表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子と私とデパコスと  作者: えるぜ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/13

ダンスのお時間です

「正直、目覚めてからの1週間は、心ここに在らず、という印象で、もうずっとこのままなのかと不安にも感じていた。それが、アルテミシア嬢が目覚めた日から表情がどんどん豊かになって。今日はこうやって政務まで手伝って貰った。ユリウスを…………支えてくれた事、感謝の念に耐えない」


へえ、王子ってユリウス、って名前だったんだ。そりゃあ王太子様を名前呼びするのなんて、両親か婚約者くらいだろうし、と私は思った。


「2人とも、記憶の混濁がまだ続いていると聞いた。お互い不安な事もあるだろうけれど、これからも支え合ってくれたら嬉しい」


穏やかに続ける。


「それにしても、ファーレンハイトもとんだ隠し玉を持っていた物だ」


そう言って国王陛下は微笑んだ。


「いや、気付けなかった我々の失態だが、残念だったなユリウス」


なんだかちょっと悪そうに笑う。


「………………諦めたらそこで試合終了ですから」


ほ?と国王陛下の笑みが深くなる。


「けだし名言だな」


「そりゃあ『名言』ですから」


何が残念で何でバスケの話になっているのかさっぱりわからない。

その時、デパコスが不機嫌そうに髪をかき上げた。上着の袖が少し下がってお揃いのカフスボタンが見える。


「だからあざといんだよ!オマエは!」


王子が呟いた。

まあ確かに私も恥ずかしいのでそういう仕草は辞めて欲しい。


「……………エインズワースとの仲も良好なようで、何よりだな」


王様、目が笑って無いです。


「その宝石は、誂えたのか?」


王様の問いにデパコスが笑って答えた。


「ええ、社交シーズンも間もなく終わりですから、最後の夜会くらいはアルテミシア嬢と一緒に参加したいと思い、急拵えさせた物ですが………間に合って良かったです」


「そうか。ユリウス、ファーストダンスはエインズワースに譲るとしても、2番目くらいには選んで貰えると良いな。ただし、永遠に2番手でいるつもりならこちらにも別の考えがある」


「御意」


王子が右手を胸に当てて軽く頭を下げる……………

という展開と不穏な空気が広がっていたが、私はそれどころではなかった。

ダンス!?

ダンスだとお!?

自慢じゃないが、生まれてこの方マイムマイムとオクラホマミキサーしか踊った事がない私が、夜会で踊る…………だと?


「…………大丈夫ですか?顔色が悪い」


デパコスが気を使って言ってくれた。


「これはすまなかった。急に夜遅くの呼び出しをして、まだ貴嬢の体調を考えていなかった。…………今日はこれで。過保護な父親の失礼を許して欲しい」


王様の私室から3人で辞去する。

しかし私は足が震えて、足取りがもつれてしまった。


「アルテ、大丈夫?」


王子が心配そうに腕を貸してくれようとしたけれど、私は引っ張られるようにデパコスに腕を取られ、抱き込まれるように支えられた。


「…………王太子殿下、こういう事は俺の役目ですから」


出しゃばらないで下さいオーラ満々である。

いや、それよりも。


「王子…………ダンスってした事ある?」


「いや、全然」


あっけらかんと答える。


「え、それで何にも考えないの!?人前で踊るとか、何の拷問よ!」


何とかなるっしょ、と笑い飛ばす有様である。


「だってオレ、運動神経良いもん。この体がどうかは分かんないけどさ、小さい頃から習ってるだろうし。オマエらのファーストダンス?とか見れば大体の流れはねえ、大丈夫だと思うよ」


そうだった。

世の中には、一度見たフリが直ぐに頭の中に入って再現出来る人間がいる。かつて何故か出て来たオススメ動画で、そういうお兄さんお姉さんを見てひっくり返ったものだ。

ものだ、が。

こちとら、オクラホマミキサーですら、漸く体が覚える頃には一曲が終了して、次に踊る1年後には丸っと忘れている、自分で言うのも情け無い『どんくさい』派である。


「……………ダンスが不安なんですか?やはり、踊った記憶もない、と」


デパコスが私の顔を覗き込むように聞いて来る。

近い、顔が。

身長差がかなりあるのでこんなふうに好みドストライクの顔が近くなるのは珍しい。だが、動悸がどきどきしている場合ではない。


「はい。全く…………記憶がありません」


そう答えると、デパコスがにっこりと笑った。


「ではしばらく、散歩の時間をダンスのレッスンに当てましょう」


断る理由は全くない。渡に船状態である。


「………………宜しくお願い致します」


と言う流れからのダンスレッスンが始まったのだが、最初のボックスステップですら私は踏めなかった。


「あの…………王太子殿下の言葉を借りるのは少々癪ですが、もう少し、体が何かを覚えていませんか?」


デパコスがへのへのもへじのような表情を浮かべている。

あのねえ!

と私はデパコスを睨んだ。

大体、日本人のDNAと3拍子ってのは合わないの!

アンタがそのまま日本人になって炭坑節踊れ、って言われても踊れないでしょ!?

悪いけど、私、炭坑節なら体が覚えていて『国宝』並に踊れるわ!


「………3拍子はちょっと」


そう答えると、デパコスは、5拍子の曲もありますよ、と恐ろしい事を言った。

5拍子ってなんぞ。ぶんちっち、ちち、ぶんちっち、ちちで踊れってか!?


「大体!リードが上手ければ上手に踊れるってのはお約束じゃないですか!」


「………そうですか」


デパコスの瞳が胡乱げに瞬いた。


「では、俺がずっと貴女を抱えて踊ります。爪先が床に着いたらそこで足を降ろして下さい。完璧なステップになる場所に誘導します」


その日1日、デパコスの腕で腰を抱えられ、宙を舞っていた私は、真剣にステップを覚えようと誓った。

読んで下さってありがとうございます^_^

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ