第10話 可愛くてやっぱり賢い美仁香ちゃん
時は流れある日の休日。
俺はリビングにある机を利用して学校から出た宿題を済ませていたのだが・・・
「わぁ~、えらいね。宿題してる~」
麗香がまた女友達を遊びに我が家に二人連れ出していた。
そんな麗香の女友達二人組はリビングにて勉強している俺の姿を見てやたらとちょっかいを出すのだ。
「分かんない所があったら、私達に任せておいてね!」
「そうそう!遠慮しないで!」
二人はニコニコした笑顔を浮かべ俺の隣に座り、時折俺の頭を撫で回したりしていたのを若干恥ずかしく俺は頬に朱を浮かべていた。
「きゃあ!かわいいー!赤くなってるー!」
「よしよしっ、もっと撫でてあげるから!」
二人は俺の頭をぐしゃぐしゃと撫で回し、麗香はそんな二人の暴走を止め俺と二人との距離をとらせる。
「ダメだよ。美仁香は今勉強中なんだから」
麗香は二人を追いやって、こっそりと俺の耳元に口を近づけてくるので、何かを伝えるだろうと勉強しつつも麗香の話を聞く事に。
「(分かっていると思うけど、普通にね)」
「(わ、分かった)」
俺は麗香が言いたい事が分かっていた。それは小学生のフリしてろという事を。
「あー!何話してるのー?私も聞かせてよ麗香」
「私も聞かせてよっ。麗香っ♪」
俺と麗香がコソコソと話しているのを目撃して何やら俺達の会話の内容を聞きたがっているが、麗香はただアタフタしてどういう風にごまかそうかと慌てているので俺は代表してでっちあげをする事にした。
「あのね、僕がこの宿題が分かんない所があったら二人に遠慮しないで言ってもいいんだよって、言ってたんだっ。ね?麗香」
「へ?そ、そうなのよ。だから遠慮しないでね、みたいな事を言ってたのよ」
俺との話を合わせてくる麗香。が、俺が「僕」と言ってしまった事が原因なのか、二人の表情は徐々に顔を火照らせながらもニヤニヤとした笑顔を浮かべて、俺を辱めに逢わせるような態度になり
「キャー!さっき、僕って言ったね!私、初めて僕っ子見たー♪キャー!」
「か、かわいいっ。この世のモノなんですかぁ?これぇ~」
ますます俺への興味が湧いたらしく、俺の頭をわしゃわしゃと撫で回した。それにより、また俺は恥ずかしくなり、頬に朱を浮かばせると。
「わぁ♪かわい~!また赤くなってる~」
「おいでおいで~♪抱きしめてあげる~」
俺を抱いたり、頭を撫でたりと好き放題にしてくれる・・・はぁ、もう好きにしろよ。
ーーーーーーーー
しばらく時間が経ち、麗香の友達は帰るそうで俺と麗香はその見送りをしてあげると、友達は俺と別れがたいのか少し目に涙を浮かばせていたのだが・・・なんなんだよ、こいつらは・・・
「じゃあね、また遊びに行くからいい子にしててね」
「麗香ちゃん。この子さ、私の妹にしたいんだけど・・・ダメ?」
「ダメです」
友達二人組は俺の頭を撫で、やがて玄関から姿を消す・・・はぁ、ようやく帰ってくれたな。
「・・・ふぅ、こんなんで良かった?麗香」
「う、うん。にしても、普通にしててもああなっちゃったし・・・素の美仁香を見せたら・・・考えたら頭痛くなったよ」
麗香は今後どうしていくか考える為と言って、三階フロアの自分の部屋へと消えていった。
麗香が自分の部屋へと消えて間のない頃、玄関の扉が開き、西園寺家の長男である西園寺透が野球のユニフォーム姿にて出現。
「あ、おかえり?」
「何故疑問系なのか知らんけど・・・ただいま」
俺にとっては麗香や透はまだ兄妹関係というか家族関係というのがまだ実感出来ていない為、慣れない。うーむ、いつ慣れるのか謎だ。
「あ、そうだ。美仁香さ、中学生レベルの知識があるって言ってたよな?」
「う、うん。中学二年までの勉強がある程度知ってるけど・・・それが何か?」
透は俺が小学生になって数日経ってから中学生となり入学式も終わらせ、部活動もやり始めたそうで、その部は野球部というなんとも男らしい少年だ。
そんな透は頭をポリポリと掻きながら『あぁ、ええとな』と何かを言いたいけど言えない心中のようだったので、俺から話を振る事にした。
「何?何か困ってたら何でも言ってよ。僕が助けるからさ」
「あ、ああ。うん、とりあえずさ、リビングに行こう。玄関でずっと立ち話するのは疲れるからな」
西園寺家の長男である透とリビングへとペタペタとした足音で歩く俺。端から見たら微笑ましい光景だろうが、俺の心中は俺でも分からないくらいに混乱している。
まだ中学生になったばかりの透の身長よりも俺の身長が低すぎる為、透の顔を見るのに見上げなければならない。この美人になり得る可能性を持つ幼女から上目遣いでもされて見ろ、ロリコンのオッサン共は発狂しかねないからな。
そんな考えをしている俺を放っておいた透は自分の部屋へと行く為に三階フロアへと姿を消し、しばらくすると私服姿へと着替えて登場。透の手には何やら教科書やノートを持っていた。宿題をするつもりなんだろうか?
「よっと」
透はリビングへと到着し、透は鞄を長机の上に置き、座布団が敷いてあった場所で座り、ほっと一息。俺もそれに乗じて座布団が敷いてあった場所へと小さな尻を乗っける。
「あのさ、数学の事なんだけどさ。エックスとかあるじゃん?それがイマイチ、っていうか全然分かんねえんだよ」
なんと小学生相手に数学を教えを請うつもりなのか?だが、俺は数学は得意なほうなのである程度までなら分かるのだが。
「うん、どれ?」
「方程式がなんだかんだという所」
「あー・・・はいはい。って、あれ?その方程式って一次方程式の事?それはまだ先の時期に習うんじゃ無かったっけ?」
透の分からないという方程式は多分一次方程式の事だと思うんだが、それは夏か秋ぐらいに習う筈だ。中学に入ったばかりだからマイナスの事だとか平方根つまりルートの事を習っていると思うのだが?
「うん、今は全然方程式は習ってないけどさ。教科書パラパラって見た時にさ、やたら難しそうに見えたから今のうちに予習しようと思ってさ」
「へぇ~、スゴいな」
「う、うん」
俺は素直な気持ちで人を褒め称えたが、そんな褒めを受け取った透は若干恥ずかしそうに俯いていた。まぁ、それはそうだろう小さい子供に褒められるなんて無いからな。
そんな辱めを受けた透は数学の教科書をパラパラと捲り、一次方程式が載っているページを見つけ俺に見せる。
「あ、やっぱり一次方程式だ」
「そうみたいだな。で、教えて欲しいんだけど・・・分かる?」
「分かるね。透がマイナスとプラスの事を分かっていたなら分かる問題だよ」
「それは大丈夫だ。この前、散々友達と確認しあって頭に詰め込んだから」
どうやら透は勉強熱心らしい。
「とりあえずさ。この例題の『X+2=3』で、何で『X=1』になるかって所ね」
「あー、はいはい。それはね、移項っていうのを使うんだよ」
「移項?」
初めて聞く単語なのか首を傾げる透。俺は分かりやすく説明する事にした。
「このエックスだけを左側に留めておくんだよ。この問題はね『X=α』という解答して欲しいって言う意味なんだ」
「う、うん」
「で、その『X=α』という答えにしたいから何が邪魔なのかな?」
「え?普通に『+2』だよな?」
「そう。その『+2』を右側の端へと持って行く。それが移項」
「な、なるほど」
ここまでは理解してくれたようで頭を頷けながらも必死に俺の解説を聞いていく透。
「ただ、その移項で気をつける事がある。移項する時は数字の前に付いている符号を逆にしないとダメなんだ」
「符号?プラスとかマイナスの?逆ってどういう意味なんだ?」
「え?知ってるんじゃ無かった?まぁいいや。プラスの逆はマイナスでマイナスの逆はプラスね。それだけは覚えて」
「うん、今覚えた」
知識が身に付くの早いな透は。
「で、続きなんだけど、移項したらどうなる?考えて」
「え、えーと・・・『+2』の符号を逆にして右側の端へと持って行くと『X=3-2』?あ!そっか!なるほど!そのまま引き算して『X=1』になるのか!そうだろ?」
「正解、よく出来ましたねっと」
俺は透に向けてパチパチと拍手を送り、労をねぎらう。ただ、まだ納得していないのか顔をしかめる透。何があったのだ?
「ついでで悪いんだけどさ、この『2X=8』ってのも解説してくれないか?後はどうにかなるレベルだからさ」
「え!?もう!?」
俺は驚いた。透の勉学の才能にショックを受けつつけも、分かりやすく説明する事にしたのである。
「さっきも言ったように、『X=α』にしたいから移項するんだ。で、移項するにはどうするんだっけ?はい、復習」
「まず左側の『2』が邪魔だ。でも、前に符号が付いてないけどどうすんだ?あ、もしかしてプラスの扱いするのか?だったら・・・」
考え方は合っているのだが、肝心な事が大きく間違っている。その間違えを教えてやる事にした俺は再び口を開く。
「違うね。確かに符号は付いてないね。でも、隠れている所があるんだ。『2X』という所にさ」
「うん?あ、そっか!『2×X』か!で、その掛け算の部分を逆に・・・割り算だな?これを右側の端に置いて、『X=8÷2』でそのまま割り算で『X=4』ってなるという事か?美仁香!」
「正解、一次方程式は理解できたね」
この何気ない会話で少し透との距離が縮まった気がする。この調子で透とも麗香とも距離を縮めていたいが、まだまだ時間がかかりそう。うーん、もっと何か大きな行事があればいいんだけどな。
「うん、ありがとう美仁香」
「またいつでも相談に来てよ」
透は教科書とノートを持ち、自分の部屋へと消えていくのを見届けほっと一息。
が、後ろから邪悪なオーラを感じた!
ゾクッ!
俺は思わず立ち上がり、両手をぐっと握りしめ中腰となり構える。その邪悪なオーラの送り主は、母親だった・・・お前な、一々邪のオーラみたいなのを出さないと出現しないのか?
「うふふっ、透の事をお兄ちゃんって言ってもいいのに~。それから麗香もお姉ちゃんってさ~うふふっ。もちろん、私の事ママって言ってもいいのよ~」
「・・・魔が差したらそう言います・・・」
「まっ。その社交辞令は失礼よ~うふふっ、うふふふふっ」
母親はどす黒いオーラを出しつつキッチンへと姿を消していったのであったーー。
怖えーよ!
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