夢
「あっ! 流れ星!!」
子供の頃、よく夜空を見上げて流れ星を探していた。
晩御飯を食べた後、自分の部屋の窓から見える綺麗な夜空を見るのが楽しみだった。
流れ星を見つけたのは、2回だけ。
何十回も見ているのに、流れ星は2回しか現れなかった。
1回目に見たのは小学3年生の頃。 2回目に見たのは中学3年の頃。
流れ星は、1秒たらずの時間しか現れない。 しかも不定期。
そんな珍しい流れ星を探すのが、内田真子≪うちだ まこ≫は大好きだった。
高校を卒業し、大学生になるのにも関わらず、私はいまだに流れ星を探している。
5回、流れ星を見たいからだ。
「えっ!? まだ諦めてないの!?」
高校の友達、佐伯玲美≪さえき れみ≫は、カフェで私の話を聞いていた途端、飲んでいたコーヒーを
戻しそうになった。
「ちょっ、大丈夫?! ってか、そんなにビックリしなくても・・・」
「ビックリするわっ! だって小1の時から見てんでしょ?! よく飽きないよね~」
「飽きるも飽きないも何も、綺麗なんだよ~! 星」
「もっと綺麗なものあるでしょ」
「ないんだなぁ~・・・これが」
「でもさぁ真子、なんでそんな見たがるわけ?」
「だってまだ2回しか見てないもん。 流れ星を5回見るのが私の夢だから」
「ゆ、夢ちっちゃ」
「う、うるさいっ! ちゃんとした理由があるのっ」
確かにちっちゃい夢かもしれないが、5回見るのもちゃんとした理由がある。
「理由って?」
「流れ星を5回みた人は、必ず幸せになれる」
私は少しドヤ顔で言うと、玲美は言った。
「・・・・え、何その嘘。 ってか神社行って願った方が早いよ」
「・・・嘘じゃないし!」
「いやいや、流れ星が消えるまでに願い事を3回となえると、その願い事が叶うのは知ってるよ?
でも・・・5回でしょぉ~? まず無理だよね」
「幸せは、ゆっくり自分で待つんだってさ。 テレビで言ってた」
「・・・っていうか真子さぁ、もう大学生だよ? いつまで子供でいる気!」
「一生!!! 流れ星見つけるまでは絶対!!!」
「い、一生!?」
玲美と一日遊んだ今日の夜も、私は窓から夜空を見上げて、流れ星を探した。
「・・・確かに子供かも」
毎日毎日、流れ星の資料を見ながら夜空見上げて、「綺麗~!」なんて言ってるのって・・・
あきらかに子供じゃん。
「はぁ・・・」
サッ
「・・・ああああああああああっ!!!!!!!!!」
ついさっきまで手で握りしめていた資料が、一瞬手の力をゆるめた瞬間に
落ちて行った。
ホチキスで止めておけばよかったと後悔するのも遅い。
流れ星の資料が、ペラペラッと音をたてながら落ちて行く。
それを見つめている私。
「・・・・・ハッ、見つめている場合じゃない!!!」
私は急いで階段を駆け下りて、玄関へ。
「真子!? 何しに行くの!?」
「ちょっと探し物!!!!」
がちゃっ
「ど、どこに落ちたっけ・・・」
上を見上げると、綺麗な星がいくつも・・・。
「・・・おっ、見とれてる場合じゃない!」
一枚一枚、私は探そうとした。
「ない・・・ここらへんで落として・・・」
「・・・・あの」
私が地面にしゃがみこんでいると、上のほうから誰かの声が聞こえた。
私はすぐに上を向くと、綺麗な星空と一緒に私の視界に映る一人の男。
「これ・・・君の?」
男が私に見せてくれたのは、流れ星の資料だった。
一目見て分かった私は、すぐに立ち上がった。
「あ、ありがとう・・!!!」
男は、約4枚ある資料を全部拾ってくれたことがわかった。
ページ数がばらばらだから。
夜だから、暗くて男の顔が見えない。 でもおそらく、私と同い年だろうと思った。
身長は少し高めだけど、 ショルダーバッグからして、明らかに同い年だ。
「流れ星?」
男は言った。
「え、あ、はい。 ずーっと前から探してるんです」
「ずっと前から?! すごいね。 まだ見たことないんだ」
「いやっ、小3と中3の頃に見たことがあるんです」
「えっ! 2回も見たの! すご~」
なぜだろう・・・会話がはずむ。
今まで流れ星の話をしても、耳を傾けて聞く人はあまりいなかった。
なのに、この人は違う。 真剣に話を聞いてくれている。
5分くらい経っただろうか。 ずっと話している。
「5回見ると幸せが?」
「うん。 でもみんなは信じないんだよね~。 それに子供って言うし」
なんかいつのまにかタメ口になっちゃってるし。
「俺、信じるかも」
「・・・えっ!」
「だって本当だったら面白いじゃん。 信じなきゃわかんないでしょ」
さらにその男は話を続けた。
「それに、星って見るの楽しいよ? 特に泣いた時とか・・悲しい時とか。
星空とか見たら、一瞬で涙が止まるんだよ。だから・・子供じゃないっ!」
えっ・・・・
「・・・初めてだ」
「・・・え?」
「初めて会った・・・私の話を真剣に聞いてくれて、信じてくれる人。 それに・・」
「それに?」
「子供じゃないって言ってくれた」
「本当に、大人でも星は見るもんだよ。 俺だって興味あるし」
「えっ!? 本当!?」
男はうなずいた。
「流れ星には興味はないんだけど、宇宙の・・・・」
♪~♪~~~~♪
誰かの携帯の着信音が鳴る。
私は部屋に置いてきたから・・・この人のか。
私の考えは当たっていた。 その人はショルダーバッグから携帯を取り出した。
「もしもし? あ、ごめんごめん。 今行くよ」
「(・・・?)」
携帯をバッグにしまう。
「じゃあ俺、行くね」
「・・あっ、うん。 本当にありがとう」
「ううん、じゃあ・・・また会えたら!」
その男は、すぐに私の前から消え去って行った。
少し振り向いて、私に手を振った。
私も軽く振り返した。
「行っちゃった・・・」
こんなに真剣に流れ星のこと話したの・・・初めてかも・・・
しかも、名前も知らないのに、あんなに会話がはずむなんて・・・
私はその時思った。
―君は流れ星のようだ―