色々と失敗
「質問を変えましょう」
無表情のままデパコスは続けた。
「貴女は……王太子殿下の事も好きですよね?」
「へ?王子?そりゃ勿論」
「では、殿下のどこが好きなんですか?」
「そりゃ中身でしょ」
……………しまった!
これではまるで、デパコスは外見が好みで、王子の事は中身が好きだと言っているようなものではないか!」
「あ、いや!違うんだ。違うわけじゃないんだけど、違うんだって!」
私は、外見や有能さに隠された、だらしないジャージの王子が好きなんだってば!
私は思わずベッドから立ち上がった。
「それはつまり………」
デパコスが数歩私に近付いた。
「貴女の理想は、外見が俺で、中身が王太子殿下、だと」
その瞬間、私はジャージを着て肉まんを頬張るデパコスを想像してしまい、吹き出してしまった。
似合わないにも程がある!
いや、じゃあ何だったら似合うだろう。
………多分、久しぶりに頭脳労働をして、知恵熱でも出し始めていたのかも知れない。それにやはり浮ついた気分が抜けなかった。妄想がたぎる。
………応援団の長い白はちまきとか似合いそうだなあ。黒い詰め襟、白い手袋。
右手の手袋は普通に嵌めて、左手は雑に嵌めた後、こう、くいっと、くいっと綺麗な歯で引っ張って欲しい。
爆笑の後、からのニヤケ顔である。我ながら気持ち悪い。
「……………楽しいですか?」
いつの間にか、デパコスが私のすぐ前まで来ていた。
私達は向き合う形で立っていた。
「え?楽しいかと言われれば、そりゃ…………」
相変わらずの無表情に言葉に詰まる。
「そうやって、笑ったり照れたり、くるくると表情を変えて、俺の気持ちを翻弄して、楽しいですか?」
え、そんなつもりは全く、と言いかけた私はデパコスにぐいと左手を引っ張られ、次の瞬間彼の両腕に抱きしめられていた。
うわ!胸板厚!
私は思わず右手をデパコスの背中に回し、厚さ何センチくらいだろう、と確かめてしまった。
「………やっぱ好きだなあ」
繰り返す。今日私は浮かれていたんだ。そう言う時こそ言動には注意しなければいけない。
「『顔が』ですか?」
頭の上から降りて来る声が冷たい。
「いや…………胸板が………」
………しまった!!
本日2回目のしまったが発令された。
デパコスの腕が離れた。
「いきなりすみません。俺らしくない事をしました。王太子と貴女の阿吽の呼吸を見ていたら、今まで知らなかった感情が生まれて」
何その疲れた表情。
私のせいかよ!
と、ちょっとムッとした。
「そんな事言うなら、貴方は、私のどこが好きなんですか!?いつから好きなんですか!?」
「………最初に会った時から好きでしたよ」
デパコスがしれっと言ったので、頭に血が昇った。
「嘘つき!最初に会った時の私と今の私が別人みたいだって、分かってるでしょ!?」
「意外と勘がいいんですね。…………だから困っているんですよ」
最初はね、貴族同士の婚姻なんて、どうせ親が決める事だと何の関心もなかったんです。家格と年齢が適当に釣り合いが取れていればそれでいいと。
再びソファに座ったデパコスが淡々と続けた。
「最初に貴女に会った時、母から印象を聞かれて、俺は『いいんじゃないでしょうか』と答えました。では、婚約の話を進めて良いかと問われても『いいんじゃないでしょうか』と、答えましたね、確か」
まるで他人事でしたよ、と自嘲気味に呟く。
「貴女は、大人しくて穏やかで、公爵家に嫁ぐ事に不安を感じているような、少し気の弱い女性でした。別に不満もありませんでしたから、和やかに付き合っていたと思いますよ」
へ…………へえ。
自慢じゃないが、大人しくて穏やかだ、と言う評価を受けた事は生まれて一度もない。
「だから…………貴女のせいです。記憶を失ってからの貴女は、俺が全く知らない女性になってしまって。大口を開けて笑うし、王太子殿下と昔馴染みのように振る舞うし。おまけに、本当は事務能力にも長けている。何もかもが新鮮で、そして同時に不安でたまりません」
「私のせい、とはどういった意味合いで………」
剣呑な雰囲気のデパコスに、私はへこへこと揉み手をしながら尋ねた。
「以前の貴女には、正直何の興味もなかった。でも、今は違います。俺をこんな気持ちにさせた責任を取って下さい」
「せきにん」
私は繰り返した。
「俺はしばらくしたら、エインズワース領に戻らなければなりません。貴女を………王太子殿下と2人で王都に残しておく事に我慢が出来ない。だから、一緒に来ませんか?父が亡くなった後、俺が王都にいる間は、母と政務官が領地を回しています。仕事がしたいなら、そこで思う存分腕を振るえます」
「…………お母さんが、1人で………」
私は1人で私を育て上げてくれた母親の事を思った。
だけど、私が王都にいなくなったら、王子は1人になっちゃう。
「ちょっと、考えさせて。長逗留は難しいかも知れないけど、そうだね、行ってみたい気持ちはあるよ」
そうですか、とデパコスが嬉しそうに笑った時、王子の声が響いた。
「あー、お取り込み中?悪いんだけど、アルテ、ちょっと付き合って欲しい」
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