第二話 「その小屋、引越しにつき」
引越し、したことないなぁ
風変わりなオレンジのパーカー。不釣合いな白いミニスカート。
髪は銀色で、両サイドで結ってある。その二つのおさげは腰の辺りまで伸びていた。
瞳の色は黒。足袋を履いており、その上(下)草鞋を履いている。
パンツも穿いている。多分。
ていうか、何だこれ?神様かこれ?
サリィ「さあ、ドキドキ共同生活の始まりだ。」
なにやら企画しているらしい。文字通り企んでるな。
ショウ「悪いがNGだ。」
サリィ「おや、神に背く気かい?」
ショウ「そういうわけじゃないけど、山奥でどうやって人間らしく過ごせって言うんだ。」
サリィ「昔の人たちは皆こうしてきたのよ。」
ショウ「今は今なんだが。」
サリィ「う〜ん、確かにちょっと獣くさいわねぇ。」
いやちょっとどころじゃないんだが。
ショウ「引越しをします。」
サリィ「あら、早速人間らしいこと言うじゃない。」
ショウ「神の考えには付き合いきれんからな。」
サリィ「で、どこへ行くのかしら。」
ショウ「ここはどこだ?」
サリィ「さあねえ、グーグルマップにものってないから。」
ショウ「文明の利器に触れすぎじゃね!?神!」
サリィ「まあそういうな。神だって楽したいんだから」
ショウ「悪くはないんだけどさあ。」
なんか解せないな。っていうか電気がない時点でグーグルマップ見れないんだが。
サリィ「いや、ここにスマートフォンが。」
ショウ「文明の利器に触れすぎじゃね!?神!」
サリィ「おや?デジャヴが。」
ショウ「吃驚したわ。神の力に驚いたわ。」
サリィ「まあここ圏外だけど。」
ショウ「問題はそこじゃないんだけどなあ。」
サリィ「注文が多いなあ。ここは料理店じゃないんだけど。」
ショウ「とにかく、ここから移動するぞ。」
サリィ「じゃ、何処へ行きたい?熱海か?下呂か?別府?」
ショウ「おじいちゃんか!」
サリィ「失礼ね、私は女よ。」
ショウ「見りゃ分かるけど。」
サリィ「神に性別なんてないけどね。」
ショウ「えええ、そうなの?」
サリィ「まあその辺は信仰によって決まるわ。」
なんだかさっぱりだ。結局何が言いたいんだ。
ていうか脱線ばかりして話が進まないんだが。
ショウ「都会だ都会!都会に行こうぜ!」
サリィ「人が多くていやねえ。」
ショウ「じゃあちょっぴり都会。」
サリィ「もう一声。」
ショウ「普通の都会。」
サリィ「もう一声。」
ショウ「ちょっぴり田舎。」
サリィ「もう一声。」
ショウ「すっげえ田舎。」
サリィ「もう一声。」
ショウ「山奥。」
サリィ「それだ!」
ショウ「ここだよ!」
何声上げんだよ。競が成り立ちゃしねえ。
サリィ「わーったわよ。お望み通りちょっと都会にするよ。」
ショウ「なんで俺が一歩譲る形に落ち着いてんだよ。」
サリィ「都会なんて毒よ。あまりに文明が過ぎると飲まれるわよ。」
ショウ「そういうものなのか?」
サリィ「さあ、行きましょう。」
ショウ「どうやって?」
サリィ「そりゃまあ、神力でぱぱっと。」
そういうところは神っぽいんだな。
サリィ「ほい!」
とサリィが一声上げると途端にすごい地鳴りがしだした。ってか地震が起こっている。
不謹慎すぎる。いいのかこれは。
立ってられないほどの揺れに俺は思わず尻餅をついてしまった。
しかし不思議なことに部屋の中の家具類はビクともしていなかった。
まるで家の一部のように、揺れになじむように、サリィの一部のように、星の一部のように。
ショウ「おいおい、冗談きついぜ。」
・・・気がつくと揺れはおさまっていた。
俺は地面に手をつけ、しりから倒れている形になっていた。
ショウ「お、終わりか?」
サリィ「うん、まあ一応。」
中からは確認の仕様がなかった。この部屋には窓がついていないからだ。
と言っても窓そのものがないと言う訳ではなく、窓にガラスが張られておらず、
変わりに木の板がはり付けてある状態だ。まあ廃屋には良くあるやつだ。
ショウ「そういやあさっきは一度も外に出ていなかったな。」
サリィ「出なくても分かるよ。」
ショウ「なんで?」
サリィ「木とか草しかなかったからねえ。」
ショウ「ああ、それは想像し易くていいや。」
サリィ「外に出てみましょ。」
俺たち二人は外へと躍り出た。
サリィ「わあ、素敵なところね。」
ショウ「え?あの、目の前川なんすけど。」
サリィ「ええそうよ。」
ショウ「え?ていうか、ここ土手なんすけど。」
サリィ「ええそうよ。」
ショウ「デジャヴ。」
サリィ「ここから私たちの死闘が始まるのよ。」
ショウ「え?戦うんすか?てか死ぬんすか?てかここ住むんですか。」
サリィ「ええそうよ。」
人里はなれた山奥よりは確かにマシだ。
人がごった煮がえす大都会よりは多分マシだ。
でも、なんか、いいのかこれ。
ていうか小屋ごと引っ越すなんて聞いてないぞ。
サリィ「当たり前だ、言ってないからな。」
ショウ「えばって言うなよ!」
サリィ「まあまあ、あまり頭に血を上らすな。ここからスタートラインまで行くぞ!」
ショウ「まあ、なんでも、いいですけど。」
なんかもうどうでもいいや。
最後までよく分からなかったけど、ここからスタートするらしい、俺の人生は。
ショウは一抹の不安を覚えていた。その不安は見事に的中することになるのだが、
それはまた別のお話。
というか次回の話。
・・・つづく
PCトラブルで投稿遅れたけど気にしない