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目を通して感じてた風景は全て灰と黒の色だけだが、蠢く何かがいることは如実に感じとれた。そこらかしこに知能のない生命体が犇めき合い捕食しあう姿が眼前に広がる。
いつ終わるのかも分かりはしない捕食の連鎖の末に訪れる敵のいない世界だけが平和な世だと、奴らはそれを本能的に理解し喰いあう。
今の自分の思考と重なる物が多いなと俺は自虐的な笑みを浮かべた。
しかしそんな中で唯一、はっきりと色鮮やかに映るものがあった。
それは胸の心臓の辺りに着いた痣だ。俺はそれを剥がすように引っ掻き、取れないことを確認するとマントを身に纏って隠した。
異世界に召喚された俺の生活はふとしたきっかけで壊れてしまい、行き着いた先は反逆者としての汚名を着せられたまま、このモンスターが潰し合う谷底へ突き落とされるという処刑だった。
俺の確定していた死はある女によって矛先を変え、僅かな可能性秘めた賭博となり俺はそれに勝ち、生き残った。
でも、今の俺はアイツらから視ればどれほど情けなくに写るのか、奴らからにはどんなに滑稽に見えるのだろうか。
言っちゃ悪いが俺は人生、最初から運が悪かった。そういう天命の下に生かされたのだと思えば気が楽だが、生憎そこまで人間出来ちゃいない。
「はやく地上のお天道様を拝みたいもんだ」
俺は溜め息と共に戻ってきた記憶を自分を心の奥底に沈める。
代わりに浮かんでくるのは今まで檻の中に閉じ込められていた少年のようにくったくなく、気持ち良さそうに笑う、どす黒いただの獣。
アイツは俺の望むものを体現するための存在。
瞼が抗えないほどに重量を増し意識が遠退く。次々に遮断されていく思考が閉じる前に俺は久々に夢を見ることを望んだ。
「俺の今までの思いを忘れぬよう、俺がこれからを歩むために」
魔獣どもの慟哭はうるさいくらいに響くも目を閉じた。