王子はご機嫌斜め
「馬車を用意させるから、侯爵家のタウンハウスに向かうよ。オレも一緒に行くから」
王子が言った。
え?王子が一緒に来るの?それは大仰だろうに。
「いえ、俺が同道します。王太子殿下がご一緒ではファーレンハイトのご夫妻も落ち着かないでしょう」
あのねえ!と王子が声を上げた。
「事故の時、オレはアルテを庇い切れなかった。だから今こんな事になってるだろ!?オレが一緒に行って頭を下げるのが筋ってもんだろ!」
いやだがしかし、と私は考えた。
記憶が曖昧な私達2人が揃って、あー、すみません、と王子が謝り、私がちょっと記憶が色々で、とへらへらされても、そりゃあ相手も困るだろう。困るだろうし、何しろ私達は2人ともファーレンハイト侯爵夫妻、と言う方々に面識一つない。情報も何もない。
「あの………良いですか?」
私はおずおずと声を上げた。
「その、両親は、娘が上司と一緒に現れて、しかも自分達より位の高い上司に頭を下げられるよりも、婚約者と和気藹々と登場した方が………安心、するんじゃないでしょうか」
デパコスは、当然ファーレンハイトとやらと面識があるに違いない。それに、何を着ていくか、どういう装いが叶っているのか、王子に聞いても分かる訳がない。
「………ふうん、そう」
分かった、と王子が不機嫌そうに言った。
「…………ニヤケてんじゃねえよ!」
と、今度は何故かデパコスに絡む。
「ニヤケていましたか?それは失礼。アルテミシア嬢が………貴方より俺を頼ってくれたのは初めてかな、と考えたらつい」
「オマエ………大概性格悪いよな」
そうですか?とデパコスが首を傾げた。
「多分……アルテミシア嬢に関わる事だけですよ」
何だか空気が重い。ここで2人が言い合っている時間などないのだ。
「クラレンス様!色々ご相談があります!王子は…………」
ちょっとすっこんでろよ、と視線を飛ばす。
「あー、はいはい。分かりましたよ。どうせオレは役に立たないですよね。まあ、婚約者様との睦まじさを見せつければファーレンハイトも安心するでしょうね」
何だか吐き捨てるように言って王子が部屋を出て行った。
「………早速ですが、ご相談が」
何でしょう、とデパコスがうっとりする様な微笑みを浮かべて返事を返す。
「何、着て行ったらいいんでしょうか。ここには普段着と………夜会で着ていたというドレスしかありません」
「ご家族に会うのですから、平服で構わないと思いますよ」
そう言ってデパコスは私のクローゼットを開いた。
「こちらは、平服とは言っても若干格式の高い仕上がりになっています。これで十分だと思います。アクセサリーは…………正装ではありませんから、イヤリング程度で」
いや全く的確なご指示ありがとうございます。
「王太子殿下が馬車を用意した、と仰っていましたね。まさか厩に戻すような子供じみた真似はしないと思いますが、確認して来ますのでその間に支度を」
やがて支度も整い、デパコスにエスコートされるがままに、私は馬車に乗り込んだ。
「あのう……………ファーレンハイト侯爵のご夫妻と言うのは、どんな方々なんでしょうか」
………そうですね、とデパコスが宙を仰いだ。
「………いい方達ですよ。悪く言えば、毒にも薬にもならない。だから…………俺は貴女との見合い話が出た時に、いいんじゃなでしょうか、と答えたんだと思います」
「………クラレンス様、は」
何だか無性に息苦しくなって尋ねた。
「……………毒にも薬にもならないようなご令嬢が好み、だったんですか?」
まさか!とデパコスが馬車の肘掛けを打った。
「そうだったら、俺は今こんなに苦しんでいません。貴女に…………近づきたい。貴女に…………触れたい。貴女に、唯一無二だと思って欲しい。そんな、私欲まみれの俺を…………貴女は受け入れてくれますか?」
いや、王都の中のタウンハウス。
もう直ぐ今の両親に会うというタイミングで、何というドキドキを炸裂させるのか、この男は。
「貴方は…………こんな私でも好きだと思って下さっているのですね」
漸く声を絞り出す。
「………‥今の貴女が好きです」
顔から火が吹いた。
今日もぜえぜえはあはあです




