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プロローグ

「魔王、貴様を倒そう。未来のために」


 剣を構える。目の前には追い詰められたようには見えない、堂々とした態度の魔王がいる。

 漸くここまでたどり着いた。あともう一歩で平和が訪れるだろう。未来の為に勇者が掲げた未来像はすぐそこまで来ている。

 手負いでも付いてきてくれた仲間たちに、感謝と尊敬の念を送ろう。ここまでやってきても、やはり勇者ノウムは役立たずであった。



_


 私は幼き頃から、怪力であった。大人顔負けの力を持っていたが、体は年相応。大人に混じって体力作りをしては体を壊していた。

 王都のすぐそばの街に住んでいたが、貴族程の地位にはない。庶民より少し上、貴族よりも下。中途半端な地位で、どこにでもいる青年。言い換えれば平凡な一般人だった。それでも街では有名人で少し変わり者。それがシンという男の話である。


 私は偶々王都に来ていた。友人に誘われ付き合っただけなのだが、その友人がまた女好きであった。恋人がいる幸せな立場でありながら、まだ幸せを探すような間抜け。だがそれ以外は良いヤツで、見捨てられない。

 酒場にハシゴして、その後村に帰る予定だった。だが、また友人は遊び足りないと言う。

 ここで放っておけばよかったのだが、後々無事に街に戻ってこれるのかと心配してしまった。何度も言うが、遊び癖、女癖以外は良いヤツなのである。


ーラスト一件。それが終わったら帰るからさ、な?頼むよ、シン。


そう言われれば、私は折れてしまったのである。

 店内は女の匂いが充満していた。一つ一つは良い香りなのだが、異なる香水をつけた女たちが集まることで魔窟と化している。

 案内された席で友人と共に座り、促されるままにメニューを見た。

 やはりというか、商売上値段が吊り上げられている。この店で飲むよりも外で飲む方が、より多くの種類をより多く飲むことが出来るだろう。だが、友人にとっては味が違うらしい。

 お嬢様がやってきて、私と友人のそれぞれの傍らに座る。二人に対してそれぞれ対応してくれるらしい。


ーお兄さんカッコいいですね。

ーありがとう。君のような綺麗な人に言ってもらえるのなら、世辞でも嬉しいよ。


自分でも歯が浮きそうなセリフだと思う。しかしこう言っておけば、女とは後腐れなく遊べると教えてもらった。その他にも女性に対するテクニックを伝授されているが、実践経験は少ない。

 友人が話をしている横で、私はいつ切り上げようか考える。程々にしておかなければ、友人には可愛らしい彼女がいるのである。よく詰められている様子を見かけるが、いつ振られてもおかしくない。


ー失礼、手洗いをかりても?


酒が徐々に回り始めていた。何件も梯子をした後である。仕方ない。

 元来酒には強くはなかった。頭が回らなくなるというよりも、口数が少なくなる。酒を飲むと楽しくなるというが、私は全く逆。冷静になってしまうのである。これならば酒を飲まない方がいいだろう。今回は付き合いの為に飲んだが、できれば今後ともに避けておきたい。

 煌びやかな内装を眺めながら、手洗いに向かう。廊下に差し掛かった時、ふと騒がしい席があった。

 男がお嬢さんに泣きついていた。涙とバカでかい嗚咽を漏らし、情けないことこの上ない。同じ男として見ていられない。

 話はよく聞こえなかったが、男はかなりの要人と会うらしい。それは商談か、はたまた別の要件か。そこで男は重要な役割に任命され、それが怖いだのなんだのと嘆いているようだ。その嘆きを一方的に聞かされいるお嬢さんは、助けを求める表情をしていた。

 私には関係のないことである。折角の手洗いに行く機会を逃すわけにはいかず、他人のことに構ってはいられない。

 だが僅かな正義感により、私は意思とは全く別のことをしていた。酒に酔っていたからかもしれない。


ー困ってる。やめろ。


 困惑していたお嬢から男を引き離した。生まれつきの怪力のおかげで、男を軽々と引きずることができた。

 騒ぎを聞きつけた従業員たちが、私たちを取り囲む。男と全く関係のない私にとっては冤罪だが、今の状況では顔見知りに見えるのだろう。

 私は一瞥をくれて店の外に足を向ける。


ーこの男と私のお代は、友人にツケといてくれ。いつか払いに来るだろう。


 今も楽しんでいるであろう友人に、後のことは任せた。私たちは恐らく出入り禁止になるだろうし、出入りできる良客の友人に任せる方がいい。

 店の外に出ると、裏道に入る。そして人の目が無くなると、首根っこを掴んでいた男を漸く放した。


ー店に迷惑かけるんじゃない。情けないとは思わないのか!


 少し荒々しい話し方になった。酒が自制心を緩めているのだろう、自身の素に近いものが露になっている。そして舌打ちをすると、何も言わない男の顎を掴んだ。


ー不愉快だ。いい加減何か言ったらどうだ。店の中ではあれほどに騒ぎ立てることができたのだろう。


人見知りだの宣えば、その舌を千切ってやる、と脅しも付け加える。

 これが私の素である。普段の穏やかな性格も勿論素の一つ。五十分の一ぐらいの素ではある。

 男は俯いており、その様子が私の怒りを買った。ウザったい前髪を避け、男の顔を覗き込む。そしてそこにあるものに驚き、目を見開いた。




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