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第2話 確認

ようやく俺は落ち着き、この家主は西園寺という苗字を持った五人家族という事を知り、俺達は西園寺家のリビングに集まり、俺をちらちら見て何だか落ち着かない様子だ。

「それでは、家族会議を始める」

西園寺の大黒柱である父親が早速今回の事件に関する事を報告し始める。


「さっき見たように、美仁香の様子がかなりおかしい。病気ではないと信じたい。今後、美仁香とは今までと同じように接するように」

それだけを伝え、後は無言。それだけかよっ!

「え、えーとぉ。美仁香?母さん覚えてる?」

母親らしき人物は西園寺家の専業主婦だそうで、そんな母親は目頭に涙を浮かべさせていた。

「・・・すんません。実の子から知らないなんて言われたらシャレにならないんすけど・・・やっぱ分かんないです。みんなを知らないんです」


誰の陰謀なのか知らないが、突然訳の分からない部屋で寝てて、そこに知らない夫婦がいて、バカでかいキッチンに驚愕して、八極拳で男性をぶっ飛ばしたらこんな訳の分からない状況にいるのだ。こんな状況でも打破できる人物が居るのならば今すぐ俺を助けて欲しい。

「き、記憶喪失とか?そういうの?!」

「記憶喪失!!?あの記憶が無くなっちゃうやつ?!いやだよ!そんなの!」


もう二人の人物は西園寺家の兄妹。兄は最近小学校を卒業して数日したら中学校に通うみたいで妹の方は小学五年生になるそうだ。そんな二人は必死に義務教育を頑張っているそうだ。

「それもあるな・・・お前、美仁香って知っているか?」

「・・・話の流れから察するに、その美仁香は僕でしょ?違いますか?」

「違わない。お前が美仁香だ。俺と母さんの子供で末っ子の西園寺美仁香だ」

俺は西園寺美仁香・・・って末っ子!?ちょ、ちょっと待て。西園寺家の妹よりも年下というのか?ということは・・・俺は何歳だ?

「はぁ、どうしましょう?あなた・・・美仁香ちゃん、明日から小学生よ・・・」

「はぁ!!!?」


母親から驚愕の言葉を受けた。小学生だと?あまりにも悲惨な言葉であったのだ。ん?だとすると妙にバカでかいキッチンとかバカでかい人間の状況の原因は俺自身の背が低かったが為に起こった現象だったのか?それなら納得がつく。いやいや、そんな場合ではない。

「学校にはどうしましょう?話す?それとも・・・」

「うーん、一応話しておこう。今日学校に電話して話す機会を設けていただこうか」

「そうね。今、電話するわ」

母親は奥の部屋へと消え、リビングはしん、と静まり返った。

「美仁香。つらいとは思うが、頑張ってくれ頼む」

父親はそれだけを伝え席を外し、奥の部屋へと消えた。


「・・・」

兄妹と俺のみが残り、無言。とにかく無言。何を話していいか分からない。でも、名前だけは知りたい。

「あ、あの、自己紹介をお願いしたいんだけどさ・・・あ、僕さ美仁香でいいよ。本名言ったら、ややこしいでしょ?」

「「!!?」」

二人の顔は驚愕の表情。にしても、かなり驚いてはいないか?まるで鳩が豆鉄砲をくらったような・・・

「・・・俺は西園寺さいおんじとおるだけど・・・美仁香、お前さ・・・いや、後は頼むな」

「う、うん。私は西園寺さいおんじ麗香れいか。美仁香、あのね・・・あなたは女の子よ?だから・・・ね?」

二人の名前は分かった。が、とんでもない事を聞いてしまった気がする。

俺が女?うそだろ?まぁ、名前的にうすうす女っぽいなぁなんて思いがあったのだが何でまた・・・

ぷつんという音と共にある事を思い出したのだ。

車にぶつかりそうになった少年を俺が助けに行った事を。


『救急車呼ぶから!』

友人の声までも聞こえてきた。そして、とある映像が頭によぎった。

その映像は俺の身体が車にぶつかった事によるダメージを物語っていた。

俺の身体はかつての俺の姿では無かった。ずたぼろのズタズタだ。まるで恐ろしいホラー映画にて一番どえらい場面に起こってしまった人物のように。

「う!」

「「ど、どうした!?」」

映像は変わり、誰かの葬式。そこには俺の本当の両親とクラスメイトが見えた。後、ひったくり犯の加害者にあった女性も俺の事を気の弱い少年と言った警官もいた。そして助けた少年もだ。何故?誰の葬式なんだ?

分かって無かった。いいや、分かりたくなかった。その葬式が自分自身の葬式であったことを。


『ぅぅ!うわあぁああぁあん!!』

『く、くそったれがっ!!てめぇが死んでしまったらっ!!意味ねぇだろっ!!ううっ!』

母親と父親の泣いた姿は初めて見たような気がする。あ、ああ、やっぱり、俺って・・・死んだのか?でも、今の俺ってさ・・・一体なんだ?

「ぅぅ・・・ひっく、ひっく、ぅぇぇっ」

「!!?ど、どうした!?何で泣いてる!?」

「お、お父さん!美仁香がっ!」


麗香はドタバタと父親を探しに、透は俺の背をさすって慰めていた。が、そんな事はどうでもいい。

俺は一体誰だ?西園寺美仁香という人物でも、ましてや俺自身でも無いような気がする。だって死んでしまったから。

「み、美仁香!ど、どした!」

だとしたら・・・これは生まれ変わり?前世の記憶を持っていて?そんなのはファンタジーすぎる。ありえない。でも、実際にあった。今、体験している。

「あなたー、明日は校長先生に、って美仁香!?泣かしたの!?」

「ち、違うよ!!何か急に!」

でも、泣くことしか出来なかった。死んだという事な変わりは無いのだから。

「ひっく、ひっく、ぅぅっ!」

「だ、大丈夫だから!心配しないで!」


心配はするかもしれない。でも、今は泣かせて欲しい。今まで育ててくれた感謝と死んでごめんという反省を。一時間だけでいいから。いや、それだけで足りるか分からないけど、今だけでいいから。

「美仁香ちゃん!」「心配するな!」「私達がついている!」「大丈夫だから!」

ただ泣くことしか出来ない俺。俺をあやしてくれる西園寺家の家族一員。俺が落ち着いたのはしばらく時間が過ぎた頃だったーー。


ーーーーー

「え、えと、ごめんなさい。この先の事を心配して泣いてしまいました」

うそをついてしまうしかない俺。それはそうだろう、前世の記憶を持ってその事を思い出して泣いていたんですー。だなんて言える筈も無い。ただの電波のやつだとしか思われないからな。

「あ、ああ。そうか。あ、明日入学式が終わったら俺と母さん。そして美仁香とで校長先生に話すからな」

「分かりました。で、僕はこんな風でいいですか?何か、小学一年とは思えない程しっかりしていて・・・」

「そこなんだよなー・・・そういうフリしててもバレはしないかもしれないけど・・・できる?」

「無理っす。精神的に疲れます」

「だよなー、という事での校長先生との話だな。あ、それまでは自由にいいけどね」

なんと父親の許しを得る事が出来たのだが、校長の許しが出なかったら一体どうしたらいいんだろう?まぁ、その話は明日で決まるがな。

「よし、じゃ飯食って、仕事行ってくるか!」

「あ、私も行かなきゃ、友達と遊ぶ約束したし」

「はぁ、この事友達に言ったら絶対に信じないだろうなぁ・・・俺も友達と遊びに行くわ」


二人の兄妹と父親はそそくさと飯を喰らい、父親は鞄を持って自分の仕事場へとそして兄妹はそれぞれ約束の場へと走り去ってしまった。

「美仁香ちゃん?え、えーと、美仁香ちゃんでいいよね?」

「あ、はい。あと、あの兄妹?にも美仁香と呼んでもいいと言ったので。父親っぽい人は・・・まぁ大丈夫でしょう」

母親と二人っきりになり、俺に対して興味が湧いているようで、俺への不信感はさっぱりと消え去ってしまったようだ。うーむ、女ってやつは切り替え早いなぁ~。

「それにしても、本当に賢そうに見えるわ~。流石、私の子ね!」

「はははっ!親バカすね」

「な、何を~?ぷっ!あはははっ!小さい子に親バカって言われるのって新鮮だわ~」


何故か俺と母親との距離が短く感じる。やはり、女はいいねぇ~。すぐに仲良くなれる。

「あ、それはそうと、僕は今日一日暇ですか?明日から小学生だという事は聞いたのですが・・・」

「そうよ?あ!!今更だけど、僕っ子て初めて見た~。かわいい~キャー!」

母親はうっとりした表情で俺を見るのだが、そんなことはどうでもいい。まだ俺には確認したい事があるのだ。

「あの、散歩したいんです。この辺の地理を確認しておきたいんで、良かったら案内してくれませんか?」

「うん、いいわよ~。あ、また今更だけど敬語で話す娘もいいわね~キャー!」


母親は頬に朱を浮かばせ自らの肩を抱き寄せクネクネと動き出し、本当に楽しそうなんだなという気持ちが精一杯伝わっている。

「あ、着替えなきゃね!美仁香ちゃん、パジャマのままだからね」

「言っておきますが、スカートはダメっす」

「ちぇー、あっ!うふふ~」


母親の顔に邪を感じさせる笑顔に俺は嫌な予感がよぎった為、念の為にもう一度釘をさす事にした。

「それからワンピースだとかヒラヒラしたモノも」

「・・・うわーん!美仁香ちゃんが不良になったー!」

母親は泣いたフリをしてその場を走り去って俺はただただそんな母親の背を暖かい目で見守ってやることにしたのであったーー。




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