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王子と私とデパコスと  作者: えるぜ


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8/13

仕事を始めます


それから毎日少しずつ午後のお散歩の時間を増やし、お散歩の後デパコスと私は一緒にお茶を飲む、という新しい習慣も加わった。

午前中、人目のない時には、スクワットやクランプなどの筋トレも始めた。

そして、漸く体力に余裕が持てた頃、私は王子の執務の手伝いを始める事にした。


「…………午前中、だけですよ」


何だかむっつりとデパコスが言う。


「うん、とりまそれでいい。段々増やすかも、知れないけど」


最後の方は少し小声になってしまった。

繁忙期には日付けが変わって当たり前だったのだ。午前中だけだなんてぬるい事を言ってられるか!

………徐々に丸め込んでやろう、と内心で呟く。


「それにしても不思議ですね」


とデパコスが言うので、私はん?と首を傾げた。


「以前の貴女は、公爵家の家政を取り仕切る事や、内政の補助をする事に対して、あまり前向きではなかった。むしろ………不安がっていた様子だったのに、随分と変わったんですね」


え、ソウダッタンデスカ。

笑って誤魔化すしかない。


「まあ、貴女がやってみたいと仰るならそれでいいですけれどね」


時々、デパコスは不穏な物言いをする。

どうにも納得がいかない時、「まあいいですけれどね」と言外に全然良くない!感を漂わせて言うのだ。


「では明日、朝の10時に迎えに来ますから、支度をしておいて下さい」


10時だと!?

どこの重役か、と突っ込みたくなったけれども、まあおいおい。おいおい丸め込んでやる。私は決意を新たにした。


そして翌朝、私はデパコスと一緒に意気揚々と王子の執務室へと向かった。

私達の後ろには、山ほど書類を抱えた文官が着いてくる。


「アルテミシア!」


私の姿を見て、王子の表情がぱっと明るくなった。


「……………嬢」


不愉快そうにデパコスが付け足した


「面倒くさいなあ。そんな長ったらしい名前じゃあ、効率が悪い」


あ、そうだ!と王子が私に向かって言った。


「『アルテ』でいい?呼び易いし、短いし」


「ダメに決まっているでしょう」


と言うデパコスの声と


「ああいいよ、別に」


と言う私の声が重なった。


「助かるわ。じゃあそう呼ぶ」


デパコスは、軽く眉根を寄せて「アルテミシア嬢がそれで良いと言うなら………」と剣呑な声で言った。


「じゃあ、今日の分、アルテ、担当部署ごとにまとめて」


ほい。


「まとめたら、ここにオレの作ったマニュアルがあるから、マニュアルにある分は処理して」


あ、ほい。


「オレ、昨日までの未決分まだ残ってるから、そっち続ける」


ほほいの。


「あ、マニュアルに書いてある分は、そっちに回す」


ほい。


「ホレ、王子、こっちの山はあとサインするだけにしておいた。真ん中は処理できた。既決。3件よく分からないのがあった」


王子は素早く書類にサインをして、処理済みの文書と共に既決箱に放り投げる。


「分かった、3件はオレがやるから、横で見ながらマニュアル追加して」


「ok、それにしても手書きはしんどいね」


「1年目、散々やったじゃん。ノートに伝票サンプル貼り付けたりしてさあ」


ああ、そうだったね。懐かしいなあ、と私達は笑い合った。


「でも、予想外にシステマチックで驚いた」


王子の事務処理を覗き込みながら、ふんふん、なるほど、と私は手を動かし続ける。


「うん、オレもそう思った。なんかね、4代くらい前の王様が『賢王』って異名が付くほど有能だったみたい。その王様が色々改革したらしいよ」


「王子もそのうち、2代目賢王とか呼ばれるかもね」


「よせよー」


とかなんとか笑っていたら「時間です」と言う冷たい声が響いた。

あ、デパコスずっと同じ部屋にいたんだ。集中してると2時間なんてあっという間だなあ、と思う。


「助かった、アルテ。未決箱の底が見えて来たの初めて。明日も宜しくな!」


王子が笑って手を振るので、私も笑顔で振り返した。

部屋に戻る途中、デパコスが一言も口を利かない事が少し気になったけれど、私は久し振りの充足感に浮かれていたので、まいっか、で流してしまった。

…………後から思えば、この辺りから私は色々と間違えていたんだろう。


「昼食後は少し休んで下さい。その後、大丈夫そうだったらまた午後の散歩に。後で顔を出します」


部屋の前で、ごく普通にデパコスが言ってくれたので、私は安心して、今日のお昼はさぞかし美味しかろう、と私は能天気に考えていた。

昼食は想像以上に美味しく感じたし、いつも以上にもりもりと食べてしまった。

食事は3食1人で食べていたけれど、今度、デパコスか王子と一緒に食べてみたいなあ、とふんふん思いつつ、急上昇した血糖値に睡魔を覚える。

流石デパコス、少し休めと言った慧眼には敬服する。


どのくらい眠ったんだろう、目を覚ますと、辺りは薄っすらと暗くなっていた。

しまった!散歩!と思って起き上がると、デパコスがソファに座っていた。


「………ノックはしたんですけれど、良く眠ってらしたので、起こすのも可哀想かと」


えっ!

寝顔見てたんですか!?

デパコスが立ち上がって、恐らく閉めておいてくれたのであろうカーテンを開いた。


「王子と随分息が合っていましたね」


そらそうだろうね、と思う。


「正直、少し妬けますね」


…………アルテ、とかもね。

いやいやいや!私達の間にそんな甘い感情はないから!誤解だ!おにーさん!

こちらを向いたデパコスの顔を夕日が照らしていた。

私はその横顔に見惚れる。


「……………やっぱ好きだなあ」


間があった。


「貴女は、意識を取り戻した日もそう言いましたよね」


言ったかな!?あ、言ったわ。夢だと思って好き放題した日だ。


「一体、俺のどこが好きなんですか?」


「…………顔、が……………」


寝起きでまだ薄らぼんやりしていた私はつい言ってしまった。

デパコスの顔から表情が抜け落ちた。



ジャンル「恋愛」とか嘘じゃん?みたいな展開をここまで読み続けて下さった皆様

本当にありがとうございます


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