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王子と私とデパコスと  作者: えるぜ


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7/15

お散歩


た……たかだかミルク粥を食べられなかったからって、あんなにぷんすかする事はないだろう。


「器の小せえ男だな………」


そう呟いて、同意を求めるようにデパコスをちらりと見ると、何だか思案げな表情を浮かべている。


「………そうでしょうか。まあ、貴女がそう思われるのならそれでいいですけれどね」


では、2時間後にまた伺います。そう言ってデパコスは部屋を出て行った。

そうして、1日に少しずつ何回にも分けた食事がようやく3食になり、内容もほぼ常食に戻るには、それから1週間程が必要だった。

ミルク粥を食べられなくて拗ねていた王子も翌日にはけろりとして顔を出すようになり、私の体調が戻りつつある事を一緒に喜んでくれた。

そんなある日の事。


「今日の午後、少し外を歩いてみましょう」


デパコスに言われて私は狂喜した。

何しろ退屈。毎日が死ぬ程退屈だったからだ。


「侯爵家のタウンハウスに使いを出して、あまり苦しくない服を何着か届けさせてあります。後で侍女に持たせますから、準備が出来たら知らせるように、と伝えてあります」


何から何まで素晴らしい気配りである。

そうして、やって来た侍女さんに服を着替えさせて貰い、久しぶりに靴を履いた。


「では、公爵様に準備が整ったとお知らせして参ります」


丁寧にお辞儀をして侍女さんが出て行く。

やがてデパコスがやって来た。


「血色もいいし、そうやって久しぶりに普段着を着た貴女を見られて嬉しいです」


普段着、と言うには私にとっては豪華過ぎるけれど、デパコスの嬉しそうな表情は素直に嬉しい。

靴を履いたままだったけれど、まだベッドに座っていた私は立ち上がった。

くらり。

人間、2週間横になっているとかなりの筋肉と体力が落ちると言う。その上、その後1週間は食っちゃ寝の毎日。そら力も入らんわ。

私は再びベッドに座り込んだ。

デパコスが心配そうに私の顔を覗き込む。


「大丈夫ですか?日を改めましょうか」


いや、ただの体力不足だから!

ここでベッドに戻ったらいつ元気になるか分からない。半病人で一生を過ごすつもりは毛頭ない。


「大丈夫、です。食事と同じです。少しずつから始めないと」


そうですか、と言ってデパコスは私に手を差し伸べた。


「エスコートさせて下さい。もし目眩がしたら遠慮なく掴まって。無理のない範囲で歩いてみましょう」


私がデパコスの手を取って立ち上がると、今度は肘を貸してくれる。

も、もうちょっと上、上腕二頭筋に触ってみたい、という煩悩を押し殺し、私は軽く腕を絡めた。


………………死ぬ。

王宮から出るだけで死ぬ。

もはや上腕二頭筋どころではない。

どんだけ広くて、どんだけ奥の部屋にいたんだ私、と思うくらい息が上がっていた。

時々、デパコスが心配そうに私の顔を見る。


「無理はしないで下さい」


「………無理しないと体力付きませんから」


ぜえぜえと息をしながら歩く私。

こんなに好みの顔にエスコートされていると言うのに、色気ゼロである。

それでも、王宮の外に出て、久しぶりに外気を吸った私は、思わず「わあ!」と声を上げた。

ここは中庭だとデパコスが言った。

こじんまりとした庭園には花が咲き誇り、手入れの行き届いた木々の香りと相まって思わず深呼吸をする。


「素敵な場所ですね!クラレンス様!」


私は感動してデパコスの顔を見上げた。


「その、『クラレンス様、へらっ』という癖はまだ抜けないんですか?」


え。

へらっとしていただろうか。

ただ単純に庭園に感動していただけなのに、まだ名前呼びに抵抗があるのか。それは大変に申し訳ない。こんなに良くして貰っているのに。


「あの………努力します…」


いいですよ、とデパコスが優しく笑う。


「記憶の混濁も少しずつ晴れて行くでしょう。とにかく無理をしないで」


いいヤツだなあ、と心の底から思う。

にっこりと笑うと、またデパコスの耳の縁がほんのりと赤くなっていた。

ん?と顔を覗き込むと


「貴女の………『へらっ』ではない笑顔を見たのは久し振りです。難しいかと思っていたけれど、今日、散歩に誘って良かったです」


と、デパコスが照れたように言ったので、私は罪悪感まみれになった。


「頑張り屋さんなんですね」


デパコスの言葉が暖か過ぎて、かたじけなさに涙こぼるる。

その時、王子の声が響いた。


「アルテミシア!」


「だから、呼び捨てにしないでくれませんか、って言いましたよね」


クラレンス様が冷たく答える


「細けえ男だな!アルテミシアだけでもこっちは十分譲歩してるんだよ!」


王子がまた剣呑な雰囲気で答える。


「オマエが………外に出たって聞いて。………大丈夫なのか?」


「うん、大丈夫。デパ…………クラレンス様が一緒だし」


「ふうん、そうなの」


王子がまたミルク粥を食べられなかった時の表情を浮かべたけれど、今食べ物は何の関わりもない。


「まあいいや。早く元気になってオレを助けて。紙とペンの仕事はマジ消耗する」


ああ、紙とペンかあ………と私も遠い目になる。

それはさぞかし大変だろう。

早く体力回復して、サポートしなきゃな、と私は思った。





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