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赤い鳥の神話  作者: みえさん。
二章 ニドトモドレナイナラ
9/12

「ユナ様?」

 問いかけるような声に彼女は振り向いた。

 立っていられる事すら不思議なほど青い顔をした弟子を目の当たりにして、厳しい表情をしていたユナの顔に少しだけ笑みが戻る。

「心配することはないさ、パール。私があちらに向かう。王が亡き今、ネセセアの力を持つのは王子だけ。あの馬鹿どもに秘宝を使わせる訳にはいかないからね。絶対にサファイア総主の元に来てもらうさ」

 頭を撫でる彼女の手は微かに汗ばんでいる。

 彼女の占いですらこんなに早く王が死ぬという運命は出ていなかった。どこかで運命の歯車が狂い始めているのは確かだった。狂い始めた運命は世界が救いに転じることの現われなのか、それとも終わりが早くに訪れることを意味しているのか。

 どちらにしても、狂い始めた運命の渦に自らが向かうことは危険なことだった。

「パール、お前は死んではいけないよ。死ねば世界は王を選べなくなる」

「……はい」

 返事は暗い。

 ユナは声を立てて笑った。

「心配することはない。私たちが占うのは何故か、言ってごらん?」

「最悪な事態にしないためです」

「そう、未来の軌道を修正するためだね。分かっているじゃないか」

「ええ、でも……」

 それ以上は言ってはいけないと、彼女は小さく頭を振る。

 パールはそれ以上の言葉を失ってうつむくしかなかった。

「大丈夫、今まで私がこう言って大丈夫で無かったことがあったかい?」

 ない、と首を振った。

 確かに彼女が大丈夫と言って大丈夫でなかったことは今までに一度だってなかった。けれど、今は状況が違う。

 心配だった。自分のことも師匠のことが。

 けれどここで泣きついてはいけないと思う。サファイアの民として立つ自分たちはそんな自分たちの感情だけで動いてはいけないのだ。

 辛かった。けれど、パールは毅然と頭を上げた。

「師匠、お気を付け下さい」

「分かっているよ。……エメル、パールを頼んだよ。この子は私たちにとっても世界にとっても強い意味を持っているのだからね」

「はい。……ですが師匠」

 ユナは片手をあげて彼の言葉を遮る。

「私が向かえば私は死ぬだろうね。先刻から何度占ってもそう出る。だが、必ずそうなるとは限らないこと。星の軌道は今までにないほどにころころと変わっている。だが、私が行かなければ王子は死ぬのは明白だ。だから最善を尽くすのさ。……分かるね、エメラルド?」

 彼は静かに頭を下げた。

 本当なら自分が師匠の代わりに向かいたい。しかしそれは叶わないことだと分かっている。ユナへ弟子入りをする際に決めた制約。それを破れば自分は二度と占う力を持てなくなる。

 二度と。

「お気をつけて。ユナ様」

 そう言うしかなかった。

 自由に動けるのは彼女しかいないのだから。

「私だってこの世界の今を生きているのだ。運命は回り始めている。世界の全員を巻き込んでね。どうやら誰も私を例外にするつもりはなさそうだ。だったら私は最期まであがかせてもらうよ」

 微笑んだ師匠の姿が薄く歪んだ。

 人は時渡りとこれを呼ぶ。時間と距離を無視して世界の様々な場所へ移動する能力。それはたやすいことではないし、誰にでも出来ることではない。

 師匠にはそれが出来た。

 だからといって万能であるわけではない。

 既に人の姿が消え去った場所を見つめながらパールは深くネセセアの神に祈った。


 ……どうかご加護がありますように。


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