。
「神社に賽銭までいれたのに不幸すぎるだろ。 願うならこちらでことかよ」
落ち込んだ俺の意識を自分向けるように机を2、3回指先で叩いた
「お言葉ですがお客人ここはたとえ幽霊であろうが人が立ち入れる場所ではございませんよ。 あなたは我が屋敷のお客人でもあるキツネ様のご紹介もあって特別に招きいれたのです」
「あの狐がここの客人だって?」
「はい」
そうかありがとう狐!! こんなに早く恩を返してくれるなんて。
老人は満足そうに話を続けた
「それでは本題に入りましょうか この屋敷は願いを持つものだけが入ることを許される場所。 お客人の願いは何でしょう?」
願いという単語に僕は目を輝かせた。
もう僕はすでに死んでいるのだから、あの場所へは戻らなくてもいいんだ。 僕は自由なんだ!!
だから僕は部屋に塞ぎ混んでいた時から思い続けてきた願いを老人にぶつけることにした
「僕を別の世界へ連れて行けるか?」
やっぱ憧れるよね異世界。何でも願いが叶うっていったら僕はコレしかない。コレを選らばずとして僕は俺といえないだろう。
老人はさほど困った様子もなく営業スマイルで俺に聞き返した
「どういう世界をお望みで?」
その一言で僕のテンションはMAXまで跳ね上がった。マジかよ行けるとこ選べれるのかよ!!
「剣や魔法のある世界へは行けるか?」
と言った時、老人は初めて俺の顔を覗きこみ困った顔をして首を横に振った
「お客人の対価を設定してくだされ」
「対価ってなんだ?」
さっきも言われたが生きていた頃にはあまり聞き慣れない言葉だった。
「はい、先ほど申しあげましたが、この屋敷はお客人達の願いをお客人達が持つ何かを引き換えに叶える場所でございます」
僕の持っている物を引き換えに願いを叶えるってことか……等価交換ってやつだな。
「記憶……僕の思い出を対価に設定する」
僕は自分を形成してきた今までのものを最低の形で切り落とした。
「分かりました……少しお待ちくだされ」
老人がパチンと指を鳴らした。 すると天井から一冊の青い本が降りてきて老人の手に収まった。
何でもありだなこの屋敷は、ある程度割りきったらさほど驚かなくなった。
部屋をじっくりと見て回る間に老人の手があるページで止まり、ゆっくりとした動作で手招いた。
「もう見つかったのか?」
老人は君の悪い笑みを浮かべ、本の内容を説明し始めた
「はい、お客人の対価に釣り合う場所がみつかりました。お客人が行ける世界は神が実在している世界です。そこでは全ての者はその神を信仰し統治されています」
それがどうした? 別に変じゃないだろう。 そういう小説は沢山ある。
「それは良いことなんじゃないのか?」
老人は少し考えこみ何か閃いたような顔をして説明を再開した
「ふむ……まぁ言っても良いでしょう。 この世界は亜人族と人族は手を組み魔族と戦っております。 しかし、神は何も干渉せずに傍観をして戦争を長引かせております。 この世界は神に見捨てられ崩壊寸前なのです」
あまりにも老人が淡々と説明するけれど今から僕が行く世界は崩壊寸前らしい…………なんと僕は世界を救いどこかの国のお姫様とのHAPPLYEND。 らぶらぶチュッチュな展開が用意されていることだけは理解できた。
「それは僕に神を倒して、 その世界を救えばいいんだな」
「いいえ、それはお客人自由です。 私はお客人と話している間に人間の意思や感情そして選択。 とても興味が沸いてきましたよ」
「へ?」
何を言い出すのだろうかこの老人は人間にキョウミを持った? ま、まさか!! 僕の貞操の危機なのでは?
「この館に来た初めての人間のお客人だ。お客人の足りない対価は私のゲームに付き合ってもらうことで釣り合わせますがどうされます?」
ゲーム? 何させるのか知らないけど、僕は早く異世界行ければそれでOKなんだけどな……
「ゲームの内容は私が対価としてお客人の記憶を受け取り、お客人をあちらへ送ります。 そして舞台が面白くなるようにするだけです。 簡単でしょう」
なんでもいいから早く僕を異世界に連れていけ! と考えをながら返事をした
「……分かった」
老人は満足そうに頷いて本を天井へ投げ飛ばした、本は青い光を放ちながら空中で溶けて消えた。
「入口はあちらです、お客人の選択を楽しみにしております」
「あぁ、世話になった。 狐にも礼を言っといてくれ」
俺は老人に手を振りながら、いきなり現れた扉に近づいていく。
やっとだ、やっと僕が自由になれる世界に行ける。 何にも縛られず、何の柵もない。気のいい仲間をもって旅をする僕の人生はこれからやっと始まるんだ。
……今までの自分はここで棄てる。 俺は今までの人生を向こうの世界で取り戻す。
「よし待ってろよ新世界!! 俺が救ってやるから待ってろ」
俺の言葉に開かれ目映い光を放つ扉に向かって身を投じた。