独白する魔王様 其ノ壱
短いけど一旦投下します。
「陛下、ルドルフが陛下に謁見を申し出ております」
臣下の一人が余の私室に入り頭を垂れさせながらそう申した。
ルドルフ、我が臣下でありながら人の国との曖昧な領地の境目に居を構え、臣下の間では奇人であると噂される。
実のところ、最近動向が怪しい人間の様子を探ってもいるのだが、それは余以外に知る者はいない。
「構わん、通せ」
殆どの者が一線を引いて余に接する中、あの者は礼儀はわきまえているが、本音を隠さずはっきり物を申すから中々好ましいのだ。
ただ余に対するその物言いを気に入らない臣下もいるようで、少なからず敵はいる。
この者もルドルフのことを疎ましく思っているのか、一瞬眉をしかめたのだった。
少し間を置いて軽いノックの音が響いた。
「入れ」
分厚い扉の向こうには聞こえない程静かな声であったのに、ルドルフは何でもないように扉を開き一礼した。
「貴重なお時間を頂きありがとうございます。本日は魔王陛下に内密な相談事がございまして、こうして参上したところでこざいます。」
内密、という言葉に臣下はともすれば舌打ちでもしそうな勢いで顔を歪め、余に深く礼をするとルドルフなど存在しないかのようにわき目も振らず出ていった。
「相も変わらず、疎まれておるな」
「まともに働きもしないのに貴方に尻尾を振って権力を手にした気分に浸っている馬鹿共に敵視されようと、わたしは痛くも痒くも無いですよ?」
柔らかく微笑みながら飛び出す辛辣な物言いはいつも新鮮で聞いていて面白い。
「余の前でそのような言葉遣いをしたと他の臣下が知れば闇討ちに合いかねんぞ」
笑いを含みながら返せばルドルフは心外だと言わんばかりに顔を歪めた。
「陛下はわたしのこの命、闇討ち程度で簡単に刈られるものとでも仰るのですか?」
「まさか、闇討ちした者の末路を案じておるだけだ」
「流石に命まで奪ったりはしませんが、愚かな行いに見合った相応の罰は与えております」
実に愉しげな微笑みを浮かべたルドルフは会話が一段落したと判断したのか、一転して引き締まった表情を作った。
「魔王陛下」
突然床に方膝をついたルドルフは余の目をひたと見つめた。その真髄な眼差しは嘘偽りなど申すことなど無いと雄弁に語っているようであった。
これが、余がルドルフを好ましく思っておるもうひとつの要因であった。
口先だけの奴等と違うというのは存外嘘では無いのだ。




